第908話 持ち手って重要性
巨大化させたことで思ったより威力が上がっていた。とはいえ、やはり木だけでは多少質量を重くしても、貫通力に限界があるようだ。矢の先の硬さはやはり大切だな。
「私が考えるに矢の先にかぶせるだけでいいような、物にするのはどうかなって思ってるんだけど。矢は回収しない事が前提だから、刺さる事だけを考えれば、そこまできっちりとくっつける必要は無いと思うわ。刺さればいいだけなんだからね」
確かに刺さればいいだけなら、鉛筆のキャップみたいにはめるタイプの鏃があれば問題ないからな。重量を多少確保するために、矢の先がちょうどいい感じに出ているので、そこにつけられるような矢先があればいいか。
ドワーフたちにちょっと頼んでおこう。どうせ刺さる部分が尖ってればいいから、修行中の鍛冶師の修行にでも作ってもらえればいいだろう。
「それにしても、1週間も雨が降るなんて。ここに来て初めてだな。何かあったのかな?」
「気にするだけ無駄だよ。もしかしたら精霊が何かしてるかもしれないからね。ここら辺の地形をダンジョンマスターの力で変えてるからね。ここに来た人間に対して何か悪戯しているだけかもしれないから、考えるだけ無駄よ」
そんなもんなのだろうか? 精霊が気まぐれって言うのは、ツィード君を見てればよくわかる事だからな、こんなに雨が続くと何もできないな。そう考えると、早めに訓練スペースに屋根作っておいてよかったな。
ちなみに兵士は、雨が降り出して4日目からは、休んでいられないと言って雨の中、実戦訓練をしている。
初めのうちは、慣れない雨の中で訓練するのは早いと考えていたようだが、4日目になると訓練が目的で来ているのに、何もできないという矛盾でレイリーが強行で島に渡り実戦訓練をしている。
「兵士も頑張るな。といっても、レイリーの独断で訓練に出されてる感じだもんな。雨の中の訓練がある程度大切とはいえ、急にやるもんでもないだろ? 剣や槍の持ち手とか工夫しないと危ないだろ?」
俺は武器について詳しく知らないが、この世界の剣や槍は持ち手に多少の凸凹はついているが、濡れれば滑るだろう事は分かっている。雨だけじゃなく、汗や血、魔物の粘液などもある。だから冒険者は特に持ち手の部分には工夫をしている人が多い。
ディストピアの兵士は、ダンジョンでも狩りをしているので、持ち手を多少工夫しているがそれでもきちんと下準備なしには危険だろう。
実際、ここ3日はケガ人が結構出ており、衛生兵が活躍していると聞いている。って事はやっぱり、雨の中の戦闘が負傷の原因になっているのは間違いないだろう。
確か日本刀は、糸とか何かをまいてて滑りにくくなっているように見えるけど、あれって滑り止めなのかな?
テニスや野球のバットのグリップみたいに、何か滑らない工夫をしないと武器が滑っちゃうからね。まだフレデリクで冒険者をやってた頃に、優しいおっちゃんが武器の持ち手には、動物や魔物の皮なんかを巻き付けて滑りにくくする事が大切だと言っていた。
そういえば兵士と冒険者って身に着ける防具って結構違うよな。兵士に多いのは、金属の鎧を着てガチガチに身を固めていて、ガントレットを装備してるから気を使ってると考えてたけど、他の街はそうでもなさそうだ。
ディストピアに関してはちょっと事情が違うが、冒険者程そこら辺に気を使っているわけでは無い。ガントレットは腕の部分までしか金属を使っておらず、手の部分は魔物のドロップ品を加工して持ちやすく工夫はしている。
そこまでしてても、準備は万全ではなくケガ人が増えてしまっているのだ。どれだけ持つ場所が大切なのか分かるという物だ。
レイリーもこの3日でそれは痛感したようで、昨日の夜に俺に頭を下げて素材を出してもらえないか相談に来たくらいだ。
俺も滑り止めのような物を知らないので、鍛冶の得意なカエデとリンドに聞いても、分からないと返答されてしまった。鍛冶ではその部分まである程度加工して渡すだけなので、持ち手にまではこだわらないそうだ。
そこ重要じゃないか? と思ったが、リンドが生まれるずっとずっと前に、持ち手の部分に使った素材が気に入らないという事で、鍛冶師が切られる事件があったらしい。その時から鍛冶師は、最低限だけの加工しかしていないそうだ。
壮絶な過去があったんだな。その事件が無ければ、鍛冶師たちからその部分の知識がなくならなかっただろうに。それでも、カエデは自分で刀を打って冒険者もしていたので、持ち手にもこだわってはいるが独学なので、動物の皮の中で滑りにくい物を探して巻き付けているくらいだ。
そうしたら、ミリーから救いの手が、
「それでしたら、冒険者の方々に人気があるのは、ワニやヘビの魔物の皮が人気ですね。特にヘビの魔物の皮は、鱗に逆らって配置すると滑りにくくなるので人気が高かったですね」
「爬虫類の皮が人気なのか? といっても、そういう素材だと劣化が気になるよな。何かいい素材ないかな? 蜘蛛の糸とかどう? デビルスパイダーの糸なら少し粘着質だから、滑りにくいかなって思ったんだけど、どうかな?」
なんとなく日本刀の持ち手の糸みたいなのを巻き付けている部分を思い出していたので、糸繋がりで蜘蛛の糸を思いついたので提案してみた。あの蜘蛛の糸ならバザールが大量に保管してるから、ディストピアの兵士の分なら、十分に準備できる量だ。
「それって、今ある?」
「確か、バザールからもらった奴が、あったあった。これだけどどう?」
「無駄に綺麗にまかれた糸ね」
バザールがスケルトンたちを使って糸巻に巻き付けてくれた、デビルスパイダーの糸を取りだすと、カエデが呆れた声を出していた。
「あの蜘蛛の糸ってこんな感じなんだ。糸同士でも取れにくくなるわけじゃないんだね。それにかなり伸びるのね。それにベトベトしているというより、しっとりとくっつく感じかな?」
予想以上に使い勝手のいい素材だったようで、カエデ、リンド、ミリーが食いついて研究を始めてしまった。カエデとリンドは、純粋に武器に使う素材として、ミリーは自分が担当しているディストピアの冒険者ギルドで使えないかという点で見始めたのだ。
錬金術で多少いじる事が出来たら違うかもしれないな。あのまま使うにはさすがに微妙だよな。って、あれも魔物の素材だけど、劣化とか大丈夫か?
おっと、気付いたら他の嫁達も集まってきて、いろんな方法で加工されたり、武器にまきつけられたりしていた。途中で糸が足りなくなったから、早く出して! と怒鳴られた時には、びっくりしたよ! 俺何も悪い事してないジャン!
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