ハンス・ヴァイオレットの本懐
椿 みかげ
序章 アルバートの日記
子供というのは往々にして単純な生き物だ。やれと命じれば動き出し、嫌なものは嫌だと拒否をする。一度疑問を覚えれば納得のいくまで我々大人に説明を求めてくる。厄介という言葉で片付けてしまえばそれまでだが、そこに子供という存在の愛おしさがある。「魔法」という超常の力が拡大するこの時代においても、この事実だけは揺らいではならない。揺るがしてはならない。この力は弱き者たちのため、そして何よりもこの国の未来の安寧のために使われなければならないのだ。
私はこの「魔法」という力の在り方を示さねばならない。それが超越者である私の責務であり、成さねばならぬ使命である。この戦争が終焉を迎え、「魔法」が人類繁栄の礎となれば、我が人生に一片の悔いはない。この戦争が全てを変える。我々はなんとしてでも勝たねばならない。力に溺れ、破壊と愉悦に墜ちた者に屈してはならない。人類が人類であるために、必ずや我が本懐を成し遂げることをここに記す。
追伸
ハンス、最期がこのような別れとなったしまったことは、とても心苦しいと思っている。君と過ごした日々は何ものにも変え難い私の宝だ。君が成長した姿を見たかった。ともに杯を交わしたかった。だがすまない、私にはやらねばならないことがある。もしも戦争から私が生き残ることができたのなら、君に最後の教えを授けよう。15になる月の蒴の夜、君を訪ねる者がいる。彼の元で2年間研鑽を積み、1人で故郷を離れなさい。そして旅の先で、7人の超越者と出会うこと。この条件を達成しうる力を得られたら、私は約束の地で、君を待つ。
アルバート・ヴァイオレット
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