バクティー・ストーリー
あきたけ
第1話 「一瞬の出来事」
体育教師から右頬を殴られた。鈍い音が教室に響き渡って、クラスメイトたちは黙り込み、そして辺りは静まり返った。
殴られた衝撃で俺は体勢を崩した。痛みが顔に走る。倒れかけたが、寸前で耐えきった。すかさず反撃に出ようか迷う。
アイツを、今すぐアイツをぶん殴ってやるんだ。
俺は決意し、拳を固く握りしめた。
「やっちまえ!」
親友のアオヤギが俺を応援している。
教室の窓からは、金木犀の香りを含んだ秋風が流れ込んできて、桃色のカーテンを揺らしている。
あのやろう、女子に向かって「生理は甘え」とか言いやがって、
前々から理不尽なことを言う横暴な教師だと思っていたが、もう限界だ。進学とか、単位とかどうでもいい。いま、この瞬間、一撃を喰らわしてやる!
「大人ナメてんじゃねぇ!」
大口を開けて唾液を飛ばしながら怒鳴る教師の顔面に向かって、俺は渾身の一撃を放った。
バキッ!!
拳に確かな手応えを感じた。ああ、これで俺は退学か、もしくは少年院か。
どちらにせよ人生が詰んだ可能性がある。ならば行くところまで行ってやろう。
追加でもう一打を浴びせる。
今度は、体育教師の口から、白いモノが飛んできた。
「あ、歯だ」
正直、そこまでやるつもりはなかった。しかし、起こってしまったものは仕方ない。
目の前の教師の顔面は流血し、見るも無残な顔になっている。
やべぇ、やっちまった。
クラスの女の子達は、悲鳴とも歓声ともつかない声をあげている。
男子は歓喜しているようであった。
しかし、その中で一人、過呼吸の発作を起こしている女子がいた。顔を真っ青にして、息を荒げている。
「真理ちゃん、ゴメン!!」
俺は彼女に謝りつつ、教室から逃げることを決意した。
既に騒ぎを聞きつけた他クラスの生徒数人が廊下で野次馬をしている。それでもお構いなく、教室のドアを開けて、俺は逃げ出そうとする。
その時、誰かに手をつかまれた。真理ちゃんだった。彼女は俺に助けを求めるような目付きをしていた。
俺のせいで教室がパニックになり、真理ちゃんは過呼吸になってしまったのに、その当事者の俺に助けを求めるのは、何か理由があるのだろうか。正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「立てる?」
と、俺が聞くと、彼女は首を縦に降る。
「じゃあ、行こうか。こんな教室から飛び出してやろうぜ」
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