戒壇巡り

絵空事

〇日目

「何て読むんだ、これ?」


 黒板の前に立っている金髪の和哉かずやが疑問を口にした僕の方を向いて、黒板を指差しながら口を開いた。


信士しんじ、これは戒壇巡かいだんめぐりと読むんだ」


「戒壇? 家とか学校にある階段とは違うの?」


 机に座って、長い足を持てあますように組みながら雄介ゆうすけが質問した。僕も同じ質問をしようと思っていたので、和哉の応えに注目している。


「えっと、何か、地下に降りる階段を進んで、真っ暗な中を歩いていくらしいから、同じ意味なんじゃないのか」


「和哉、いい加減すぎるぞ。戒壇巡りの戒壇は、仏教徒に戒めを授ける場所のことで、昇ったり降りたりする階段とは違うよ」


 なにそれ、説明聞いてもよく分からないんだけど。


貴俊たかとし、よく分からないけれど、とにかく和哉の説明は間違っていたってことなんだろ」


「まあ、そうだな」


「おいおい、貴俊も雄介もひどいな」


 和哉が恥ずかしそうな顔をしながら、軽い文句を言った。


「それで、その戒壇巡りって何んなの?」


「おう、真っ暗なところをゴール目指して歩くらしいぜ」


「和哉、またまたさっきと同じでいいかげんな事を言うんじゃない。戒壇巡りというのは、視覚に頼れない真っ暗な中を歩いて、御本尊に継がっている錠前とかを触ることでご利益を得るんだ。長野県の善光寺が一番有名だが全国に五十四箇所あるらしいぜ」

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