第880話 新たな従魔

 ダマは玄武を連れて少し離れた所に移動している。少し移動して話し合いをしたいとの事だったので、怪我だけはするなよ、と伝えておいた。


 姿が見えないように岩場の陰に行ってしまったので、様子を見る事ができないから何となく心配になってしまう。霊獣同士の話し合いでもあるんだろう。


 20分ほどしたら、岩陰から2匹が出てきた。あれ? 玄武の傷が増えてねえか?


「おぃ、ダマ! 何したんだ?」


『え? 何をしたって決まってますよ、話し合い肉体言語です』


「ん~俺の知っている話し合いとは、違う言葉を使っている気がするのだが……俺も同じことをした覚えがあるから何とも言えない。で、その話し合い肉体言語は、きちんと終わったんだよな?」


『もちろんでございます! 主殿がちょうどほしいと言っていた、水の中での護衛を喜んで勤めてくれるそうです! 隷属も受け入れると言っております!』


 嬉しいんだが、岩陰で何が起こったのかめっちゃ気になるわ。


『ただ、ここに来た理由は、ここに来る前に小さなウミヘビみたいなのにやられたみたいで、傷を治すためにここにあるものを食べようとしたようです。おそらくリバイアサンの仕業かと、傷を治すために回復魔法と、食事を与えてやってもらえないでしょうか?』


「あ~リバイアサンなら、玄武でも相手にならないか。あいつ水中で最恐で最強だもんな。傷治す前に食事を食べさせてやるか。治っていきなり暴れられても嫌だしな」


『先に隷属させてはどうですか?』


「何か無理やり感が強いから、少し様子見てからだな。玄武って何か好きな物あるか知ってるか?」


『聞いてみますね』


 離れた位置で待機していた玄武にダマが聞きに行って戻ってきた。


『魚じゃなくて肉が食べたいと言っています。生でも何でもいいから食べさせてほしいとの事です』


 そっか、肉料理な。ちょうど、オーク豚の料理と掛け合わせた鶏、こいつにも適当でいいから名前つけておかなきゃな。その2つの試作料理が、たくさん腕輪の中に入ってるからちょうどいいな。


 ダマに近くに連れてきてもらい、目の前に皿をおいて生姜焼きを取り出してみる。


「ほら、食べていいぞ」


 そういうと、皿の上に乗った生姜焼きのにおいを嗅いで、恐る恐る肉を食べ始めた。1口目を食べると、皿までかぶりつくのではないかという勢いで食べ始めた。さすがシルキーの料理なだけあるぜ!


 この餌に釣られて態度を軟化してくれればいいなって思ってるけど、甘いかな?


 食べ終わると、口の周りに生姜焼きのタレを付けたまま、キラキラした目で俺の方を見ている。他にも食べたいんだろ? 分かってるって、ちょっと待っとけよ。


 汚れた皿をどかして、新しい皿を目の前に置く。どかした皿は、近くにいたネルが受け取って、イリアにお湯を魔法で出してもらい洗っていた。


「次は、カツサンドだ! シルキー特製のマスタードも付いててうまいぞ~」


 今度はにおいを嗅ぐこともせずに、一気に食らいついた。6枚1パックの食パンの厚さで8枚分の量を出してやったのに、モノの2分で完食してしまった。食うの早!


 更にキラキラした目を俺に向けてくる。分かったから、その刺さるようなキラキラした目をするのをやめてくれ!


「じゃぁ次は、鶏のから揚げだ! これは俺の好物でもあり、至高の料理の1つだと言っても過言ではないぞ!」


 4枚の皿を取り出して、各皿の上にこんもりと500g程のから揚げを出してやる。


 1つ目の皿は、何もつけないノーマルなから揚げ。2つ目の皿は、レモンをかけたから揚げ。3つ目の皿は、ねぎ塩ダレをかけたから揚げ。4つ目は、チキン南蛮風のタレをかけたモノにタルタルソースを乗せた物を出した。


 どう考えても、見た目の体のサイズより多くの食材を食っている。どういう体の構造してるんだかな? そういう事を言うなら、シュリの食べる量も胃袋の大きさに対して明らかに多いもんな。どうなってるのやら?


 その後にも様々な肉料理を出してやった。俺が食べるなら、30食分以上かかるんじゃないか? って量を小さい亀の姿のまま食べきってしまった。


 小さい亀の姿と言っても、俺の顔位のサイズなので、小さいのかはよく分からない。


『うむ、わらわはこやつの食事を気に入った! 仕える事を許す! それと、あの幼女たちをt……グボァ……何をするのじゃ、白虎よ!』


『主殿、すいません。もう少し時間をいただいてよろしいでしょうか?』


 シェリルたちの事を何か言おうとした瞬間に首根っこに噛みついて、俺に念話をとばしながら岩陰に引きずり込んでいった。


 許可してないけど、ダマにまかせるべき状況だからこのままでいいか。


 20分ほどしたら、ボロボロになった玄武がダマの後ろを遅れないように必死について来ていた。


『今度は大丈夫です。人間のルールを知らないやつなので、初めのうちは見逃していただけると助かります。こんな奴でも、霊獣の仲間として見捨てておけないので、しばらくは某がこいつを教育しますので、ご勘弁ください。


 もし、それでこいつの態度が治らないようでしたら、煮るなり焼くなりしてくださってかまいませんので』


『わらわからもお願いいたす。どうかここに置いてください。そして美味しい食事を恵んでください』


 こいつ……シルキーの食事に本当に負けた感じだな。これなら暴走しないだろうが、俺のいう事よりシルキーのいう事の方が聞きそうで怖いな。


「まぁいっか。一応隷属魔法を使ってみよう。もし受け入れられないのであれば、まだ何か隠してるって事だもんな。よし、玄武。こっちに来てくれ」


 玄武の亀の甲羅に手を当てて隷属魔法を使う。


「ん~問題なく隷属魔法がかかったみたいだな。変な感じはしないか?」


『わらわには、特に変わった事はないですな』


「隷属魔法って言っても、罰則事項を刻んだだけだからそんなもんか。俺たちに敵対する事や、俺の街や住人を害すことは禁止だ。寝床とかは希望があるか? 外なら大きいサイズでもいいけど、家の中に住むなら小さいサイズで過ごしてもらう事になるけど」


『わらわは、砂と水があれば寝床は大丈夫です』


 水槽の中にいる亀みたいだな、思っていても口にはしない!


「それなら、テラリウムにこってるミドリに良さそうな空間を作ってもらうか」


 ミドリに連絡して、適当な部屋に玄武の寝床となる水と砂を準備してもらう。


「後は名前か。玄武だから……カメ吉?」


『主殿、こやつは雌ですぞ』


「なら、カメ子?」


『わらわは、さすがにそんな名前は……』


「しょうがないな。シエルにするか」


『『・・・』』


 霊獣2匹からの無言の抗議が来ている気がする。嫌なのか?


『主殿……何故あの流れで、まともな名前が出てきたのですか?』


「良くわからんけど、思いついたから言ってみた。いやか? 問題なさそうだから、今日からお前はシエルだ。よろしくな。しばらくはダマに色々教わってくれ」


 こうして新しい従魔がまた1匹増えた。


 シエルは、しばらくシェリルの事を見つけると、体をビクッと震わせるのはやられた時の影響だろう。

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