リーダーと専門家

シヨゥ

第1話

「リーダーっていう奴は、なにかの専門家になってはいけないんだ」

 竹籠を編みつつ老人は子供にそう話し出す。

「なっちゃダメなの?」

「ダメだな。専門家ってのはひとつのことを極めたもんのことだが、これは分かるか?」

「うん」

「ひとつのことを極めたってことは、ひとつのことばかりを見続けたってことだ。これも分かるか?」

「うん」

「リーダーっていう奴は、専門家と違って、ひとつのことばかり見続けちゃいけないんだ」

「そうなの?」

「ああ。リーダーはみんなを引っ張るんだ。だからみんなを、全体を見ていなきゃいけない。

 こちらばかりを見ていたら、あちらが手薄になってそこから崩れていく。

 そうならないようにあちらが手薄になったらこちらから離れてあちらへ行く。

 そんな風にふらふら動かなきゃいけないから専門家になっちゃいけないんだ」

「なるほど。でもじいちゃんは竹細工の専門家だよね? でも工房のみんなを引っ張るリーダーもやっている。大丈夫なの?」

 その質問をした途端、老人の動かしていた手が止まる。

「大丈夫じゃ、ないな」

 絞り出すような声に深刻さが伝わってくるようだった。

「じゃあぼくがリーダーになってあげるよ」

「お前がか? 無理だ無理。若すぎる。それにリーダーは大変だぞ」

「大丈夫だよ。ふらふらしていればいいんでしょ? ぼく得意だもん」

 その言葉に老人が笑い出した。

「たしかにお前はいつもふらふらしているもんな。いろんなことに興味もあるみたいだし。もしかしたら将来はリーダーになれるかもしれないな」

「絶対なるから。だからそれまでじいちゃんは職人であり続けてよ。ぼくがきっとどうにかするからさ」

「分かった分かった。頑張るよ。それじゃあこの竹籠を倉庫に持って行ってくれるか」

「分かった」

 子供が倉庫に向かって竹籠を持って走っていく。その後姿を見つめる老人の目からは涙が流れていた。

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リーダーと専門家 シヨゥ @Shiyoxu

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