第1263話 心がモヤッと

 問題ないことが確認できた俺は、一応グリエルに今回の事を報告しておく。


 グリエルは、俺がへこんでいる理由を察してか、苦笑をしながらお礼を言ってくれた。


 この落ちた気分を何とかしないとな。気分転換を兼ねて庁舎から家まで歩いている。今日のお供は、聖獣の3匹だ。妻たちは全員自分の持ち場に行っている。


 いつものようにダマ・シエル・グレンは子どもの人気者だ。この街で動物を飼えない事は無いが、俺の従魔がそこら辺をふらふらしているので、わざわざ自分の家で飼う必要は無いと考えている人が多いようだ。


 俺の従魔以外にも、ミリーの従魔や土木組の従魔、そして魔物では無いが家で飼っている猫も良くディストピアの街を散歩しているのだとか。猫も何かあってはいけないとLvを上げているので、行動範囲がやたらと広いのだ。


 娘たちができてからは、交代交代で街へ出かけているようだが、それでも小さい動物は子どもに人気だ。大きい魔物も人気だけどな。


 で、可愛がられている3匹の聖獣だが、ダマがトラと同じ位のサイズでその背中にミドリガメ程度のシエルが乗っており、スズメサイズのグレンがダマの頭の上にとまっている。


 シエルは普通に歩くと遅いので、移動する際はダマの背中かグレンに甲羅を掴んでもらい運んでもらっている。


 それにしてもすごい人気だな。初めに見つけた子どもの声を聞いてさらに子どもが集まり、その声を聞いて大人も集まってくる。


 子どもは撫でたりするだけだが、大人は何かしら食べ物を持ってくる。パンや野菜等、偏りの無いように持ってくる所がしっかりと勉強してくれている証拠の様な気がするな。


 ディストピアでは、大人も学校に通うというか、勉強をする事もできるのだ。しっかりと知識が身についているようで何よりだ。


 余談だが、大衆食堂みたいな所では、栄養が偏りやすい注文をする人が多いので、しっかりと勉強をした店主やウェイターがお客様の事を考えてバランスが良くなるように助言したり、付け合わせを変更したりしている。


 最初の頃はブーブー言っている客が多かったみたいだが、日に日に体調が良くなっている事に気付くと、注文の際に自分からメイン以外は何がおススメか聞くようになった人が増えたとかなんとか。


 免許制にするのは、この街でもさすがに知識の面で問題が多いので、免許ではなく通信学校みたいな形で○○の授業を受け試験に合格し単位を取得した事を証明する証書を発行している。


 この証書があるからなんだという事は無いのだが、しっかりと知識があるという事を証明する物であるので、客が判断する基準になっているのだとか。


 それもあって、食べ物を提供するお店では、最低でも1人はこの証書を持っている人がいる。


 おっと、関係ない方に考えが逸れていったな。


 こいつらはブラウニーの用意してくれるご飯を食べているので舌が肥えているのだが、だからと言ってそれ以外の食事を否定するわけでは無い。今でも普通に生肉に食らいついている事もあるしな。


 それもこれも、ディストピアの食のレベルが高いからという事もあるんだよな。それでも、本当に美味しくない場合は食べるのを途中で止めるけどね。特に屋台の店主は、ニコの食べ歩きみたいな基準を見出している。後は試作品の料理を持ってきたりもしているな。


 お願いだから試作品は自分で味見してから持ってきてくれよな。


 和気あいあいと触れ合っている様子には癒されるな。


 なんて思っていると、服が引っ張られる感触が、何だろうと思いそちらの方を見てみると、4歳位の幼女がいた。


「りょーしゅしゃま! ひとりでさみししょーだから、あたしがあいてしてあげるよ!」


 微笑ましい気持ちで見ていたつもりだが、この子には寂しそうに見えてしまったのか、


 俺は幼女の視線に近付くようにしゃがんで、


「ありがとね。でもね、寂しかったわけじゃないんだよ。ダマたちが人気者で嬉しいなって思ってたんだ。ちょっと大変な事があってね、みんなの姿をみていると心が落ち着くんだよ」


 幼女はよく意味が分かっていないようで、コテンと首を傾げるが、大変な事という部分に反応したのか、「よく頑張りました」と言って頭を撫でてくれた。


 その様子に思わずほっこりとしてしまう。


 そして幼女を探していた母親がその様子を見て、慌てて俺へ駆け寄ってきた。そこで滅茶苦茶謝られたが、別にこの子は何も悪い事をしていないから大丈夫だと伝える。


 それでも謝ってくるので、少し強い口調で、


「悪い事をしていないのにあなたが謝ると、この子が俺と話す事が悪い事だと思うかもしれない。それでこの子や他の子が俺に話しかけてこなくなったら寂しいよ。この街では、貴族と平民みたいな理不尽な上下関係は無いんだから、もっとのびのび育ててあげて欲しい。もう少し大きくなったら、年齢や立場と言った上下関係がある事を教えてあげてください」


 このお母さんは俺の言いたい事を理解してくれたかな? 家に帰ってから怒るとか止めてくれよな。


 さすがにいつまでも遊んでいると俺が家に戻れないので、みんなには他の従魔も見かけたらなでてやってほしいと伝えて家に帰る。


 そうすると、庭から娘たちの声が聞こえて来た。


 何をしているのかと思ったら、庭で元気よく遊んでいたのだ。


 家の庭は、柔らかいとはいえ芝生なのでチクチクするのだ。それをものともせずに3人が母親や年少組の妻たちに手を取ってもらい裸足で歩き回っている。たどたどしいけど、その様子がまた可愛い。


 こっそりと近付き写真を撮っていると、俺に気が付いた娘たちが俺に歩み寄って来た。


 おっと! 慌てて体臭が大丈夫か確認するために服の臭いなどを嗅いだ。ダマにも確認を取ったが、問題ないとの事だ。よし、これで娘たちには逃げられないで済むな!


 カメラから手を放してその場に座り娘たちを待って両手を広げている。


 初めに到着したミーシャが、俺の横をかけていく……はぁ? 次に来たブルムとスミレも俺の横を……


 俺は両手を広げたままの状態で前に倒れ込む。


 今の様子を見ていた妻たちが笑い声をあげていた。


 俺の道化のような状態が面白かったのだろう、カエデがお腹を押さえながら一言「今回はあなたじゃなくて、大きくなったダマが珍しかったようね」と。


 後ろを振り向くとトラ位あるダマの足に3人共抱き着いていたのだ。大きい体だと娘たちに怪我をさせてしまう可能性があるのか、じっとして娘たちの好きなようにさせている。


 そういえば、こいつって普段は小さいままだから、娘たちが大きいサイズのダマを見る事ってあんまりないよな。珍しくて抱き着いたのかな?


 大きくなってもダマだという事を理解していて名前を呼んでいるしな。


 そんな様子をカメラでパシャリ。レンズ越しに覗いたみんなの姿は、涙で歪んで見えた。

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