第916話 兵士たちの成長

 島の中心から拠点に戻ってきた。道は拠点からは見えない位置にあるので、俺達は島の外周を歩きながら橋のかかっている場所へ向かっている。


 そうすると、遠目に魔物と戦っている兵士たちの姿が見えた。


「けど……何か地形が変わってないか?」


「確かに変わってるわね。それに壁に門? ディストピアの防衛戦をイメージしてるのかしら? さすがに溝は無いけど何となく窪んでいる場所があるわね」


 俺の目が幻を見ていたわけではなさそうだ。隣にいたカエデにも同じように見えているし、後ろにいるみんなも、なにこれ? みたいな感じで会話が弾んでいるから、間違いない。


「ただの戦闘訓練じゃなくて、防衛訓練みたいな感じにしてるのかな?ちょっとレイリーに聞いてみよっか」


 門のような場所の上で指揮をとっている兵士の横にいたレイリーの所まで移動する。


「おぉ、シュウ様お帰りなさいませ。早かったですな。それで拠点に戻らず、ここに上がって来たのには何かおありですかな?」


 俺がいなかった時の事と、この門みたいなものと、現在の訓練の内容について色々聞いてみた。


「いなかった時ですか」


 道のある方からの魔物が多く感じた事と、ここ2~3日は特に大きな怪我はなくなってきているとの事だ。高ランクのポーションも、エリクサーも使っていないとの事。実力が上がってきてるのかな?


 門と戦闘訓練の内容は、俺が思った通りディストピアの門の前での防衛戦をイメージしているとの事だ。なので、門の前にいい匂いのする食べ物。シルキーの特製、キャットフードならぬ魔物フード? が準備されていた。


 何か犬や猫の餌で、しかもなま物系の餌だったので、魔物たちが2~3割増しで襲ってきたとの事らしい。


 それにディストピアの兵士は、俺のため、街のために兵士になって守り抜くと考えている者たちしかいないので、ただ無暗に戦闘訓練を行うより、守る対象があった方が身が入るのだそうだ。まぁ本物じゃないので、失敗した際にはペナルティーを与えるらしい。


 どんな内容のペナルティーなのか気になったので、聞いてみたが教えてくれなかった。しつこく聞いてもダメだったので、ペナルティーだったとしても酷い事は許さないと釘を打っておいた。


 しばらく門の上から戦闘風景を眺めていたが、俺たちが島の中心に向かう時と違って動きがよくなっていた。その様子を見ていたリンドが、マップ先生をひらいて何やら確認している。


「シュウ、マップ先生でいいから、下の兵士たちのスキルを確認してみて」


 深刻そうな顔をして俺にそう告げてくリンド。


 慌てて、言われた通りにマップ先生を開いてみた。


「なんじゃこりゃ? 全員、護り人っていうスキルがあるな。これがみんなの動きがよくなっている原因か? それに……」


 隣にいて指揮をしている兵士に合わせて見ると、護り人以外にも統率者というスキルが付いていた。こんなスキル初めて見たんだけど、まんまな意味のスキルなのかな?


 覚えようとして覚えれる物ではないので、兵士の皆にはプラスになるものだし放置しておこう。


 橋を渡って拠点に戻ると、数日しか離れてなかったのに懐かしさを感じるな。


「毎日風呂に入ってたけど、さっぱりしよっか! みんなはどっちで入る? 船にもあるし拠点にも女子風呂はあるけど」


 どうやらみんなの選択は、船のお風呂を選んだようだ。みんなで入るには狭いが、自分たちの空間で入りたいとの事だった。みんなが船のお風呂に入るなら、俺は拠点の風呂に入るかな……お前らはついてくんな! ゆっくり風呂に入らせてくれよ。


 そんな俺の願いはかなわず、従魔たちが全員俺について来て俺の前に列をなしている。俺の体を洗う前にお前らの体を洗えって事か? あ~やってやろうじゃねえか!


 ニコとハクはすでに湯船につかっている。どうやって頭にタオルを乗せた?


「まぁいい! かかってこいや!」


 中継拠点で使っていた高圧洗浄機を取り出して、3匹ほど並べて一気に高圧のお湯で洗っていく。


 マジで時間がかかるから大変なんだよ。そして、ミリーの従魔まではまだわかるけど、何で土木組の従魔まで俺の所に来るのか謎なんだが! まぁ、全員洗ってやるから待ってろよ!


 1時間かけて、高圧洗浄機だけの洗身だがみんな綺麗になったな。俺はみんなを洗ったせいで、汗だくだよ! 今日は、少しスーッとするボディーソープでも使うか。


 体を洗って湯船に向かうと、おい! 俺の入る場所がないじゃないか!


 そこには、所狭しとオオカミたちが入っていたのだ。入りきれないオオカミは、湯船の側で寝そべっている。何でこうなった? 俺、湯船に入れないな。んっ? 脱衣所から声が聞こえるな。


「あっ! ご主人様、発見! クロたちがいないからここだと思ったの!」


 三幼女が姉御組の3人を連れてお風呂場へやってきた。


「シュウ、どうせこんなことになってると思ったから、助けに来たわよ。船の方はみんなあがったから、そっちで入ってきてよ」


 カエデが俺にそう言って、助けてくれた。入りそびれたダマとシエルも一緒に移動を開始すると、一番初めにお風呂につかっていたニコとハクが、2匹の上に鎮座していた。


 ってかさ、ハクよ。何でお前の体は乾いてんだ? 魔法でも使ったか? ダマに通訳してもらったら、魔法も使ったけど本命はニコが体を包んで、体に付いた水を吸収してくれたらしい。ニコ、思ったよりすげえな!


 船に着く頃には、また汗をかいていたのでお風呂に入る前に体を綺麗に洗って湯船へ向かった。


 それにしても、お前ら器用に浮かんでるな。入る時に少し邪魔だったので横に動かすと抗議されたが、無視である。


 無視しているとダマが抗議しに犬かきで近寄ってきた。お前、犬じゃなくてトラなんだから、ネコ科の動物になるんじゃねえのか?


 まぁそんな事はどうでもいいか。満足するまで入ってからお風呂を後にする。

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