第50話 母と真実


頭を下げてきた国王に対して、俺は驚愕したと同時に疑問を抱いた。


(何で国王が俺に頭を下げる必要があるんだ?)


そう、たしかに国王にとってエドワードは甥にあたるかも知れないが、殺されたのは血のつながっていない父親だ。それなのにどうしてこんなにエドワードも国王も復讐に拘っているのかが謎だった。


「詳しい話くらいは聞かせてくれるんですよね?」


俺が国王に対して質問すると、国王はエドワードを一瞥した後


「ああ、もちろん構わん。部屋に案内しよう。エドワード、お前も一緒に来い!」


国王はそう言うと、護衛と一緒に階段を上がって行く。

俺はカーラと一緒にその後ろをついて行くと、何故かエドワードも俺の横に並んでついて行く。


(いやいや、こう言う場合は国王の方へ行けよ!)


俺は内心そう思いながらついて行くと、応接室のような場所に入り椅子に座る。


「それではまず、其方の名前を聞かせてくれるかのう」


国王からの質問に俺は先程とは違い、ちゃんと敬語を使いながら自己紹介をする。


「これは失礼しました。私はDランク冒険者のケイタと申します」


「ケイタ殿だな。それで、先程の話を聞く限り、ケイタ殿は魔族と一戦交えたと言う話だが本当か?」


「ええ、事実です。たしかに私は魔族の一体と戦い、討伐をしましたが……」


国王からの質問に俺が肯定すると国王は何故か焦ったような表情で


「それはどんな奴だ!名前は?形は?人相は?どのような能力を使っていた?」


と聞いて来たので、俺は知っている事を話す。


「私が討伐したのは『魔伯爵』のアザゼルと言う名前の魔族でした。能力は主に洗脳などの精神魔法ですね。見た目は………」


俺が全て伝えると国王とエドワードは満足したような表情になる。

なんだか一方的に話したばかりなので、俺もずっと疑問に思っていた事を聞いた。


「私からも質問があるんですが、どうして国王陛下やエドワードも、それほどまで魔族に復讐する事に拘っているんですか?」


俺の質問にエドワードは再び黙りこくるが、国王は一瞬考えた後、重そうな口を開いた。


「エドワードよ!ケイタ殿に協力して貰うのに、こちらの事情を話さない訳にもいくまい」


国王からの言葉にエドワードは何度か悩んだ後、納得した表情になり


「済まなかったケイタ。実は……父が死んだ時の話は嘘なんだ」


「……どうゆうことだ?」


「ケイタには父を警戒した魔族が殺しに来たと言ったけど、実はそうじゃ無いんだよ」


「と言うと?」


「元々、魔族の狙いは父では無く、僕の母。つまり、国王陛下の妹君だったんだよ」


「ちょっと待て、何でエドワードの母親が魔族に狙われるんだ?」


俺の質問に今度はエドワードでは無く、国王が話し始めた。


「その話をする前にまず、ソラリア王家に関して教えよう。……我がソラリア王国は今から1500年ほど前に建国された国だが、ソラリア王国を建国した一族は『四神』と呼ばれる神獣たちと契約し、リーシアとヴェルダン帝国から領土を奪って建国したと言われておる」


「そうなのですか?ですが、その話が真実なら『四神』と言う神獣は相当にお強いのでしょうね」


「うむ。だが、その後年月が経つにつれ一族の血統は徐々に薄くなり、ここ数世代で『四神』と契約する事が出来た者はおらんかった。しかし、わしの妹にはその『四神』と契約出来る才能があったのだ。それも、『四神』二体と契約する事が出来るほどの才能がある事にのう」


どこか寂しそう表情をしながら国王は話を続ける。


「そして、妹の事を心配した先代国王は身内以外、誰にも知られないように箝口令をしき妹が20歳になるまでずっと隠して来たのだが、妹が病で死にかけた時に『四神』の一体である『黒亀コッキ』が現れて、妹の病を瞬く間に治したのだ。お陰で妹は救われたが、代わりにあらゆる方面から婚姻の要望がやってきたり、時には誘拐されそうになったりと、大変だった……」


「そうですか……もしかしてエドワード様のお父君は、妹君を狙った魔族との戦いで命を落としたのですか?」


「違う!!」


俺が今までの状況から推理をした結果を話すと、ずっと黙っていたエドワードが大声を上げて否定した。


「エドワード!」


国王がエドワードを止めようするがエドワードは泣きそうな顔をしながら


「違う……違うんだケイタ。父が死んだのは僕のせいなんだ!!あの日、僕が約束を破って封印を解いてしまったから父が……それに、母にも……うう……」


「はぁ、申し訳ございませんが国王陛下。どうゆう経緯なのか教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


最終的に泣いてしまったエドワードを無視して、俺は国王に事の経緯を聞いた。


えっ?!それは冷たいだろうって?


いやいやいや、これが女性だったら優しく手を差し伸べるだろうけど、野郎相手に手を差し伸べるほど俺は優しく無いよ。


俺が国王に聞くと、国王は一度ため息をついてから全てを話してくれた。


「実はこの城の宝物庫には、大戦時に残ったいくつかの“呪具”が封印のされておるのじゃが、その一つをエドワードが無断で持ち出し封印を解いてしまったのだ」


「そうだったんですか。だからエドワード様はあんなに……ですが、エドワード様のお父君は確か先代『剣聖』ですよね?それなのに勝てなかったのですか?」


「うむ。エドワードの父である先代『剣聖』のエラルドは現在のエドワードと互角と言っても良い程の実力があったが、逆にそれが裏目に出てしまったのじゃ!」


「それはどう言う訳でしょうか?」


「封印が解かれた呪具から現れた魔族は最初、自由に動ける肉体を求めてエドワードに乗り移ろうとしたのだが、それをエラルドが庇ったのじゃ!いくらエドワードが『剣聖』と言っても、当時はまだ子供。もし乗り移られていれば肉体は魔族の力に耐えきれず間違いなく死んでいたじゃろうが、エラルドの肉体を乗り移ろうとした魔族は不完全ながら人界に顕現してしまったのじゃ!」


「それで、その後はどうなってしまったのですか?」


「その後、魔族が最初に目をつけたのが妹のミーナじゃった。恐らくはミーナが契約者じゃと分かり利用しようとしたのじゃろうが、それをエラルドは許さなかった!!エラルドは不屈の精神で魔族から肉体の主導権を奪い、完全に乗っ取られる前に自ら自害したのじゃ」


今だ泣いているエドワードを他所に、国王から話される真実に俺はずっと聞き入っていた。

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