第16話 カフェシエル

 早くに朝食を済ませ、地下へ転移し昨日の続きに取り掛かった。



 昼頃に、アイリスさんが訪れた時には顎が外れるんじゃないかってくらい開いて固まっていた。


 店自体は出来ており後は内装となっているのを見ると、驚き様も納得だが、時間が惜しいから用件を伝えて欲しい……。


 「はっ! そうじゃ、パン用の王家御用達を回収したから、渡そうと思ってな」


 「ありがとうございます」


 「昨日今日で、もう完成とは随分早いのう」


 「後は内装と調理器具や小物の設置をすれば、明日にでも開店出来ます」


 「あと、アイリスさんにお願いがあって……接客をしてくれる女性が二人程いれば有難いんですが」


 「落ち着いた店の雰囲気に合う従業員じゃな。 いたら連れてくるわい」


 「その時は是非、何か食べていってください」



 アイリスさんはギルドの方へ歩いていき、僕は内装に取り掛かった。

 日が沈みかける頃には理想のカフェが完成し、明日開店出来る様になったので、転移した。






 翌朝…


 大量のロールパンと食パンを用意し、アイテムボックス内に収納。

 メイド型オートマタのマリナと一緒に、カフェシエルへ設置した転移門を使い移動。

 マリナには持ち帰り用カウンターと会計の両方を担当してもらい、僕はカフェシエルのカウンターで調理と接客を行う。


 初日はこれで乗り切る!


 と意気込んで開店の為扉を開けるとーー







 ガジャーノ陛下が馬車を背に立っていた。




 え?!ずっと待ってたの?!


 驚きつつ挨拶をしようと口を開けかけると、陛下が素早く手で制した。


 「突然来てすまなかった。ガッツリと周囲の者に王である事がバレておる故、店内に入って良いか」


 「あ、はい。 どうぞ」


 「ほう、随分広いな。 おやそちらの方は、『神の島』で会ったメイドではないか?」


 「お久しぶりでございます。 メイド型オートマタのマリナと申します。 従業員がいない為、マスターに駆り出されております」


 「好かれておるな、マスター?」


 「ええ、有難いです。 せっかくですから、何か食べていかれますか? ケーキ類の菓子や軽食、パンの持ち帰りもしています。」


 「では、噂のパンと何か軽いものそれと、ディンブーを貰おうか」


 陛下はカウンターの席へ座りながら答えた。


 ディンブーのストレートをカップに注ぎ、陛下の前へ。

 食パンの耳を切りサンドイッチを作っていると、カランと扉が開く音が店内に響く。

 チラリと目を向けるとアイリスさんと、女の子がこちらへ向かって来た。


 「ガジャーノ陛下が、カフェシエルで朝食ですかな?」


 「どちらかと言うと軽食だな。 そちらのお嬢さんは?」


 「お、お初にお目にかかります陛下。 平民のリアと申します」


 「酒場の雰囲気に合わずクビになったところを、わしがさっき拾ったんじゃ。 まあ多少は賑やかになるがリアなら上手くこなせるだろうとな」


 「陛下、こちらサンドイッチとラスクになります。 あと、紅茶のおかわりを」


 「うむ、では早速……」

 「おぉ!!」


 食べた瞬間、目をカッと開きゆっくりと咀嚼そしゃくし飲み込んだ。



 「これは……パンの歴史が変わるぞ」

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