第914話 驚愕の進み方

 次の日、2個目の中継拠点、島の外縁部から10キロメートルの地点。


「アリス、本当にやるのか?」


 俺は、朝食の時に聞いた出てからすぐの戦闘の仕方について尋ねた。


「あの時は木が有ったのに火魔法を選択したことがミスでした。魔法で暴風を出せるのでしたら、威力をあげてそこに石や水、氷なんかを混ぜておけば十分ですからね。前回でどれだけの威力があれば十分か分かりましたからね」


 あの時、火魔法を使ったメンバーは風と水に分かれて、水と氷と土魔法のメンバーは、撃ちだす瞬間にブーストして速度を上げる魔法の使い方をするそうなのだ。でもさ、それってかなりヤバい気がするんだよな。


 みんなの準備ができ、拠点を出発する。先頭ではタンク達が盾をかまえて侵入を防ぐようだ。


 魔法の準備を始めていた魔法担当のメンバー達は、外に出ると同時に更に魔力を練り上げている。それってちょっと強すぎると思うぞ。


 ピーチの合図によって、タンクが後ろに下がり魔法が発動される。


 ゴオオオオオ!!!


 普通聞く事のない大きな風の音に若干ビビりながら結果を待つ。


「うん、やっぱりやり過ぎだね。火魔法を使った前回ほど大惨事にはなってないけど、今回は今回で酷い状況だぞ」


 島の木は樹海の木より頑丈なのが確認されているが、その木が俺を中心として、20メートル程の幅で1キロメートル先位まで木っ端微塵になっているのだ。燃えてないだけで被害の規模は変わってなくないか?


 それに整地して石畳を敷いている道にも多少の被害が出ている。あれだけの威力のある質量体が、さらに風でもみくちゃにされれば威力が上がるわな。


「いえ、想定通りです。ただ、道に被害が出るのは想定外でした。もう少し上方に向かって魔法を撃つべきでしたね。ピーチ、シュリ、予想以上の効果だったわね。これなら、今日中に島の中心に着けるね」


 てっきり島への被害の事を考えてると思いきや、全く考えていなかったようだ。いちいち切って収納して進んでいくのが面倒になったようだ。力業で切り開いて、整地をしていく事にしたらしい。俺の知らない所で話が進んでいたようだ。


 傷付いた道を直しながら、一気に進んでいく。幅20メートル程の道ができているので、目による索敵もしやすくなっており、不意打ちの可能性が減っているのは良いことかもしれないな。


 森の中から出てくる魔物達は、魔法や弓によってすぐに迎撃されてしまうため、回収に行くのに時間がかかってしまっている。


 この島の特徴で、相手がどれだけ強くても襲ってくるから、とにかく戦闘が面倒なんだよな。魔物の数が一定以上になると、魔物同士が戦って数を減らすのかな? この島の生態は本当によくわからないな。


 それに普段は戦ってる魔物同士のはずなのに、外から来る何かがいると一致団結して連携をとってくるとか何なのだろうか?そういう意味では、島の外周でも連携をとってくる魔物達の強さは樹海以上って事だな。


 後2回程同じように魔法を使い、1時間もしないうちに昨日整地が終わった所までたどり着いた。


 そこからも同じ様に魔法を使って、襲ってくる敵を排除しながら、整地をして進んでいく。


 中継拠点から約4キロメートル行った所で、3つ目の中継拠点の作成を開始する。俺が建物を造っている間はハク、ニコ、ダマ、シエルが俺の護衛兼お目付け役になり、残りのメンバーは先に進んで道を作ると言って進んでいってしまった。


 みんなから離れるのは心配だったが、ここで建物を作っていてください! と強く言われたのでしょんぼりとしながら、一生懸命建物を建設している。


 1時間ほどで建設が終わり、屋上に上ってみんなの様子を見る事にした。


「おぉ~今のが3回目の魔法なら、今は2キロメートル地点から整地しながら進んでいるって所かな? それにしても、樹海みたいに雑草のごとくニョキニョキ生えてくるからって、思いきった進み方を考えたもんだな。


 さて、どうするか? 今2キロメートル先なら、走ってけばすぐ追いつけるんじゃないか? よっし、ダマ、シエル、元の大きさになって! ニコはハクに乗っていくぞ~!」


 屋上から飛び降りて、皆の所へ向かって走っていく。ここまで全力で走ったのっていつ以来だろ? この世界に来て亜人の森で、ホモークに遭遇した時以来かな?


 久々に雷付与を全身にかけて、ステータスにものを言わせ一直線に走る。


 後ろを警戒していた妻たちが俺の事に気付いたのか、動きが慌ただしくなっていた。何をしているのかと思ったが、次の瞬間みんなの後ろからシュリが前に出てきて、俺に向かってチェインを使ってきた。200メートルも離れているのに届くんかい!


 それより、何でシュリが俺に向かってチェインを使ってきてるんだ? 混乱している頭を何とか必死に回転させ、シュリに怪我をさせないように盾を取り出して、踏ん張る。


 そこに妻たちから魔法が飛んできた。


 もしかして、俺を敵だと勘違いしてないか? 1人の結界だとどうしても魔法と物理を防げないので、結界で魔法障壁を張って、盾を使いキャッスルを使用して攻撃に耐える。


 30秒ほどの攻撃が終わった。だいぶ魔力と体力を消耗してしまったな。それにしてもよく耐えれたものだ。体を改造したおかげか?


「みんな、いきなり攻撃しないでよ」


 視界が開けたので、みんなに向かって愚痴をこぼす。そうするとみんなが慌てて近付いてきて謝り始めた。


 やっぱり、俺だと認識できてなかったんだな。話を聞いてみると、後方を警戒していたメンバーが高速移動している何かに気付いて、ピーチに伝えるとシュリに抑えるように指示を出したのだ。


 で、俺と認識する前にシュリがチェインで動きを止めて、有利な位置に引きずり込もうとしたが俺が踏ん張ったので、魔法と弓に切り替えて殲滅する事を選んだらしい。そして手加減無しに魔法を撃ってきたと、もし防御してなかったら、死にはしなくても瀕死だったかもしれないな。


 そう考えると、真正面から俺達の攻撃を防ぎ切った、聖国のSSSランクの冒険者ってすげえんだな。武器のおかげもあるけど、あたってもお構いなしに突っ込んできて焦ったもんな。


 そんな話をしたら、俺もその領域に十分踏み込んでるから、と言われてしまった。自覚は無いけど、肉体を改造してから強さの質が変わってるよな。


 少し泣き出しそうな嫁達をなだめて進む事にした。このまま戻るとお昼まで中途半端な時間なので、何とか言いくるめて前進することになった。


 そして、外周部から18キロメートル地点に4つめの中継拠点を造った。中心まではおよそ2キロメートル。木々はかなり高くなっており先がよく見えない。

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