白熱!秋の行間合戦!!

「珍しいわね。呼び出しなんて」

「お忙しいところすみません」

「最近、エツのご家族はどう? お元気かしら?」

「両親は元気です。弟たちは育ち盛りで、何かと大変です」

「半年見ない間に、弟さんたちはとても大きくなったのでしょうね」


「……ところでウメノさん、秋の年貢ねんぐ徴収ちょうしゅうは順調ですか?」

「量は少ないけど、質のいい米が集まってきてるわ」

「そうなんですね」

「エツの家はまだよね?」

「え、ええ」

「あと五日で期限よ。その日までに納めないと重い税を課せられちゃうんだから、早めに持って来なさいよ」

「十分、承知しょうちしてます」


「それで、今日はどうしたの? こんな蔵の裏に呼び出して」

「あの、私……ウメノさんにご相談したいことがあって」

「人気のない場所に呼び出したってことは、皆に聞かれたくない話なのね?」

「……はい」

「エツがそんな思い詰めた顔をするなんて、よほど悪いことなのかしら」

「あ、い、いえ! 全くの悪いことではないのですが……」

「なら、どうして?」

「えっと、何というか、その……自分の欲望を抑えきれなくなって不甲斐ふがいないな、と」

「なるほどね。そういう時もあるわよね」

「……理解、してくれるんですか!?」

「当たり前でしょう。私は村の年貢管理ねんぐかんりを任されているし、あなたよりも幾つかお姉さんですもの。度量が大きいのよ」

「ウメノさんっ! さすが、村のみんなのお姉さん!」

「そうよ。いつでも頼りなさい」


「じゃあ、早速ですが……ウメノさん、目をつぶって欲しいんです」

「え!?」

「ウメノさん、目をつぶってください!」

「ちょ、ちょっとエツ! 迫って来ないで! 落ち着いて!」

「どうか、どうかお許しを!」

「痛いっ! 壁に押し付けてどうしようっていうの!?」

「お願いです! ウメノさんじゃなきゃダメなんです!」

「ちょっと、やめてっ! エツ! 離れなさい!」

「はっ! す、すみません!」


「……それで、いつから想っていたの?」

「春頃、ウメノさんが家に来てくれたときから、ずっと」

「全然、気付かなかったわ」

「気持ちを抑えてましたから。もしそんな考えが皆に知れたらと思うと、怖くて」

「ほらエツ、これで涙を拭きなさい」

「すみません。今までを思い出していたら、つい」

「とても、辛かったのね」

「……はい」

「本気、なのね?」

「はい、決死の覚悟で来ました」

「……よし、分かったわ」

「え?」

「エツの気持ちを受け入れる。覚悟を決めたわ」

「ウ、ウメノさんっ」

「そんなうるんだひとみで見上げないでちょうだい! 緊張、しちゃうじゃない」

「そうですよね。ウメノさんにとっても、大きな決断ですもんね。自分の気持ちばかり押しつけて、すみませんでした」

「いいのよ。エツの強引なところ、私好きよ」

「私も優しいウメノさんのこと、好きです」

「ふふ、ありがとう」


「それじゃあ、ちぎりを交わしたあかしに署名をお願いします」

「随分きっちりしてるのね」

「両親に信じてもらうためです」

「そうね。エツを一生懸命育ててくれたご両親に向けて、心を込めて書かせていただくわ」

「ウメノさんの立場も危うくなるのに、そんな優しい言葉を」

「ほら、また泣かないの」

「うぅぅ……すみません」

「まったく。エツはいつまで経っても泣き虫なんだから」

「ち、違いますよ! これはウメノさんのせいです」

「はいはい。署名したわよ」

「これで」

「そうね、これでエツと私は――」

「弟たちにお腹いっぱいご飯を食べさせてあげられる!」

「そうよね、弟さんたちは食べ盛りですもんね……って、え!?」

「ウメノさんのお陰です!」

「ちょ、ちょっと、ちょっと! 一体、どういうこと?」

「どうもこうも、ウメノさんに目をつぶってもらうって話で」

「そこ、もう少し詳しく」

「『秋の年貢ねんぐ納入のうにゅう』の目をつぶる了承りょうしょうを書面でもらいに来たんですけど」

「え」

「ウメノさん、目がまん丸……。もしかして、分かってなかったんですか?」

「そ、そんなことないわ!」

「ですよね! そんなヘマしないですよね! では、両親に報告に行くので失礼します!」

「……はあ、私って本当に……」

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