第15話「決着のとき」
そして時間は
ギィン──と高音を響かせて、アズライルの振り下ろした剣は私の肩装甲に弾かれ、刃の半ばであっさりと折れた。
その切っ先は回転しながら彼自身の顔面を襲う。
「おっと」
無造作に首を傾げてそれをかわしたアズライルは、続けて飛来するミオリの投じたナイフたちも、半分の長さの剣で
その隙を狙うかのように、私の右腕がひとりでに動く。
あの優しい声が『いまは任せて』と囁いた気がした。
拳は固く握りしめられ、彼の胸の真ん中に向けて凄まじい速度の正拳突きが放たれる。
「おもしろい、おれを殺してみせろ」
不敵に笑いながら折れた剣を放り捨てたアズライルは、迫る黒き鉄拳の一撃に対し、手首を左右から両手で掴んであっさりと受け止めていた。──額の
籠手の内部から放出され、魔戦士の鎧を形成した魔力は、おそらく緊急用の
それはきっと過去に籠手を使った誰かの魔力の残滓。
誰かが誰かは、今は置いておく。
重要なのは、そう長くは
長引けば、不利なのはこちらだ。
「この程度か?」
失望したように吐き捨てる彼の目は、しかしそこで驚愕に見開かれる。
それは私の右手を覆う、そして彼が両手で抑え込んでいる
そう、いわゆるロケットパンチである。
特撮にもたまに登場する武器だけど、まさか自分の手からそれを放つことになるとは思いもよらなかった。
その威力たるやすさまじく、アズライルの抑え込む力をあっさり振り切って胸にめり込みながら、彼の体を
「ゲホッ……やってくれたな……」
咳き込んだアズライルが袖で拭った口元には、べっとりと鮮血がこびりついていた。
そして彼の足元に黒い籠手が転がり落ちる。
ほぼ同時に、私の全身の装甲はすべて紫の炎になって散華するように消えた。
──ミオリ、お願い!
最高の姉で侍女で忍者である彼女は、私が口に出すまでもなく、籠手を取り戻さんと前傾姿勢で駆け出している。
「まあいい、必要なものは手に入った」
対して、すでに魔鎧を解除したジブリールは、無事なほうの左手で懐から黒い鍵状の物体を取り出す。
なんらかの魔具だろうそれを膝立ちで足元の石床に突き立て、鍵穴があるかのようにくるりと半回転させた。
「ミオリだめ! 戻って!」
嫌な予感に突き動かされ私は制止の言葉を上げる。
応じて急停止したミオリのつまさき数センチまで、黒い円形の穴としか形容しようのないものが、ジブリールの足元を中心に床に広がっていた。
帝国から来た男二人と、その足元に転がった
ここは地下室で、それより下の階はない。しかし私には察しが付いた。
それが、
黒穴の下は地中でなく別の空間──おそらく帝国領のどこかに繋がっているのだろう。
「残りは
ジブリールの口にした「次」こそが、あの襲撃の日になるのだろう。
そして見る間に肩まで沈んだ赤髪と蒼髪の二人は、それぞれに狂笑と、不敵な笑みとを浮かべ、同じ意味の台詞を吐いた。
「
──なんだか、すごくモテているような気がする。すこしも嬉しくはない。
互いの言葉に憮然として睨み合ったまま彼らは地中に消え、黒穴も滲むように消えて、元通りの石床だけがそこに残る。
私の左手にはお母様の
そしてずっと張り詰めていた糸が、ぷつんと切れる。
駆け寄ったミオリの優しい腕のなかで、私の意識もまた黒い闇へと沈んでいく。
──けれど闇の中で私は、運命に抗うひとすじの光明を、見出していた。
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