第12話 立場
「――は? お前、何言ってんだ?」
目覚めたいつなの第一声が、これだった。
彼が目覚めた頃にはもう昼時になっていて、やはり疲れていたんだなぁと璃羽がしみじみ思っている一方で、いつなが目くじらを立てて怒鳴り声をあげる。
「俺がいない間にそんな大事なこと、勝手に決めんな! だいたい襲ってきたってどういうことなんだよ!」
「落ち着けって。嶺鷹がいてくれたから大したことなかったし、な?」
「な、じゃねぇよ!」
いつなが怒っている理由は、目覚めて早々に璃羽から聞かされた発言が原因だった。
襲ってきた忍が住む、忍びの里という所に行きたい――璃羽は突然いつなに言い放ったのだ。
いつなにとっては、全く現状が分からないし、なぜそうなったかも分からない。
いつも突拍子もない彼女の性格を考えれば、彼女らしいとも言えるが、流石のいつなでもたまったものではない。
「そもそもお前は明日、討伐隊についていくんだろ? 行ける訳ねぇだろうが」
「でも翠はいいって言ってくれたぞ」
「何でだよっ!」
襲撃の一件を報告しに行くついでに、璃羽は翠にも胸の内を明かしていたのだ。
忍びの里に腕の立つ者が多いのならば、協力して彼らの里から早急に妖魔を討伐し、その後で今度は彼らの力を借りられないかと。
けれど、それを話してもいつなの気はおさまらない。
「それが上手くいくなら、とっくにやってるだろっ。やらねぇってことは、それだけ里に現れた妖魔は手強いってことだろうよ」
「う……」
「確かにその通りだ。里の報告では、どんなに傷を負わせても倒れない妖魔が複数体出現し、大して強くはないものの現在里に入れないよう食い止めるので精一杯らしい。仮に隊を送ったとしても、倒れないというなら手こずるのは必至、長引けば新たに別の場所で妖魔が出現した場合、対処できなくなる」
いつなの言い分に、嶺鷹がもっともだと言わんばかりに口を開いた。しかし。
「だが……長がな……」
「?」
嶺鷹が翠の言葉を思い起こす。
“龍姫がむかうのだ、劣勢を打開するきっかけになるやもしれんぞ”
「そう言ってな」
「……安直な。そんなのが国のトップでいいのか?」
嶺鷹から翠の返答を聞く否や、いつなが呆れるようなため息をついた。
その為の龍姫なのだからと言われればそれまでだが、だからと言って少し前まで、むざむざ死なせはせん、と言っていたのだ。
璃羽に何かあったらどうするつもりなんだ、といつなは心の中で悪態をついた。
「そういえば、さ」
そんな時、璃羽がそっと口を挟む。
「ずっと気になってたんだけど、翠が国のトップなら、長が一番偉い地位ってことなのか?」
不思議そうな顔で彼女は訊ねた。
村や町のトップが長と呼ばれるのならしっくりくるが、国となれば、王や大統領などと呼ばれるイメージを璃羽は持っていた。
ただの偏見ではあるのだが。
「そうだな……最も高い位というのであれば、長が一番ではない。この国でも一応は王位はある。しかしこの国での王は――龍であるといわれている」
「龍? いわれているって?」
嶺鷹の言葉に、璃羽といつなは顔を見合わせる。
「これも伝承として語られていることだ。この国は龍によって守られ、龍が最も尊い存在であると。我々にとって龍は絶対、そして、この国の王――龍は……」
――コンコン
その時、嶺鷹の話を遮るように、扉をノックする音が響いた。
嶺鷹が返事をすると、扉が開かれ兵の一人が入ってくる。
「嶺鷹様、明日の討伐のことで、急ぎ確認して頂きたいことが」
「そうか。すぐ行く」
その言葉に兵が静かに戻っていくと、嶺鷹は少し申し訳なさそうに璃羽へ向き直った。
「姫、私は少々失礼する。明日のことはまた後程」
「あぁ、分かった」
嶺鷹は璃羽に軽く会釈すると、颯爽と部屋を出ていく。
取り残されたように、璃羽たちはそんな彼を見送った。
「忙しそうだな。……あいつ、明日の討伐を指揮する予定だったのに、私につくことになったから、後任の引き継ぎでバタバタしてるんだ。……悪いことしちゃったな」
「そう思うなら、里に行くのをやめろ」
「嫌だ」
「なら堂々としてろ。龍姫なんだろ?」
「……龍は絶対、か。信じてる者は少ないのにな」
「……」
璃羽といつなは、嫌な予感を感じて再び顔を見合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます