第30話 恨み

ディアンベル当主は顔を青くしながら震えた。


「言いがかりはやめてください!!お父様がそんなことするわけが無いでしょう!」


「では、この邸を調査しても構わないな?」


「ええ!怪しいものなんか何も出てきませんわ!ね、お父様。」


ミリアは本当に空気を読めないバカだ。


ここまで黙って俯いていたディアンベル当主が目に入らないのか。


どう見ても何かある。


「と、そなたの令嬢は申しているが、吐くなら今のうちだぞ、ディアンベル当主。」


私が笑って声をかけると、ディアンベル当主は直ぐに白状した。


「ある日コールに毒が欲しいと頼まれました。うちは代々薬草を扱い、薬の調合をしていたので手に入れるのは簡単でした。何に使うのかと聞いた時、コールは何も言いませんでした。しかし、私はわかっていました。確か、陛下の専属医にコールと同級生の方がいましたよね?その方がとても憎かったと良く話していました。そしてなにより、貴方様を1番許せないと言ってました。だから、頼まれた時についにやるかと思いました。これで陛下が死ねば、再びこの大陸で最強の国に戻れる。そう思い私も知らぬ振りをしていました。」


それを聞いたミリアは、放心状態で床に座り込んだ。


ディアンベルは元々最強と言われていた国だった。

この大陸では負け無し、そう言われ周りの国が制圧されるのも時間の問題だと思われていた。


しかし、一人の名も知られない学生がたった一年で大陸上の全ての国を制圧した。


それがベルだった。


全てはベルのカリスマ性、努力故の結果だった。


そして、ついに最強ではなくなったディアンベルは、国民に散々バカにされた。


もちろんプライドの高いコールは許せるはずもなく、それはそれは怒り、当時は悪口を言ったものをその場で斬り殺していたとか。


だから、コールはベルのことを相当恨んでいた。

さらに追い打ちをかけるように、世界的に名が知れたラミアートがベルの夫と来た。


まぁ、気持ちは分からなくもなかった。


「コール・ディアンベルと、ヴォルダリア・ディアンベル当主の処分については、後日決定する。連れて行け。」


「待ってくだい!お父様はただ薬の材料を仕入れていただけですわ!直接陛下の暗殺に関わっていたわけでは…。」


「はっ、ここへ来る道中、100人ほどの暗殺者に襲われた。それもヴォルダリア・ディアンベルが仕向けたことは分かっている。これが直接でないならば、なんと言う。」


私はこの話は城に戻って言うつもりだった。

なるべく襲われたことを周りに知られたくなかったから。特にこの空気読めないお姫様とか。


けれど、このバカ娘の発言にカチンと来た私はつい言ってしまった。


暗殺者がディアンベルの回し者だと気づいたのはこの邸に入った時だった。


だって、この国で1番偉い人の家なのに、兵士の姿がない。

騎士も2、3人程度。


これはどう見ても、おかしかった。


そして、騎士たちの立ち姿で分かった。

暗殺者たちの立ち姿と同じだと。


それで気づいてしまったというわけだ。


しかし、本当に頭にきた私は吐き捨てるようにミリアに背を向けながら、


「お前はもう少し、状況を把握できるようになる勉強をした方がいいぞ、ミリア嬢。」


バカにするように鼻で笑ってその場を後にした。


後ろからはカップが割れる音と、メイドたちの声が聞こえた。


シェルジオはそんなミリアを心配してなだめているようだ。


私は少しモヤっとした。


「面白くないな。」


つい言葉にしてしまい、コラとハレルドに怒られた。

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