第23話:好感度の謎 10

「……あの、どうしたんですか?」

「……何も、見えませんね」

「度がきつかったですか?」

「あ、いえ、そういうわけではないのです。確かに度はきついですが、名前や相手の善し悪しとか、そういうのが全く見えないのですよ」

「そうなのか? リヒト、一度私にも掛けさせてくれ。いいかな、ヤマト様?」

「も、もちろんです」


 目を細めながらこちらを見てくるリヒトに変わってアルがメガネを掛けると、なぜか彼も明日香に視線を向ける。

 しかし、その反応はリヒトと同じで首を傾げる仕草で表された。


「……ど、どうですか?」

「うーん、私にもヤマト様が言っていたものは見えないな。普段通りの視界だね」


 そのままイーライにまでメガネが渡っていったが、彼にも明日香と同じものは見えなかった。


「……えっと、どういう事でしょうか?」

「そうですねぇ……可能性の一つを挙げるなら、魔導具がアスカ様専用のものではないかと」

「そんな事ってあるんですか?」

「あまり聞きませんが、ない事はありません。使用者を一人に絞る事で、汎用性の高い魔導具よりも効果の高い魔導具を作り出す事ができると聞いた事もありますからね」


 リヒトの説明を受けて、明日香はなぜ自分にこのような魔導具が与えられたのかを考えた。


「……神様が、くれたのかな」

「どうしたんだ、アスカ?」

「いや、私って巻き込まれ召喚だったでしょ? だから、神様が可哀想だなーとか思ってくれて、私がこの世界で生きやすいようにしてくれたのかなって思ったんだ」


 責める意図など全くないが、明日香の口から巻き込まれ召喚という言葉が出るとアルとリヒトは俯いてしまう。

 その事に気づいた明日香は慌てて両手を横に振りながら責めていないと説明した。


「ち、違いますよ! 別に責めているわけじゃありませんからね!」

「いや、しかし……」

「私は神様がご慈悲でメガネを魔導具にしてくれたんじゃないかって、それを感謝しているって伝えたかったんですよ!」


 メガネがなければアルやリヒトを信用する事ができなかったかもしれない。イーライと仲良くなれずにジジと出会えなかったかもしれない。

 さらに言えば、同郷であり自分の事を下に見ている岳人たちを頼っていいように使われていたかもしれない。

 そんな事を考えると、メガネなしでは生きていけないような気すらしてしまうのだ。


「それに、今はもう元の世界に帰る事は諦めていますし、ここで生きる下地が出来上がりつつありますから頑張ろうとすら思えているんですよ」


 最後の言葉は笑顔を浮かべて口にする。その表情にアルたちは苦笑を浮かべ、そして今まで以上に明日香の力にならなければと考えるようになっていた。


「それでは、アスカ様がより良い生活を送れるように魔導具の能力を検証してみましょう」

「え? い、いいですよ。私の方で試行錯誤してみますから」

「いい考えだな、リヒト! うん、それがいい!」

「ですが殿下。仕事が立て込んでいるのではないですか?」

「うっ!? ……イ、イーライ、貴様~!」

「事実を述べたまでです。バーグマン様はどうなのですか?」

「私は問題ありませんよ。今日の分の仕事も片付けてしまいましたから」

「仕事が早いですね!」

「アスカ様のためですからね」


 一人だけのけ者にされそうなアルは三人の間で視線をキョロキョロさせているが、このままでは埒が明かないと思ったのか勢いよく立ち上がった。


「な、ならば、私も仕事を終わらせてくる! ヤマト様はそれまでここで魔導具の検証をしておいてくれ!」

「あまり無理はしないでくださいね?」

「問題ありません! 私はやればできる男ですから!」


 謎の宣言を残して部屋を後にしたアルを見送った後、リヒトが小さく笑いながら口を開く。


「きっと、アル様は戻ってこられないでしょうね」

「え? どうしてですか?」

「あー……その、アル様の仕事というのが、ガクト様たちの相手ですから」

「あー……なるほど、理解しました」


 二人が納得している横で、イーライは首を傾げている。


「あの、バーグマン様。ガクト様たちというのは、アスカと一緒に召喚された勇者様ですよね?」

「その通りですが……あぁ、そうでしたね。イーライはまだ会った事がありませんでしたか」

「そうなの? アル様が主導で行っている事だから、イーライも知っていると思っていたわ」

「勇者召喚が行われた事実は知っていたが、誰がそうなのかまでは分からないんだ」

「イーライはアスカ様の護衛を仰せつかっていますからね。他の騎士に比べてもガクト様たちに触れる機会が少なかったのですよ」


 リヒトの説明に納得すると共に、自分のせいでイーライが他の騎士との接点が少なくなっている事を知って申し訳なく思ってしまう。

 そんな明日香の気持ちに気づいたのか、イーライは笑いながら口を開いた。


「お前が気にする事じゃない。それに、俺は俺で楽しくやらせてもらっているからな」

「まあ、イーライがそう言ってくれるなら」

「……ごほん! それでは、検証を始めましょうか!」


 二人の雰囲気が気に食わなかったのか、リヒトが一度咳払いを挟んで口を開くと、二人は顔を見合わせて苦笑した。


「な、何かおかしかったですか?」

「なんでもありません、リヒト様。それでは、よろしくお願いします」


 明日香の言葉を受けて、研究バカのリヒトによる検証が始まった。


「それではいくつかの質問をさせていただきます。その中で魔導具に何ができるのかも合わせて検証して行きましょう」


 最初にリヒトが検証を始めたのは、ステータスを見る事ができるかどうかである。

 今までは鑑定スキル持ちに依頼するか、鑑定スクロールを用いてでしか知る事ができなかったステータスだが、それが明日香だけとはいえ分かるとなればさらに生きやすくなるだろう。


「試しに私のステータスを鑑定してみてください」

「えっと……どうやって?」

「魔導具によくある事ですが、そうしたいと願うとできる場合が多くあります」

「私がリヒト様のステータスを鑑定したいと願えばいいんですね?」


 明日香の言葉にリヒトが頷くと、彼女は頭の中で鑑定したいと願いながら彼を見つめる。


「……あ」


 すると、視界の中にリヒトの名前と好感度、それ以外に彼のステータスが表示された。

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