ずっと地球は綺麗でした

ボストロール

第1話 月の裏側

1969年、アポロ11号に乗った宇宙飛行士は合計12人。全世界の人々が注目する中で月面への初上陸を果たした名誉ある宇宙飛行士たちは、1人として地球に帰ってくる事は無かった。


そして現在1980年

この男、東京大学文学部・大学院人文社会系研究科4年首席、山内 太陽(やまうち たいよう)

授業をサボり図書館の机の上に夏目漱石の本を山のように重ねて、なにやら独り言のようだ。

山内「なるほど、面白い。流石漱石先生、彼と同じ時代に生まれたかった」


「1人でなに言ってんだよ文学バカ」

と薬学部薬学科4年の伊藤 大希(いとう だいき)、どうやら授業が終わったようだ。

いつも彼が迎えに来て、2人で帰る手筈になっている。

持っていた本を閉じ机の上の本と一緒に片付けながら山内は言った


山内「いやぁ、今日も有意義だった。時に伊藤、月と地球の自転の方向が同じという事を知ってるか?」


期末テストが近く、昨日も徹夜していた伊藤は少しイラッとしていた

伊藤「授業サボって何言ってんだ、天才は良いな。そんなの知らねーよ。こっちは期末テストに向けて必死こいて勉強してるっつーのに。」


山内は伊藤の話など聞いていないかのように続ける

山内「地球と月の自転の方向は同じであり、月は地球の周りを公転しながら同じ速度で自転しているんだ。したがって地球からは月の裏側は見えないんだよ、実にロマンだ」


伊藤「お前頭いいのにロマンとか好きだよな、流石文系って感じ」


山内「月の裏側が見たいとは思わんかね伊藤」


いつも話を終わらせる役の伊藤が呆れながら今日も役目を全うする

伊藤「もういいって帰るぞ」


2人の家は近く、東京とは思えない田舎な所に住んでいる。いつものように自転車で一緒に下校した。


秋も終わり季節は冬、まだ6時を過ぎたところだというのにもう月が顔をだしている。


伊藤「なぁ、お前授業来ないの?」


山内「行く理由がないだろ、テストの日だけ出席していれば点数は取れる、教員も首席の俺の単位は簡単には落とせん」


伊藤「いやお前が良いなら良いんだけどさ、友達とか、お前俺といるとこしか見た事ないぞ」


山内「低レベルな奴らに合わせるのは疲れるんだ。天才だからね俺」


伊藤「ま、別にいいんだけどさ」


山内「、、、」 

山内「そーいえば、今日はスーパームーンらしいぞ伊藤」


伊藤「あぁだからか、こんなにデケェ満月見た事ないと思ってたんだよ。」


2人して河川敷の上で足を止め、不思議と瞳を吸い込まれるような大きな月を見上げていた。


ただひたすらに、見惚れていた。


伊藤がはっと気が付いて足のつま先からブルっと身体を震わせる。再び帰路に着こうと思い山内に呼びかけるも返事がない。


伊藤「山内!帰るぞー」 


なにやら様子がおかしい、おかしいのはいつもの事であるが殊更におかしい


山内「なんか降ってきてね?」





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