半透明少女
総督琉
前哨戦
医者から診断された病名は時限型透明化病という未知の病。
その病にかかった者は、あと数日で全身が透明になってしまうという病であった。
この病にかかるのには条件がある。そしてをそれを全て私は満たしていたらしい。
一つ、O型であること。
二つ、大切な人を失い、喪失感に襲われていること。
三つ、孤独であること。
四つ、季節が冬であること。
五つ、雪の冷たさを知っていること。
それら全ての条件を満たした私は、少しずつ体が透明になりつつあっていた。
腹部は既に透明化し、それが日に日に広がっていく。
もうすぐ私は誰からも見えなくなって、そして消えてしまうのだろう。そんな不安が私の心を埋め尽くしている。
いつまで経っても私は報われないのだろうか。
いつまで一人で居続ければいいのだろう。
二日前、私は家族を失った。
私はたまたま風邪をひいていたため、父、母、妹、弟は四人で旅行に行った。だが家族が乗っていた飛行機は墜落し、帰らぬ人となってしまった。
それを聞いたのは昨日のこと。
一日経った今日でも、私はそのことが未だに事実だと受け止めることはできなかった。家族を失った苦しみをすぐに理解できるはずもない。
私はただ涙を流し、家族の死を弔った。
そして私はこれから消えていく。
死ぬわけではない。ただ透明になって生き続ける。
誰からも見られず、誰からも好かれず、誰からも嫌われない。ただの空気として、私はこの世界に居続けるのだろう。
そんな世界はきっと、退屈以外の何物でもないのだろう。それでも私には自ら命を絶つなんてことはできないし、まだ生きたいと思っている。
何をすべきか、私は未だに分からないでいる。
苦しみという雪原の中、私は裸足で立ち尽くしている。悲しみも苦しみも後悔も知り、孤独さを知る。
だから私はその雪に紛れ、消えていく。そして誰からも見られず、そうやって私は生きていく。
外では雪が降っている。
その雪の冷たさを私は知っている。その雪は降り続けたまま、止むことはない。窓ガラスに降りつける激しい雪、それを私は家の隅で静かに見ている。
ーーまだ雪は止まない。
雪はいつまでも降り続ける。
いつまでもその冷たさを保ったまま。
二日前まで、私は学校に通っていた。
しかし友達などおらず、私はいつも一人で孤独な人生を送っていた。それが嫌で嫌で仕方がなかったというのに、通い続けていた。
きっといつか救われる、そう私は思い込んでいたからだ。
だがいつまで経っても私を絶望の淵から救い出してくれるヒーローは現れない。そんなこと、心のどこかでは分かっていたのに、私はそれにすがりつき、何度も失敗した。失敗して失敗して、失敗し続けた。
だからもう、学校に行くのはやめた。
そういえば今日は期末テストがあったっけ。
でももうすぐ消えてしまう私には関係のないことだ。
学校ではずっと孤独だった。私には友達という友達が一人もできなかった。だから私は孤独を歌い、いつまでもその孤独の中でもがき、苦しみ続ける。
それももう終わったことだ。ようやく私は解放される。その苦しみからーー
「小雪は、それで良いのかい?」
どこからか聞こえたその声に、私は耳を疑った。
なぜならここは私の家。他に誰かいるはずもないのだ。
その声はどこか聞き覚えがあり、どこか心暖まる声だ。
「ねえ、私はどうすれば良いのかな?」
私は分からない悩みの答えを何者かへ問う。
「そうね。それは小雪自身で決めなさい。あなたが今何をしたいか。そしてどうしたいか?その答えは自分で見つけなきゃ」
「自分で……か。でも、考えても考えても分からないんだよ。だって私はバカだから」
「小雪はバカじゃないよ。あなたはいつも少し遠回りしてしまうだけなんだから。もう少し冷静になって、そしてゆっくり考えて。そしたらきっと、あなたの探していた答えはきっと見つかるから」
それでも私には分からない。
「でも、私はあと数日で完全に透明になってしまう。だからさ、もう良いんだ。もう良いんだ……」
「でも、小雪は幸せになりたいんでしょ」
「うん」
「だったら幸せを追いかけなきゃ。だから頑張りなさい。私たちはずっと空から応援してるよ」
この声、ようやく私は誰なのかが分かった。
だから私は言ったんだ。
「ありがとう」
それ以降、もうあの声は聞こえない。
だからこれからは私が生きたいように生きるんだ。自分が生きたいように、なんて……。
分からないと思っていたその答えはようやく分かった。
そうだ。私は幸せになりたかった。
だったら私のすべきことは最初からひとつだった。
「お母さん、お父さん、妹、弟よ。私はこれから幸せになる。だからどうか、空からずっと応援していてくれ。私は必ず幸せになってみせるから」
だから私は歩み出す。
何が時限型透明化病だ。そんなもの私には効かないんだよ。
必ず幸せになってみせる。誰からも見えなくなるその前に。
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