第03話「ゲームと現実」
「──ねえねえ
冷静に考えるとけっこう恥ずかしい呼ばれ方だが、慣れてしまったのでもうなんとも思わない。
「このゲームにさ、エリシャって名前のライバルが出てくるの。いわゆる悪役令嬢ってやつ……ほら、けっこう可愛いでしょ」
彼女がテーブル越しに見せてきたスマホの画面には、紫のドレスを着た黒髪の美少女キャラが描かれている。
美少女なのだが、目付きがキツい。底意地の悪さがにじみ出ているキャラデザだ。
「でもめちゃめちゃ性格悪くて、意地悪ばっかしてくるんだよねー」
いま人気絶頂のスマホ向け乙女ゲーム「
剣と魔法の
そして二人は結ばれる、というわけだ。
ちなみに正直、普段の私はこういったゲームにほぼ興味がない。
やりがいのない仕事と上司のパワハラ&セクハラに疲弊する私の日々に癒しをくれるのは、日曜の朝に地球を守り続けている特撮ヒーローたちだから。
「……で、聖騎士任命式典を敵が襲撃したときにこの子が人質になって、国王とか王妃とかみんな殺されちゃう。それでも国は救えるけど、ノーマルエンドにしかならないの」
そのあと彼女は悪女の誹りを受け、第三王子との婚約も破棄、国外追放された挙句に悲惨な最期を遂げて──私の薄い反応を気にも止めず、熱心に語り続ける奈津美だった。
まあいつものことだし、私も先週、同じように特撮における
ただ正直に言えば、私は自分と同じ呼び名の少女の境遇に少し興味がわき始めていた。
「で、頑張って
「いいじゃない、さすがエリシャ」
いいぞいいぞ。ライバルが味方になるのは特撮的にも私の大好きな展開だ。
「まあ、その場合は逆ギレした敵に殺されちゃうんだけどね彼女。でもそれがきっかけで早めに聖女の力が覚醒して、
「……えっ……」
──なんて、救いがないお話だろう。
物語の最良の結末は、彼女の命と引き換えにしか訪れないというのか。
彼女は物語の主役じゃない、むしろ悪役だからしょうがないのかも知れないが、それにしたってあまりにも……。
「なんかねー、名前が名前だけに、ちょっと可哀想だなって……ってなに、泣きそうになってない?!」
「そっそんなわけないじゃん! ……あ、ほら、奈津美の濃厚背脂煮干しラーメン大盛りきたみたいだよ」
「おーっ! これよこれこれー!」
などとその場は誤魔化したものの、同日夜、どうしても胸につかえたままの「エリシャ」のことをもっと知りたくて、私はベッドに寝転びつつスマホから公式サイトを眺めていた。
アニメ化もされているらしく、それだけでも見てと奈津美に前々からゴリ押されている。今ちょうど、最終話直前のクライマックス回がネットで視聴可能になっていた。
──その赤と黒で染まった不穏なサムネイルに、少しだけ躊躇してから、指先でそっと触れた。
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