第77話

 朝8時30分を過ぎたくらいで俺は目が覚めた。ベッドから出ようとすると、とてつもない寒さが俺の体を襲ってきたので、すぐにベッドに戻って、また横になってしまう。


 しかし、人間の体とは不思議なものだ寒いので、ベッドから出たくないのにトイレには行きたい。

 しかし、トイレに行かず、ここで用を足せばいいんじゃないかとも考える。


 朝だから寝ぼけているのかもしれない。普段だったら絶対そんなことは思わないのに。


 結局ベッドから出て用を足したあと、ベッドに戻ったらまた同じだと感じ、俺はリビングに向かった。


 朝ご飯は食パンにチーズを乗せてマヨネーズをかけたものをオーブントースターで焼いたものだ。

 これだけでも十分美味しいし俺にとってはご馳走だ。


 それを野菜ジュースと一緒に食べるのがまたいい。


「雄星・・・・・・あんた、そわそわしすぎじゃない?」

「な、なんのこと?」

「彼女がくるからそわそわするのはわかるけど、ご飯食べてる時までされると、ご飯に集中できないわよ!」

「んゔんっ!」


 母さんからいきなり彼女とか言われるから、むせてしまった。


 母さんの言う通り、俺は今日そわそわしている。彼女が家に来る。しかも泊まりに来る。それなのにそわそわしない男がどこにいるだろうか。


「そわそわ、してるのはごめん・・・・・・」

「早くご飯食べちゃいなさい」

「うん」


 俺はそう言って、パンを頬張る。


「ごちそうさまでした」


 俺はご飯を食べ終わったあと、スマホを見たり動画を見たりアニメを見たりしたが、まったく集中ができなかった。


 いつ、綾乃と夏乃がくるのかドキドキしていたからだ。

 どこかで事故に遭ってたり、道に迷ってたりなんて悪いことしか考えていなかった。


 不安になり、カーテンを少しだけ開けてチラチラと外を見たりしてしまう。

 感覚というと友達が自分の家に遊びに来る時にそわそわしてしまう時のアレだ。


 そんなことを考えていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。


 玄関から出てみると、配達員のお兄さんだった。


 母さんが頼んでいた美容器具だろうか、それを受け取り、玄関に置く俺はそれだけでもいつもの何倍も疲れた。


「母さん、なんか届いたけどー?」

「あぁっ!!それ、最近頼んだ小顔マッサージ器」

「いや、使うの?」

「失礼ねっ!使うわよ!」

「前の腹筋鍛えるやつだって使ってないのに?」

「あれは、お腹が筋肉痛だから今はやってないだけですぅ〜ちゃんとやってました〜」


 そんなことを言って、どうせこの小顔なんたらも1週間もしない内に、使わなくなるのか・・・・・・そう思っていた。


「使わなくなったらお姉ちゃんにあげるから、だいじょうV!」


 母さんが、ピースしながらウインクを俺にしてきた。

 自分の母親がこんなことをするとは思っていなかったので、鳥肌がすごかった。


「今のお母さん、ちょっと可愛くなかった?!」


 自分で言う時点で終わりな気がするが、なにか反応しなくちゃいけないような気がしていたので、首を縦に振った。


「は、はい。そうですね・・・」

「冗談よ・・・・・・」


 あんなに、ふざけた感じだったのに、いきなり我に帰ったのか、よくわからないが声のトーンが下がった。


「そこにいつまでも座られると邪魔だから、どいてどいて」

「息子のことを足でどかそうとするな!」

「うるさいわね〜」


 そこでもう一度ピンパーンとインターホンが鳴る。

 次は誰だ?また母さんが頼んだ通販サイトで買った商品か?


 なんて思いつつ「はい」と少し機嫌が悪そうに出ると、玄関の先に居たのは、綾乃と夏乃だった。


「ごめんっ。今大丈夫?」

「だ、大丈夫!大丈夫!」

「よっ黒田」

「お、おう・・・・・・」


 俺はそう言って、2人をリビングに通す。すると母さんが、俺の腕を掴んで廊下に連れ出した。


「なによ!あの子!すごく美人じゃない!」

「だから言ってたろ可愛いって」

「言ってないわよ!もしかして・・・・・・今流行りのレンタル彼女とかそういう系?」

「そんなわけねーだろ!」


 母さんは俺の顔をジロジロ見て、俺のことを完全に疑ってる様子だった。


「綾乃さん?本当にあの子でいいの?」

「え?あ!お付き合いの件ですか?」

「そうそう!そのお付き合いの件」

「今は雄星くん以上にいい人いませんよ」

「あははっ!自分の息子が褒められると、なんか変な感じだね〜」


 母さんは「お茶持ってくるね」と言って、スタスタとキッチンに向かい、お茶を出したあと、また俺を廊下に連れだした。


「なにあの子、めっちゃいい子なんだけど」

「前にも言ったろ?いい子だって」

「言ってないわよ!」

「言ったよ」

「こうなったら・・・・・・本当に付き合ってるのか、確かめてやるわ・・・・・・ヒッヒッヒッ」

「怖いよ、母さん・・・・・・」


 魔女みたいな笑い方で、綾乃の方に向かっていった、母さんを俺は止めることが出来なかった。

 いや、止めることすらしなかった。止めたところで通用しないとわかっていたからだ。


 母さんがなにをするのか、予想がつかないが失礼なことだけはしないでくれと俺は祈っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る