誰よりも特別な普通なあなた
ネルシア
誰よりも特別な普通なあなた
小学生の頃はみんな仲が良かったのになんで中学生になるとこんなにも面倒くさくなるんだろうか。
私は幸か不幸かクラスで一番騒げるグループに入れた。
でも、それ以外は私たちの顔色を伺う子たちばかり。
流行りの物やアニメやユーチューバーや化粧品やインスタグラムやツイッターの話を合わせる。
疲れる。
勉強はそこそこしている。
別に嫌いではない。
授業を受け、休み時間は話題を共有し、チャイムが鳴ったら帰る。
部活はやっていない。
両親は共働きで、今日も遅くなるとのこと。
教室には掃除をする班が残っていた。
・・・まぁ男子はどっかに行っちゃってるけど。
女の子は3人だった。
2人は話してサボっている。
1人はちゃんとほうきで教室を掃き、ごみを集め、机を奇麗な布を水で濡らして拭いていた。
なんの文句もなしに。
2人の女の子はなんの感謝もなく、その子を残し、先にどこかへ行ってしまった。
その子は1人教室に残り、黒板に残っている授業に使った文章を消していく。
黙々と。
掃除の全ての工程が終わり、ふぅ、溜息をつくと帰る用意をし始めた。
「なんで手伝ってって言わなかったの?」
私の声にびっくりした後に困惑した様子で答える。
「私なんかが言ったって睨まれて終わりだから。」
落ち着いた声だった。
慣れだ。
憶測でなく、今までの経験からの発言。
「そっか。」
「てか、ずっと見てたの?」
「まぁね。」
「変なの。」
「まぁ・・・ね・・・。」
「じゃ、さよなら。」
「うん。」
何事もない。
互いに他人だと理解しているやり取りを終え、家に帰る。
「1人で寂しくないのかなぁ・・・。」
あの子のことを思い浮かべる。
別に特別可愛いわけでも、特別勉強ができる噂もない。
ただ、誰もやりたがらないことをあれだけ真面目に取り組めるのは素直に尊敬する。
「私には無理だなぁ。」
自分の部屋で勉強している途中でも考えてしまう。
誰にも興味を持たれず、周りも協力してくれずに自分だけで黙々と文句を言わず、やるべきことをやる。
「掃除」という当たり前のことを嫌がらずに当たり前にやる。
あの黒板を消す姿がどうしても脳裏から離れなないまま、寝ることにした。
次の日、その週はその班が担当するため、同じ光景が流れる。
男子はおらず、女子2人はさぼり、その子だけが丁寧に掃除している。
掃除の終わり際に話しかけられる。
「また見てたの?」
「まぁね。」
「面白い?」
「うーん・・・美しい・・・?」
ふふっとその人が軽く笑う。
トクンと胸が弾む。
「何それ。」
「あ~、いや、忘れて。。。」
恥ずかしくなり、誤魔化す様にこれから塾があるから、と、家に帰る。
「あの笑顔はずるいよぉ~」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁと頭を抱える。
次の日、またその子の掃除する様子を観察する。
「今日もありがとう。」
「当たり前のことをしてるだけだよ?
感謝されるようなことしてないよ?」
「あー、うん、でも私にはできないからせめて気持ちだけでもって思って。」
突然、手を握られる。
「ありがと。」
それだけ言うと、手を放し、今までにない仲のいい人に向けるような笑顔で、「またね」と言われる。
夕日が差し込み、ヒグラシの鳴き声が遠くから聞こえる教室で、何よりも真っ赤な耳になっていたに違いない。
朝起きて学校に行こうと思ったけど、考えたら土曜日だった。
「会えないのつら。」
ただそう思った。
迎える月曜日。
グループに囲まれはするが、その子から目が離せない。
ぼーっと外を見ているその姿さえうっとりしてしまう。
「ちょっと、聞いてるの?」
その子を見ていたのに、視線を遮られ、イラっとする。
「聞いてるよ。」
話を合わせられる自分が怖い。
その日の放課後、当然のように誘われる。
「掃除なんてサボってスタバ行こうよ。新作美味しいんだって。」
「あ、いや、私は良いや。」
「え~、あぁそう?」
「わかった、じゃぁね。」
「え、おいてくの?」
「仕方ないでしょ。結局誰か掃除しなきゃだし。」
「それもそっか。じゃぁね。」
おう、あっさりと見限るなぁ、おい。
ほうきを取りだし、教室の隅から隅まで丁寧に掃く。
ちりとりでそのごみを集め、ごみ箱へ捨てる。
机を濡れた布巾で1つ1つ丁寧に拭いていく。
そして黒板を奇麗にし、黒板消しを機械で汚れを吸い込ませる。
「疲れた・・・。」
「お疲れ様。」
急に声をかけられて驚く。
あの子がそこにいた。
「見てたの?」
「まぁね。」
「毎日こんなことやってたんだね・・・。」
「なんてことないよ。」
「いや、すごいことだよ。」
「ま、そんなこより頑張った人にはご褒美上げないとね。」
「それってな」
唇にやわらかい感触。
思考が吹き飛ぶ。
あの子の唇が私の唇と重なっている。
一旦、その子が唇を離す。
「付き合う?」
「うん。」
そしてまた熱く、激しい口付けを交わす。
FIN.
誰よりも特別な普通なあなた ネルシア @rurine
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