第913話 毒じゃない毒?
中継拠点から出てすぐの戦闘が終わりをむかえていた。
「シュリ! そのサルの魔物を捕獲してくれ。ちょうどいいから実験につかおう。キリエ、カバンから荷馬車を取り出してくれ。クロとギン、すまないけど荷馬車で実験する間ひいてくれ」
すぐに指示を出す。シュリは問題なくチェインで強引に引き寄せて、近くにいたアリスとリリーがロープを取り出して簀巻きにしてくれている。あっ! 右手でも左手でもいいから、片方の手は外に出しておいてね!
キリエが出した荷馬車を、後衛のメンバーが手伝って、クロとギンにつないでくれている。シュリがそこに簀巻きにされたサルの魔物を運んできた。
「俺はちょっと実験に入るから、みんなはそのまま警戒しながら進んでくれ。俺の代わりは、ミリーに頼むからそのつもりで!」
基本的な指示は、ピーチ・シュリ・アリス・ライムが出しているが、俺が実験している間は、ミリーが代役としていいと思ったので頼んだ。
ただ、ピーチは念のためキリエとリリーを近くに置いてほしいと言われたので、俺の実験を手伝ってもらう。
「みんな、道の方はよろしくね! まぁ、ここにいるから何かあったら声をかけてくれ。じゃぁ2人共、実験を始めるよ」
そう言って、俺はゴブリンを召喚する。一応、最下級の魔物ならどの位で死ぬのか調べるためだ。まぁ死んでも心が痛まない魔物のラインキング上位に入るので、こういった実験には向いている。
召喚されたゴブリンは、一応俺の眷属になるが、問答無用で実験を開始する。まぁ眷属であっても、殺されると分かればすぐにパスが切れてしまうので暴れるのだ。なのでその前に拘束する。拘束したゴブリンにサルの魔物の爪を食い込ませる。
「えぇ~こんなに強力なのか? まさか傷付けてから10秒で死ぬって早くないか? 鑑定してもマップ先生でも状態異常になってはいるが、やっぱり毒ではないんだな。じゃぁ次の実験だ。キリエ、今度は回復魔法で回復しながら、免疫機能を上げる魔法を使ってくれ」
初めは1人でやるつもりだったが、ピーチがキリエとリリーを手伝いにつけてくれたので、協力してもらう。
実験の結果、ゴブリンは死んでしまった。この魔法では死を防げなかったようだ。その次に、万能薬を試してみたところ、Aランクの万能薬であればすぐに死ぬことはなかったが、治すことも出来なかったようだ。そのゴブリンも10分後に死んでしまった。
「Aランク万能薬もダメなのか、Sランク以上であれば、問題なく完治するみたいだけど、魔物の強さを考えると、効果が強すぎないか?」
「そうですね。ゴブリンだからかもしれませんが、もし他の魔物でも同じ結果になるようでしたら、この島の中心に向かうのは、止めた方がいいかもしれませんよ」
「でも昨日の魔物は、5分位死ななかったよね? そう考えると、ゴブリンが弱すぎるんじゃない?」
キリエの慎重論に、リリーが昨日の様子を思い出して意見を出してきた。
確かに昨日の不幸な事故でサルの毒じゃないな……なんていえばいいかな?
その邪爪で死んだ魔物は、確かに5分位は死なずに生きていたのだから、基本的な生命力……体力が影響しているのかもしれないな。
という事で、ゴブリンの上位種のゴブリンジェネラルとゴブリンのLvを30まで上げた奴を召喚する。
Lvをあげたゴブリンは、初期値のゴブリンと変わらない時間で死んでしまった。それに対してゴブリンジェネラルは、死ぬまでに20秒かかった。レベルはゴブリンジェネラルの方が低いのにな。
「こういう結果になるのか。これって、種族の元になるものが免疫機能に影響を及ぼすのか? そうなると、人間でも実験しないといけないのか? 死刑囚とかならまだいいけど、そういうわけにもいかないからな、どうしたもんだか」
とりあえず次は、オークで実験した。ゴブリンに比べ時間が伸びただけで、上位種も変わらない結果になった。
亜人型の魔物だけではなく獣型の魔物でも実験してみた。こちらは、亜人型に比べて基本となる死ぬまでの時間が長かった。
「どうするか? とりあえず、Sランクの万能薬は効果があるから、全員に多めに渡しておこうか」
基礎レベルがこのエリアと同じくらいになるAランクの魔物だと、実験結果が変わってきた。
Aランクの魔物だと、回復魔法を使いながら免疫機能を上げると、死なずに済んだのだ。と言っても、魔法をかけなければ、死んでしまうのは変わらないのだが。
レベルで分かれてくれるならいいんだけど、基礎ランクで結果が変わってしまった事が頭を悩ませることになった。
人間のランクはどの位置になるのか、レベルで変わってくるのか。結果を考えると、前者になるんだろうな。まぁ、生来の免疫機能の違いで変わってくるとは思うが、自分たちで実験するわけにもいかないからな。
以上の結果から、撤退を視野に入れていることを話したが、出来れば進みたいとお願いされ、今も島の中心に向かって整地をしながら進んでいく。何故、進む事を止めないのだろうか?
時間の余裕をもってお昼前には、10キロメートル地点に到着し中継拠点の作成を終わらせる事が出来た。
「敵の強さはどうだい?」
「そうですね。今まで戦った事のある魔物としては、たいして強くないと思いますが、やはり爪の攻撃に関して死ぬ虞があるという点において緊張感があるため、今までのような温室とは違い良い経験になっていると思います」
死の危険を良い訓練で片付けてしまうのか……それより、温室? 俺が過保護って事か? よくよく話を聞いたら、今までも危険はあったけど死ななければ回復できたので、今回は違う意味でいい訓練なのだそうだ。
俺の肝が冷えちまうよ。それでもSランク万能薬で何とかなる事が分かってるから、すぐに飲ませれば大丈夫だろう。あの後の実験で、Bランク以上のエリクサーでも回復する事が分かったので、万能薬と合わせて持たせている。
冒険者は冒険する事が! とかいうが、死んでしまっては元も子もない! 生きてなんぼ! 英雄譚なんていらんのだ!
昼食後、問題なく更に3キロメートル先まで開拓して、中継拠点まで戻ってきている。
お風呂に入ると、今日はニコがシエルの上に、ハクがダマの上に乗って俺の事を待っていた。どうやら2匹は、新入りの事を気にして他の従魔たちは追い出して、女湯に行かせたようだ。俺もすげえ助かる。最近かまってやっていなかったのか、2匹はめっちゃ甘えてきていつも以上に可愛かった。
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