夢見た少女

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――隣の席に美少女なんていない。異世界転生もできない。道の角でぶつかるイケメンなんているわけがない。

 世間が想像するような暖かい家庭だってない。心から私を必要としてくれる親友もいない。飛び降りを止めてくれる救世主だっていない。

 鍵掛けからお借りした屋上の鍵をポケットの中で握りしめ階段を上る。足取りは決して重くはない。映画ならばBGMが流れ、クレジットが表示されている頃だろう。

 量産型の物語は田植機のようにポンポンと夢を植え付けた。私たちは夢と乖離したこの現実を身一つで生きる必要がある。代表して私を形容しようとするならば「夢見る少女」いや、「夢見た少女」とでも言おうか。そうだ、これを私の人生の題名にしよう。後ろ手で屋上の鍵を閉める。

 屋上の柵に足をかける。このタイミングで物語なら誰か来るはずだ。親友、担任、あるいは清掃員のおじさん。もちろん背後に気配はない。映画のワンシーンに最適な展開が待っているというのに。ボカロの一節でも構わない。目の前に広がるは彩度百二十パーセントの青空……ではなく、ただの曇天。日常によくあるただの曇天である。グリーンバックの必要性をこんなところで感じるとは。タイミングは最悪だがそんなのどうだっていい。

 後ろ足で柵を踏み切る。思い残すことはない、と思いたい。少しの滞空時間に心が躍った。私は飛んでいる。ドラマで見た通り、頭がゆっくりと下がる。そして気づいた、最期に大きな過ちを犯したことに。落下予想地点に歩くのは制服を着た二人。このままでは彼女達の未来を文字通り潰してしまうことになる。地面に着くまではほんの数秒。私は咄嗟に言葉にならない声を上げた――

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