1 新入生歓迎会殺人事件(3)

 二年C組、それが俺の新しいクラスだ。A組B組が特進科クラス、C組からT組までが普通科クラス、他は調理科と商業科。普通科クラスは文系と理系に分かれている。俺は何の変哲もない理系普通科クラス。

 ユキは隣のD組だった。スポーツ特待生に個別のクラスはなく、普通科にばらけて配置される。

 一緒のクラスじゃないことをがっかりされたけど、俺にとっては女子の変なやっかみが減って少しホッとする。というか同じ理系でも、他に九クラスあるので一緒になるほうが難しい。

 始業式を終えて、なんだかだらだらした空気で教室に入る。理系クラスなので、男女比は六:四くらいだ。前のクラスで同じだった女子を含め、よく知っているのは二割くらいであとは今後、情報収集をしなければならない。

「また、お前と同じか」

 憎まれ口をたたいて来るのはだ。一年の時、同じクラスだったやつ。名前の通りモブみたいな顔をしている。

「おっ、おか、一緒だなー。よろしくー」

 そう声をかけるのははん。同じ中学出身でそれなりに仲が良かった。こいつもまた人ごみに溶け込んだら、探し出せないような凡庸な顔をしている。

 そして、俺。

 モブはモブで固まる。なんか悲しいさがだが、新学期ぼっち問題は解決したので良しとしよう。

 そんな中、新クラス最初の試練が待っていた。

「今日はもろもろの委員会決めて帰ります」

 副担任のもろおか先生が覇気のない声で言った。

 わかるだろうか、委員会決め。できるだけ楽なのをやりたい。ついでに一緒にやるなら同性がいい。女の子は怖い、やめよう、適度なディスタンスを取ろう。

 だが、一つの委員会に人気が集中すると、争奪戦になる。そして、俺はじゃんけんに弱く、二人の枠に三人手を挙げて、今敗北してきたところだ。

 残る席は一つしかなかった。

「ということで、おかくんがイベント補助委員だけどできますか?」

 初めて聞く委員会だ。定員一人。いや、女子と二人よりいいけど、普通に休めないよね?

「できますか?」

 返事が遅いからってそんなに確認しなくても。

 師岡先生は、若くイケメンだが生気がない。髪を半端に伸ばし、こめかみにはまだらの火傷やけどあとのようなものが見える。化学担当とかボソボソと自己紹介で言っていた。

 ちなみに見た目通り、押しに弱いらしく担任にホームルームを押し付けられて委員会決めをやらされているっぽい。

 担任は学年主任のまつおか先生、英語担当。正直、あの人のクラスなんてついてない。生徒を押さえつける性格で、自分の思い通りに行かないと気が済まない。俺も予習を忘れたとき、ネチネチ言われた。

 しかし、忙しいのはわかるけど、若手の先生に押し付けるのはどうなんだろう。特進クラスを受け持てなくて、いじけているって話本当かな?

 師岡先生のやる気のない顔には、早く終わらせようと書いてあった。

「「意義ナーシ」」

 妙にハモるクラスメイトの声。

「ちょっと待って! 何、イベント補助委員って! 去年、そんなものありましたか?」

 聞いたことがない。いや、似たような物はあるけど、学級委員、図書委員などに比べるとなんだか浮いて聞こえる。

「今年から決まりました。イベントごとに、体育祭実行委員とか、学園祭実行委員とかありますよね? どうにも、その時々で新しい生徒が始めるとくいかないから、イベントに特化して補助する委員会を作っておこうと今年から」

 ぼそぼそと説明するもろおか先生。後ろの席は聞き取りづらそうだ。

 つまりイベント事を円滑に進行するため、補佐役を作ったということ。理屈としてはわかるが、どうにも解せない。

「つまりイベントのたびに実行委員をしろということですか?」

 俺は頭を抱える。

「違います、あくまで補助です。実行委員は別に立てます」

「でも忙しいですよね?」

 イベント事の実行委員の忙しさは去年一年間で、よく知っている。特に学園祭、体育祭など大掛かりなイベントになると、日付が変わるぎりぎりになるまで居残りし、間に合わず家に持ち帰る生徒もいたくらいだ。

 補助と言っても準備期間中は、帰宅部顔をしてのんびり下校などさせてもらえないだろう。

「……」

 師岡先生の無言は肯定を示していた。しばしの沈黙はチャイムの音で破られる。

「じゃあ、解散!」

「先生! ちょっ、待って、先生!」

 俺の叫びはかき消された。

 やる気がない若手教師は、給料分の必要最低限の労働しかしたくないらしい。

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