第9話 浮遊城侵入者
神の島。
一年前の今日の様に少し曇った日。
遥か上空から雲を突き抜け太い光の柱が海のど真ん中に落ちた。
大陸中の人々が目を見張る中、その島はゆっくりとその姿を現した。
逆三角形の島の一部が雲を突き破ったのだ。
その巨大さゆえに多くの者が目にし、口々に「神の島」「謎の島」と話を交わした。
『神の島』という表現が定着し認識され誰も接触出来ずに、世界各地の神獣が消え、一年が過ぎた。
『神の島』は特に何かをする訳でもなく、ただ変わらず上空にあった。
島の上部は雲があり、見えない。 故に様子をうかがい知ることが出来ないでいた。
唯一帝国が、飛行魔術の精鋭を集いて雲を抜け、島に上陸しようとしたが、見えない結界に阻まれたと伝え聞いた。
今日俺たち冒険者、Sランクパーティは浮遊城へ行く。
ガジャーノ陛下から、疾風パーティへの指名依頼だ。
玉座の陛下と横に立つ宰相と護衛の騎士団長、そして俺たち疾風五人の計八人しかここには、いない。
指名依頼の成功でも失敗でも報告する様に言われ、可能なら面会を取り付けてほしいと言われた。
そして俺たちは国宝の、空飛ぶ絨毯に乗り『神の島』へ向かった。
◇
「……こ、これが」
「凄い……」
「キレイな森……」
「……ハハハ! 遂に来た! 龍を殺し、鱗を持ち帰れば……」
分厚い雲を抜けると目の前には大地があった。
いや、これは島だ。
と自分に言い聞かせなければならない程、巨大な大地。
底の見えない深い青の湖。
巨木を中心に広がる森。
レッドドラゴンの親子が空を飛び、遠くで草原を走る白い魔物が微かに見える。
「よ、よし。 慎重に進めるぞ」
パーティリーダーの俺が空飛ぶ絨毯の舵を取っている。
島を守る結界は見えないが、まぁ結界があるんだろう。
見えないだけで。
島の左側に位置する森側の端に着き大地に降りる為、絨毯を進ませたが最後尾の欲深い魔法使いドーラが、悲鳴を上げた事で俺たちは振り向き、気づくことが出来た。
ドーラの身体が、絨毯が前に進む事に後ろへ徐々に下がっている……いやこれはもしかしたら、結界に何らかの理由で阻まれているのかも知れない!
慌ててドーラの近くの僧侶ブルガが手を伸ばすも、掴もうとした手が空を切りドーラは絨毯から、真っ逆さまに落ちていった。
助けようと手を伸ばすも一歩遅かったブルガは、俯き肩を震わせている。
職業柄、死は身近にあると言ってもこんな形で呆気なく終わるとは予想していなかった。
やや時間がかかったが落ち着いて来た俺たち4人は、改めて『神の島』の大地に降り立った。
絨毯はマジックポーチに収納。
後ろを向けば雲の上とわかるが、前を見ると、どこにでもありそうな森の入口にしか見えない。
剣士の俺、女性シーフのパスク、女性僧侶のブルガ、女性エルフで弓使いのシュリーの順で歩を進める。
「ねえ、この森おかしくない?」
突然、パスクが話しかけてきて俺も思っていた疑問を、言った。
「島に降り立つ前の目視ではそこまで広くはなかったハズだ」
ガサッ
五メートル程先の茂みが揺れ出てきたのは、白い毛並みのワーウルフだった。
『我らの住まう島と知っての侵入か!』
俺たちはお互いに顔を見合わせた。
頭に直接響く様な声に戸惑った。
十中八九、ワーウルフからの思念伝達だと思う。
「ワーウルフが思念伝達?」
「ジャック……ワーウルフじゃないわ……フェンリルよ」
「え?!」
『答えろ、侵入者ども! 何しに我らの安寧を壊しに来た!』
「こ、ここにはファジール王国国王陛下からの調査依頼で来ました」
『貴様らは調査依頼だと理由を付けて勝手に侵入するのが、当たり前だと言うのか? 断りを入れ、許可が下りてから足を踏み入れるべきだ!』
『去れ!』
「ジャック……今日は引きましょう……」
『許可無く二度と足を踏み入れるな!』
フェンリルはそう言い放ち、森の奥に姿を消した。
俺たちは来た道を戻り、ポーチから出した絨毯に乗り、自国へと帰った。
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