間話 皇帝の真意


皇帝のみが使うことを許されている執務室。そこには現在、皇帝グロリアス・フォン・ヴェルダンに対して、6騎将の一人であり王妃である「紅姫」ソフィア・フォン、ヴェルダンが皇帝の真意を聞き出そうとしていた。


「それでリア、どうして突然皇帝の座を降りるなんて言い出したの?!普段の貴方なら自ら先陣を切って王国へ向かう筈なのに?」


不機嫌な表情をしているソフィアの質問に対して、グロリアスはため息を吐きながら答える。


「はぁ……君はなんでそう、いつも騒々しいんだろうか全く。その話ならさっきも言った通り、今回の責任をとって退位するだけだよ」


謁見の間の時とは違い、優しい口調で喋るグロリアスに対してソフィアは強い口調で


「嘘ですね!王国からの書状に退位せよとは書かれてありませんでしたし、そもそも、わたくしの惚れたリアはそんな弱腰の男ではありません!!」


と言ってソフィアはグロリアスを睨む。

実際、王国からの書状には皇帝の退位に関しては書かれていない。その代わり、捕虜の返還を望むならば皇帝が何かしらの誠意を見せろと書かれていたのだ。


「今回に関しては致し方あるまい。ワタシとて不本意だが、王国が愚息ライナーを捕虜にしている以上、こちらとしても無下に出来んさ」


グロリアスが仕方無いと言う表情をしながら言うと、ソフィアは腕を組みながら


「ふーん、どうやってもしらを切るつもりなんですねリア!それならば何故、亡命したメリッサに手紙を送ったのですか?それも態々ドラクルに届けさせるなんて、脅しをかけてまで?」


ソフィアの言うドラクルとは、6騎将の1人で皇帝直属の隠密部隊「影」の頭目であり、狙われたら確実に殺される事から「死神」の二つ名を持つ暗殺者である。(ちなみに、グラスの一番弟子)




「ふはははは!!流石はソフィアと言った所だな!お前の言う通りだよソフィア、責任を取ると言うのはあくまで建前で本当の理由は別にある」


「それはメリッサに手紙を送った事と関係あるんでしょ?」


「ああ『影』の報告によると、メリッサの住むテッサリアと呼ばれる街で魔族が出現したらしい。それも低位魔族などでは無く、高位魔族だそうだ」


グロリアスからの報告にソフィアは声を上げる。


「何ですって?!本当なのですか?もしそうなら、既に王国中がパニックに陥っている筈ですが?」


「間違い無いそうだ。ただ、その高位魔族はすぐに反応が消えてしまった様で、追跡はおろか生死すら分からず仕舞いだそうだ」


「それでメリッサを呼んで詳しく話を聞こうと言う訳なのですね。ですが、それとリアが退位する事に関係はない……!!まさかリア、貴方が退位する本当の理由って!」


「お察しの通りだソフィア。ワタシはこの呪いをかけたあの魔王を殺すつもりでいる」


グロリアスが人族でありながらも、150年以上歳を取らず生きていられる理由、それは120年前に怠惰の魔王より受けた呪いが原因であった。



「でも、仮に魔王を倒したとしても呪いが解けたらリアが死んでしまうではありませんか!」


ソフィアは悲しそうな表情で質問をする。

自分の夫が死んでしまうかも知れない事態に、ソフィアは思わず口に出してしまった。

それほどまでに、ソフィアはグロリアスを愛しているのだ。


そんなソフィアにグロリアスは


「ワタシはもう疲れたんだソフィア。第一皇女ルージュ第二皇女ローズマリー、そして第三王妃ルビーの3人もとうの昔に死に、残っているのはお前達エルフの血を引く者達だけとなってしまっが、第一皇子ジーク第二皇子バロンも育ち、もうワタシが居なくてもこの国を任せる事が出来ると判断したんだ」


「たしかに2人の皇子は立派に育ちましたが、それでもリアにはまだまだ劣ります!それに、ムサシが死に6騎将の席がまだ空席の状態ですし、出来ればそれまではリアに皇帝を続けて貰いたいのですが、ダメでしょうか?」



と、ソフィアは懇願するが


「悪いなソフィア、もう決めた事だから!」


グロリアスは断る。

するとソフィアは唇を噛みながら


「……そう、ですか。分かりましたリア、それならわたくしにも考えがございます!」


と言って、腰に下げている剣を抜いてグロリアスに突き付けると、


「グロリアス・フォン・ヴェルダン!我、ソフィア・フォン・ヴェルダンが汝に決闘を申し込みます!!帝国皇帝であるならばこの決闘、受けてくれますよね!?そして、わたくしが勝った暁には今すぐ退位を撤回して、生きて下さい!!」


と、大声で叫ぶ。

するとグロリアスは口元を緩めると


「くふふふふ!!!何年振りかなぁ、こうして君がワタシに直接決闘を挑んできたのは?

いいよ、その決闘受けよう!!もしソフィアが勝てば、ワタシは退位を撤回して二度と呪いを解こうとは言わない。その代わりワタシが勝った時はソフィア、君の王妃としての地位を剥奪し、今後、まつりごとに関わる事を禁止する!」


と言う条件をだす。


「いいでしょうリア!言って置きますけど、決闘となればいくら皇帝であるリアだとしてもわたくしは容赦しませんよ!!」


と言って、ソフィアは剣を構えると剣に魔力を込める。それを見たグロリアスは何処からか、2メートルはある大斧を持つと余裕たっぷりな声で


「それはこっちのセリフだよソフィア!あっ、でも安心してね!怪我してもちゃんと治してあげるから心配しないでね!!」


と煽る。


「それはこっちのセリフよ!!」


ソフィアは剣を振りかざしながらグロリアスに向かって行く。

グロリアスは斧を構えると


「行くよソフィア!」


と言って斧を振りかざした。


ドン!!


ソフィアの剣とグロリアスの斧がぶつかり合い衝撃で執務室の家具が弾け飛んだ!!


「へぇー、流石はソフィア!なかなか楽しめそうだね!」


「ふん!その余裕、いつまで続くかしらね!!」


ソフィアは、再度剣に魔力を込めるとグロリアスに向かって行く。

それを見てグロリアスは斧を振り回しながら迎え撃つ。


こうして、帝国史上最も激しい夫婦喧嘩と言われる決闘が勃発したのだった。



そして、この決闘に勝利したのはどちらだったのかは誰も知らない……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

これにて間話が終了となります!!


次話より、第四章の始まりとなりますのでどうぞお楽しみに〜!!



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