第907話 攻撃手段
「今日も雨が降ってるな。昨日の拠点に置く武器でも作るかな」
朝食を食べて甲板に出ると、昨日よりやや強い雨が降っていた。そういえば、この世界に来て3~4日まとまって、強い雨が降る事って無かった気がするな。日本みたいに梅雨はなさそうだしな。そう言えば四季らしい四季はない?
あまり意識してなかったけど、樹海の中って四季なくねえか? でも、急に寒くなって雪が降る事とかはあったけど、この世界の季節ってどうなってんだ?
「なぁ、この世界の季節ってどうなってるんだ?」
一緒に武器を考えていたレイリー、カエデ、リンド、ミリーに聞いてみた。そしたらすごく変な顔をされてしまった。解せぬ!
4人から話を聞くと、この世界にはある程度時期によって四季らしきものはあるが、精霊の恩恵が強い土地では、精霊が気まぐれに季節を変えてしまうらしい。そして、精霊でも上位の四大精霊は俺の眷属ならば、俺の過ごしやすい季節に環境を整えてもおかしくないとの事だ。
ここに来て知った初めての知識だ。あまり季節とかは気にしていなかったが、熱くなったり寒くなったりしていたから四季みたいなものが、時期によって決まっているのだと思っていたけど、精霊の匙加減でも変わるとは思わなかったよ。
意外な事実を知ってから再度始まった武器の話し合い。
「やっぱり、クロスボウやバリスタみたいなやつがいいのかな? 海に入って戦闘するのは現実的じゃないから、海の上から攻撃できる方法がいいよな。本当なら雷を撃ちだす魔導具とかを使いたかったけど、メンテナンスの事を考えると、難しいよな」
「そうですね。シュウ様の言われるように、魔導具だとメンテナンス以上に兵士たちのためにならないですからね。魔法使いによる魔法は良いですが、魔導具は推奨できませんね」
ふ~ん、そんなもんか。そういえば、便利過ぎてもダメだって言ってたな。ある程度不便じゃないといけないか。
「でもさ、クロスボウやバリスタに使う矢はどうする? 兵士たちに自作させるわけにもいかないだろ?」
「バリスタの方はさすがに知識が無いと作れないと思いますが、クロスボウの矢であればまっすぐな矢さえあれば問題ないですからね。矢は島の森から木を切ってくればいいですからね。ただ、重さが無いのでそこを工夫する必要があると思いますが」
そっか! クロスボウも全部金属でできてる矢を使ってるもんな。弓に使う矢も鏃とか矢の先を重くする事で、弾道を安定させてるんだったっけな? 木だけで矢を作っても威力が足りないか? あれ? そういえば、クロスボウに使う矢ってボルトとか呼んでたような……何が違うんだ?
気にした所で分からない! クロスボウの作成に気を向けよう。
「シュウ、弓床が完成してるよ。後は、矢を撃ちだす時に使う板と弦つけてよ」
「ゆみどこ? ってなんだ?」
クロスボウの持つ部分? みたいなのを持ってきて説明してくれた。えっ? ものの30分程でトリガー機構を取り付けた弓床を作っていたようだ。
「ちょっと作るの早くね? 手で削って作ったんだろ? 早いって!」
俺が作るならクリエイトゴーレムで作ってしまうが、カエデとリンドは木工のスキルをフル活用して作ったようだ。木で作ったくせに、トリガー機構まで付いてるってどういう事だよ!
スキルを活用する事で、元の世界では考えられない制度と速度で物を作ることができるのだから、物作りに長けた人間ならば造れるかもしれないけど、ビックリするわ!
ミスリル合金だと硬すぎるため、ミスリルをそのまま使って作ろうとしたら「何でそんな高価な金属を使うのよ! 使うなら、普通の鉄でいいのよ」と言われてしまった。というか鉄でいいんだ! 鋼にすると硬くなりすぎるので、そのまま使うらしい。
細かい事はよくわからないので、言われた通りの形に用意された鉄を加工していく。俺のイメージしていた、無骨なただの板状ではなく少し見た目にもカッコいい横長のロの字のような形をつくっている。何というか、板じゃない意味があるのかな?
分からなくても問題ないので、せっせと作っていくと、形というかまっすぐ作っていたら怒られて、少しカーブをつけて作るように注文を付けられた。
確かにまっすぐだと弦を引いた時にどうにもならない気がするな。指示されたように作っていくと・・・何か違うものができている気がする。
見た目はクロスボウなんだけど、矢が弓床の上に乗るのではなくU字の窪みに3~4本隠れるくらい深い位置まで入ってしまう。見せてもらった時に気付いていたが、弓床に溝があるんだよね。
横にはちょうど弦を通せるような細めの穴で、上から見ると矢がすっぽり入る穴。これって、俺の知ってるクロスボウじゃない! 何でこんな形になっているかは不明だが、弓床の強度は問題ないのだろうか?
作成したロの字の板を弓床に固定して、弦を張った。
「シュウ、それでどうやって弦を引く装置を取り付けるのよ。組み立てる前に仕込んどかないと意味ないじゃない。それに、勝手に弦を鉄でワイヤーみたいなの作って使わないでよ」
怒られた上に飽きられてしまった。組み立てた部分を外してカエデに言われた通り、テコの原理を利用して弦を引く装置を付けた。
弦無しで試してみたが、思ったより上手くいっている。矢を入れるだけかと思っていた弓床の上にあった溝は、弦を引く装置も入るようにできていた。ここまで考えられて作られてたのか、すげえな。
俺が組み立てている間にリンドが矢を作っていた。羽根は無く、ただの棒で先だけが尖っているだけのものだ。訓練スペースにあるカカシに向かって矢を撃つ。
「やっぱり、矢の先が柔らかいとこうなっちゃうか」
予想以上の制度で鎧を着せていたカカシに向かって飛んでいくが、鎧にあたると矢の先が潰れて鎧に少しだけ凹みができた。その横で矢に興味を持ったシェリルが、全力で投げていた。
「クロスボウで撃った矢より威力の高い投擲? これってわざわざクロスボウ造らないで、投げやりを大量に準備しておけばいいんじゃないか?」
「あれはシュウ様が投げるからであって、さすがに兵士たちにはあそこまで強力な投擲はできませんよ」
レベルによる補正で強く投げれてるのか。
「このサイズだとダメージが微妙そうだから、もう少し大きくしようか。多少重くても、かまえて撃つだけだから問題ないよな?」
大体5割増し位でクロスボウを作って試し撃ちをしてみた。矢のサイズも大きくなり質量の分だけ貫通力が高くなっていた。どこまで効果があるか分からないが、矢に螺旋状の溝を掘って回転がかかるようにしている、
木だけでも満足な攻撃力になったので、しばらくはこれで問題はないだろう。後は、矢の先に着ける金属は、ディストピアで大量生産すれば問題ないか?
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