第5話 喫煙者達

 その時、誠は背後に気配を感じて振り返った。


 そこには、かなめ、カウラ、アメリアの三人が着替えを済ませて立ち尽くしていた。


「おう、やっぱりここにいたか……カウラ、ちょっと吸わせてくれ」


 そう言うとかなめはタバコを着古したジーンズから取り出して素早く火をつけた。


「いいねえ……コイーバクラブ?千円越えだろ?十本で」


 かなめの吸いだしたタバコに嵯峨はそう声をかけた。


「アタシはタバコはキューバに決めてんの」


 そう言い放つとかなめは静かにタバコをくゆらせた。


「神前。こいつのタバコ……葉巻だぞ」


 嵯峨は厭味ったらしくそう言うと席を立った。


「これ……葉巻なんですか?細いですよ」


 そんな誠の言葉にかなめは静かにタバコの煙を吐き出しながら言葉を続けた。


「世に言う葉巻はな、管理が大変なの。湿度とか、気温とか。いろいろあんだ。その点この『シガリロ』は関係ないから」


「『シガリロ』?」


 誠はそう尋ねるが、かなめは平然と煙草をくゆらすばかりで何も答えることはなかった。


「タバコにそんなお金かけてまあ……かなめちゃんが酒とタバコに金を惜しまないことは知ってるけど」


 アメリアとカウラは呆れた表情で、タバコをくゆらせるかなめを見捨てるようにして喫煙所を後にした。


「西園寺さん……体に悪いですよ、タバコは」


「うるせえなあ……肺も交換可能なこの体だ……文句を言われる筋合いはねえよ」


 かなめはそう言ってタバコをくゆらせた。


「でも……ニコチンって脳や神経にも蓄積されるんじゃないですか?そっちは自前でしょ?」


 そう言うと誠はかなめに顔を近づけた。


「別にいいだろうが!アタシの人生だ!アタシが決める」


「車がタバコ臭くなるとカウラさんが困ると思うんですけど……」


 誠はそう言って困ったような顔をした。


「へいへい、喫煙者は肩身が狭いですね……」


「全くだ」


 かなめと嵯峨はそう言うと手にしていたタバコを灰皿に押し付けた。


「それじゃあ楽しんできてちょうだいよ」


 そう言うと嵯峨はいつものようにだらだらと立ち上がった。


「隊長は?」


「いろいろ書類とか溜まっちゃってさ……かなめ、何とかならねえかな」


「知るか!」


 叔父の不始末を押し付けられそうになったかなめが大股で喫煙所を去っていく。


 誠はその後に続いていい加減な部隊長を置いてその場を立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る