第24話:好感度の謎 11

 明日香の反応にほぼ確信を得たリヒトだったが、それでも研究者としてはしっかりと言葉で答えを得たいと思い確認を取る。


「……アスカ様、見えましたか?」

「……は、はい」

「確認のために読み上げてもらってもよろしいですか?」

「あ、はい」


 自分のステータスも見ていなかった明日香はどのような項目があるのかも知らなかった。

 だが、彼女の口からは確かに各項目の名前やリヒトが習得しているスキルの名前が読み上げられていく。

 力、耐久、速さ、魔力、器用、運という六項目に各種スキル。

 全ての数値と名前が読み上げられると、リヒトは満面の笑みを浮かべながら何度も頷いた。


「えぇ、ええっ! 何一つとして間違いはございません! それが私の全てですよ、アスカ様!」

「えっと、そうなんですか?」

「はい! ふふふ、この魔導具は世界を変えるかもしれませんよ! あぁ、いえ、アスカ様が世界を変えると言っているわけではありませんよ!」

「……今のバーグマン様を止めるには、殿下が必要かもしれないな」

「……あは、あはは~」


 興奮したリヒトを止める術を持たない二人はしばらく変な笑い声を漏らすリヒトを見守る事しかできず、ただ時間だけが過ぎてしまう。

 そして――ようやく落ち着きを取り戻したリヒトが謝罪を口にすると、それから再び検証に戻っていったのだった。


 太陽の半分が地平線に沈み始めると、部屋のドアがノックされた。

 壁際に立っていたイーライが開けると、そこには疲れ切った表情のアルが立っていた。


「……ど、どうされたのですか、殿下?」

「…………あぁ、イーライか。そうか、お前はカミハラ様たちの事を、知らないのだったなぁ」


 力なく呟かれる言葉にイーライが困惑していると、リヒトが立ち上がり中へ入るよう促した。


「お疲れ様でございます、アル様」

「……リヒト。お前はずっとここにいたのだなぁ」

「い、一応、仕事ですから」

「……そうかぁ……仕事、かぁ……」


 ドサッと全体重を椅子に預けると、背もたれに頭を置いて天井を見上げる。


「……あの、大丈夫ですか、アル様?」

「……あぁ、大丈夫…………はっ! す、すみません、ヤマト様! 見苦しいところを!」


 明日香に会いに来たにもかかわらず、あまりに疲労でその存在をすっかり忘れていたアルは跳ね上がるように立ち上がり謝罪を口にした。

 その姿に明日香も慌ててしまい一緒になって立ち上がり頭を下げる。


「い、いいえ! その、お忙しいのは知っているので! 殿下が謝らないでくださいよ!」

「いえ! そのような事は……いや、そうだな、すまない」


 そう口にしたアルは再び腰を下ろしたが、今度は姿勢を正して小さく息を吐く。

 明日香も合わせて座ったのだが、アルの様子を見ているとどうしても心配になってしまう。


「あの、他の子たちはそんなに大変というか……その、問題児なんですか?」

「あー……そう、だな。はっきり言って、問題児だ」

「ナツキ様はどちらかと言えば真面目に取り組んでくれるのですが、残りのお三方が……」


 アルの言葉を引き継ぐようにリヒトも口を開く。


「夏希ちゃんというのは?」

「アスカも知らないのか?」

「うん。実はそうなんだよね」


 四人が召喚された時にたまたま近くにいただけで、顔見知りだったわけではないと説明した。


「そうなのか。……だが、マグノリア王国の第一王子である殿下をここまで苦しめるとは、どのような奴らなんだか」

「イーライも何度か接していればこうなるはずさ。だが、彼らは我らの都合で呼び出された召喚者であり、歓待すべき相手だ。できるだけ要望には応えてやらないといけないんだよ」

「要望ですか。……あの、差し支えなければ、彼らが要望した内容を伺っても?」

「別に構わないが……聞いて気持ちの良いものではないよ?」


 そう前置きしたアルは、岳人たちが要望した内容を口にしていく。

 食事の内容に文句をつけて高級な食材ばかりを注文し、部屋の内装に口を挟んでくる。

 用意された衣服にも注文を付けてあれではないこれではないと我がままばかりを口にしており、多くの大臣からは無駄な予算だと言われてばかり。

 特にアルが一番の問題だとしているのが、それぞれが見目の良い異性を側に付けろと喚き散らし、さらには手を出そうとまでしていた。


「カミハラ様に至っては、女性陣には内緒で異性を部屋に呼びつけろとまで言ってきましてね」

「えっ! ……アル様、まさか?」

「そんな事は絶対にしません! 人材は宝ですから、そのような理不尽に屈して差し出すなんて真似は絶対に!」


 明日香の言葉にアルは必死になって弁明する。事実、アルは誤魔化すような返事を繰り返して文句を言われながらも異性のメイドを差し向けていなかった。


「そっか……よかったです。同郷の人のせいで、この国の人が不幸になるだなんて嫌ですから」

「……あぁ。本当に、ヤマト様が勇者であればどれだけよかったか」

「そんな中でも、ナツキ様だけは我がままを言わずに真面目に取り組んでくれています。……まあ、大人しい性格のようで主張できないだけかもしれませんが」

「そうだった。その夏希ちゃんはどっちの方ですか? 金髪? 黒髪?」


 話が途中で逸れてしまっていた事に気づいた明日香が同じ質問を口にすると、リヒトがすぐに答えてくれる。


「短い黒髪の方です」

「そっか……やっぱり」

「やっぱり、というのは?」


 明日香の何気ない呟きが気になったアルが問い掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る