第943話 いざダンジョンへ

「じゃぁ、今日から本格的にダンジョンに入る事になるから、気を引き締めて行こう。ウィスプ達にマッピングをしてもらっているけど、あまり油断しないようにね。ダンジョンの中は基本的にピーチが中心でいこうか」


「了解しました。私たちはまだ、このダンジョンの魔物と戦った事がありません。どれだけ強いのか、どんな能力があるのか全く分かっていない状況です。なので、最低でも1階毎に1回は戦闘をします。斥候班が鑑定をして、前衛で強さを体感で測ってください。魔法組は援護を! では出発します」


 俺達はダンジョンの中に入っていく。俺はすぐにマップ先生を開いてマッピングの状況を確認する。


 うん、この階は思ったより広くないな。とはいえ、1キロメートル四方の広さは余裕でありそうだ。比較対象が、他の3ヵ所が繋がっているダンジョンの方だから、小さく感じるのは仕方がないだろう。


 向こうは少なくとも、横が40キロメートル縦が20キロメートル程あるダンジョンなのだ。このダンジョンの分は小さくなっているだろうけど、微々たるものだ。


 ダンジョンの1階を進んでいくが、


「魔物の気配が全くありませんね。この階での戦闘は難しそうなので、先へ進みましょう」


 ピーチの指示に従って、この階での戦闘は諦めて最短距離で2階への入口を目指す。入り組んでいて、マッピングしていなかったら進むのが面倒なくらいだった。


 2階に到着すると、敵の気配を感じるようになった。ファーストコンタクトは、まさかのゴブリンだった。何の変哲のないノーマルなゴブリンだ。斥候班からもLvも高くない通常のゴブリンだと合図が来ている。


 4匹で固まっていたゴブリンは、こちらを見つけるなり敵意を見せてすぐさま走って近寄ってきた。


 シュリたちタンク陣に体をぶつけられ止まったかと思ったら、ドロップ品に変わっていた。間違いなく雑魚のゴブリンだった。


 このダンジョンって何なんだ? 入口の外の魔物より、中の魔物の方が弱いってなかなかないパターンのダンジョンなんだが。


 2階はその後も変わらずゴブリンしか出てこなかったので、3階へ移動する。ダンジョンは変わらず洞窟型の気持ち歩きにくいごつごつした道だった。


 3階で出てきた魔物は、またゴブリンだった。


「ご主人様、今回のゴブリンはさっきよりLvが高いです。さっきのゴブリンがLv6だったのが10まで上がっています。でも、私たちにしたら誤差の範囲ですね」


 前衛陣も問題なく蹴散らしていて、体感できる違いは無かったようだ。


「ウィスプがマッピングしてくれたマップを見ると、やっぱり下に行くにつれてダンジョンが広くなってるね。ピーチ、ちょっとペースを上げないか? 1戦するのはそのままに、ちょっと急いだ方がいい気がする」


 ピーチが俺の提案を聞いて、しばらく悩んで答えを出した。


「そうですね。もう少しLvが上がるまでは一気に駆け下りましょう」


 そう言って、新たに指示を出している。斥候も攻撃に入って一気に進む形だ。戦うメンバーを変えながら、負担を減らして進んでいこうという事だった。


 4階に入ると四足歩行獣の一番よわい、ホーンラビットが出てきた。と言ってもLvはゴブリンより高く、角による一撃は格上でも瀕死になってしまうほどだ。


 まぁこの島を進んでこれる人間なら、油断をしなければケガを負う可能性すらない相手だが。


 すれ違いに首をはねとばされて絶命するホーンラビットは、少し哀れに思ってしまうほどだった。


 この階も何の問題も無いとの事で、最短距離で4階を駆け抜けていく。5階にはいってもホーンラビットのLv4~5位上昇しているだけで、大した差は無かった。


「このダンジョンは、2階毎に敵が変わるタイプなのかな?」


 と思っていたら、さすがにそんな事はなかった。次の階層からは、亜人と獣の混成部隊になっていた。


「ご主人様。このダンジョンって他のダンジョンとは違って、亜人と獣の混成部隊ですね。これは、連携をとってくるようでしたら、魔物のLvが低くても油断できませんね」


 違うタイプの魔物が混成部隊を作るとかなり厄介になるのだ。Lv20前後の亜人と獣とはいえ、油断はできないのだ。


 亜人は、ゴブリンだけでなく、コボルトやオークまで追加されて、魔物も種類が増え、かなり対応が面倒になってきている。獣系はホーンラビットに加え、ネズミやウルフ系、他にも猫系の魔物も増えていたのだ。


「一気に対応しにくくなりすぎじゃね?」


 俺たちにすればたいした事はないのだが、ここに来れるギリギリのレベルの冒険者では、ちょっと厳しいのではないかと思う……倒せる事は倒せると思うんだ。だけど、その度に怪我をする可能性があるのでは、狩りをする条件にはならないだろうな。


「ですが、ここに来れる最低限のラインを越しているのであれば、すぐに対応できるようになるレベルだと思うのです。何度か怪我をして覚えればいいのではないでしょうか?」


 そういう考え方もあるのか。安全に戦えるって事も大切だけど、ケガをして覚えるのも経験か?


「ここで対応できるようになれば、自力はかなり底上げされるって事か? ここで死ぬようなら、この先に進む資格はない! みたいな感じなのかな。まぁダンジョンの中で見れば一気にレベルが上がってるけど、フィールドダンジョンを考えればそこまで差はないか?」


「シュウ君の言う通りかもね。海岸にいるシャークマンは別として、得意不得意で差は出るにしても、この階に対応できないようであれば、パーティーとしても個人としても力量が足りなかったって事だと思うわ」


「でもさ、索敵にひっかからない蜘蛛とかヘビはヤバくないか?」


「あれ? ご主人様は気付いてなかったのですか? あの蜘蛛やヘビは、索敵が効く魔物に比べて半分くらいのLvしかありませんでしたし、あそこを進める冒険者からすれば、そこまで危険ではないと思いますよ?」


 ん? いちいち、闇魔法を使ってあぶりだす必要なかったのか? それならそうと早く言ってくれよ! と内心思っていたら、カエデから「早く進むならあの方法で正解だから問題ないと思うわ」との事、あれ? 俺の心が読まれた?


 5階の魔物も俺たちからすれば、大した事のない雑魚なので、上の階と一緒で最短距離を移動しながら、すれ違いざまに倒していく形になった。

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