私のかわいいお姉さま
「……っくしゅん! うぅ」
ベッドに横たわる
桃子は今年の春に入学した新入生だ。
学園生活に慣れ始めた梅雨時、発熱で学校を休んでいる。幸いなことに
桃子は熱で
「……
ここ、男子禁制の「聖ラ・ヌール学園」は貴族が通う一流の高等学校で、教養から社交界のマナーまで幅広く学べる。ここでは教育の一環として、上級生と下級生でペアを組む制度 《ラ・シストーラ》がある。
この《ラ・シストーラ》で強い絆を結び、幅広い人脈を作れるかどうかで、卒業後の進路が決まると言っても過言ではない。
桃子の家は
……見た目だけは。
「お前が
「は、はい!」
「悪くない顔だな。あたしは
「かしこまりました、玲香お姉さま」
「なんっか『お姉さま』ってむず痒い……柄じゃねぇんだけど」
「んー、その呼び方を許す代わりに、あたしの言うこと、全部きけ」
「はい!」
これも
しかし、ここからが本当に大変だった。
「朝は二年生の寮まで迎えに来い。学園まで荷物持ち、よろしくな」
「あー、小腹が減ったな。なんか甘いもの持ってこい」
「なあ、寒いからお前の上着、貸せよ」
もはや桃子は
最初は
ここまで踏ん張って気持ちだけで動いてきたけれど、さすがに身体が音を上げた。
額がひんやりして気持ちがいい。
桃子が目を開けると、思いもよらない人の姿があった。
「れ、玲香お姉さま!?」
「……おう、元気……なわけねぇな」
「どうしたんです? 今日は『
「うるせぇなー。せっかく来てやったのに、感謝の言葉もなしに説教かよ」
桃子は怒られた子どもが隠れるみたいに、布団を口元まで引き上げた。
「っだー、もう! ……あたしが全部、悪かった」
「……は!?」
「今日寝込んでるのも、あたしのせいだろ? それを謝ってんだよ」
「どどどどうしたんです!? そんな低姿勢、らしくない! もしかして偽物?」
「本物だ! よく見やがれ!」
ずいと
静かで温かい玲香の
「……ありがとな、桃子」
玲香は
「今まで近づいてきた奴らの目的は
「お姉さま……」
桃子は起き上がり、玲香の手を優しく握る。
「私、玲香お姉さまのこと、大好きです」
玲香の顔は真っ赤になった。桃子の手を振り払い、よろめきながらドアに向かう。
「は、早く治せよな! じゃあな!」
乱暴に閉じられたドアを、愛おしさ溢れる瞳で桃子は見つめた。
「もう……本当に、かわいいお人」
夢の中でも会えますようにと願いながら、桃子はゆっくり目を閉じた。
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