第34話 話し合いをしよう

途中から抜け落ちた記憶。


どうしても思い出せない、ベルが殺された時の記憶。旦那達との出会いの記憶。


肝心な所が全て抜けていた。


「ベル、どうする?」


私が頭を抱えていると、シュフェルが顔をのぞきこんで話しかけてきた。


ベルは迎え撃てと言っていた。けど、私は今回はもう少し慎重に行くべきだと思っていた。


ミリアは物語が始まる時には既に、サザンの男と知り合いだった。


もし今回の襲撃がミリアとの出会いのきっかけになってしまっているのなら、今回はサザンの奴らを、せめてディアンベルには近づけたく無い。


となると、やはり。


「じっくり、しっかり、話し合おうか。サザンに文を飛ばせ。今から向かうとな!」


私の言葉にみんな固まった。


そして最初に沈黙を破ったのは、ハレルドだった。


「待って!明日襲撃に来る敵に話し合いをしに行くだなんて、ダメだベル!」


「何故だ。話し合いで解決することもあるだろう。」


「今まで無視してきたサザンと話し合いなんて、それこそ火に油だよ!」


「戦争が起きれば民が巻き込まれるのは目に見えている。ならば少しでも平和的解決の方法を探すのが、皇帝の役目だ。それに、私は強い。」


私はスラスラと言葉が出てくることに自分で驚きつつも、目の前にいる夫達に強くそう言い放った。


ベルリア…ごめん。


「今から急いで行く。来たくないやつは来るな。覚悟のないやつが来たところで足でまといだからな。で、お前達はどうする?」


私はテントの外に居た兵士達にそう告げてから、夫たちをみた。


「俺は行く…。」


スルガが最初にそう言うと、シュフェルとハレルドは顔を見合わせて少し間を置いたあと二人とも深いため息をついた。


「僕も行くよ。」


「じゃあ私は城に戻るよ。みんなにこのことを伝えて後で追いかける。」


ハレルドらしい。城に帰って状況説明をして、皆にもしっかり役割を与えるつもりだろう。


本当に頼りになる最年長だ。


「分かった。着いてくる者は直ぐに荷物をまとめて必要最低限のものだけ持って馬に乗れ。それ以外はハレルドと急いで城に戻れ!」


私は少しの食料と水を小さな袋につめそれを肩から背負い近くにいた馬に乗った。


スルガとシュフェルと、数人の兵士が私の後ろに並んだ。


「よし、行くぞ!」


私は勢いよく手綱を引き馬を走らせた。


少しでもベルを長生きさせる為に、今回の目的は戦争を止める、と言うよりも、ミリアとサザンの男を会わせないこと。


私は手綱を持つ手に力が入る。








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