第879話 まさか……

「ふ~、平和だな……」


 バタバタと忙しい事が続いた結果、ちょっとした日常が平和に感じてしまう。日本にいた時は、平和な事が当たり前だったからな。いろんな問題はあったけど、目の前に死の危機があるなんて言う事はなかったもんな。


 そんな事を考えている俺はこの世界に毒された……っていうと言葉が悪いな。この世界になれてしまったのだろう。日本にいた時より快適な生活環境だから、慣れてしまったというのも変かな?


 昨日は、散歩したけど、今日は何しようかな。


 昨日と同じ、俺の定位置になっている世界樹の木陰で何しようか悩んでいると、激しい戦闘の後のような様子でよろよろとダマが近付いてきた……何があったんだ?


『主殿……ガクッ』


 おぃおぃ、ガクッて自分で言うなよ!


「何があったんだ?」


『いつものように、先輩たちにいじめられてただけですにゃ』


「お前も大変だな。たまには反撃してみたらどうだ? あまり激しい事をすると怒らないといけないけど、ほどほどなら目をつぶるぞ?」


『いえ、止めておきますにゃ。一対一ならともかく、全員が相手だとさすがに勝てませんにゃ。特にコウさんとソウさんの魔法の連携が加わった、クロさんとギンさんの攻撃は防ぎきれませんにゃ』


「さすがにダマでも4人が相手になると勝てないか。普段は連携のれの字もないけど、変なところで一致団結するからな、あいつらは。まぁしばらくモフモフさせてくれ」


『了解ですにゃ。主殿のなでなでは、気持ちいいですからにゃ。今日は近くにいさせてくださいにゃ。そうすれば、先輩たちにからまれることもないですのですにゃ……』


 しばらく、ダマをモフモフなでなでしながら何をしようか考える。


『主殿、耳の後ろあたりをかいてほしいですにゃ』


 ダマの希望にもこたえながら、今日の予定を考える。久々に湖にでも行くか?


「よし決めた!ダマ、湖にいくぞ!釣りや素潜りして海の幸を取りに行こう!今日は海で全力で楽しむぞ!」


『主殿、某は泳げても潜れないですにゃ?』


「あっ! そうすると護衛の問題で俺が怒られるか……そういえば、水生の従魔っていないな。骨ゲーターは従魔じゃなくて、ただの配下の魔物だしな。何かいないもんかな? 両生類タイプの魔物だといいんだけどな。水のみだと本当に一緒にいる機会が減るからな」


『リバイアサンがいるじゃないですかにゃ』


「確かに俺の配下ではなるけど、あいつは俺の従魔とは言えないな! 俺のいう事を本当にきかねぇからな。シェリル、イリア、ネルの3人のいう事しかきかないからな。ダマ、白虎と同じ聖獣の青龍とか玄武ってどっかにいない?」


『他の四聖獣には、しばらく会ってないですにゃ~それと、青龍は水は関係ないですにゃ。イメージで言うと、前に見せてもらった7つの玉を集めるバトルアニメに出てくる、願いを叶える時に出てくる龍に似ていますにゃ。朱雀と青龍は空、白虎の某が地上、玄武が水を担当する形になりますかにゃ?』


「青龍は、日本風の龍みたいな見た目なのか。玄武か、しばらくってどれくらい会ってないんだ?」


『数百年は会っていませんね』


「おぅ。長寿な種族からすると、数百年はしばらくで済ませられる年月なんだな。じゃぁ都合よく玄武には会えないよな、湖に行きたかったのにな。そういえば、朱雀は鳥みたいな見た目だと思うけど、玄武はどんな見た目だ?」


『朱雀は鳥ですな。よくフェニックスと間違われて、怒っているのを思い出しますね。玄武は、簡単に言って亀です。亀の甲羅に手足と頭と尻尾が蛇って感じですかね?』


「亀か、デフォルメしたら可愛いかもな。サイズによってはテラリウムとか好きそうだな。湖に行きたいけど、どうすっかな」


 モフモフなでなでしながら、しばらく黄昏ていると


「ご主人様! 緊急事態です! 製塩所から大至急来てほしいと連絡がありました。奥様方にもすでに連絡が行っていますので、ご主人様もお急ぎください!」


 コバルトが慌てた様子で俺を呼びに来た。かなり焦っている様子なので、何があったんだろうな?


「ダマ、急ぐから大きくなって乗せてくれ」


『了解ですにゃ!』


 大きくなったダマにまたがって製塩所のある湖の畔へ向かう。


 製塩所の近くにある塩田に人が集まっているのを見つけて、そっちの方に走るように指示を出す。人ごみの後ろにいたおばちゃんに聞いてみた。


「あら、シュウ様。これはですね、いつも魔物は湖から上がってこないんですが、上がってきた魔物がいたので、シュウ様の奥様たちがここにいたので、迎撃してくださったんですけど……その魔物がダマちゃんみたいに喋ったから、どうしようか迷っているみたいなんです」


 ダマから降りてダマを見ると、まさかね? といった顔をしていた。


 とりあえず見てみないと分からないからな。道をあけてもらって進んでいく。そして俺の嫁、シェリルとイリアとネルが、小さな亀を突いていた。お前たちが迎撃したのか?


「なぁダマ……俺の目が間違ってなかったら、あの亀って蛇の頭と尻尾を持ってるんだけど、玄武だったりしないよな?」


『主殿、そのまさかですね。主殿、本当に運がいいと言いますか、都合よく事が動きますね』


 これは久しぶりに、運先生達が頑張ってくれたのかな? とりあえず、俺が行かないとおさまらないよな?


「3人共、魔物がなんとかって言われたんだけど、そのカメがそうなのか?」


「「「あっ! ご主人様!」」」


「そうなの! ここに来て塩作りしてたら、あっちから魔物が上がってきて、怪我してたけど、干している鰹節とかを食べようとしたから、ダメ! って言ったのに止まらなかったの!


 だから、しょうがないからボコボコにしちゃったの。そうしたら、ダマちゃんみたいに念話をしたからどうしようかな? って思ったから、ご主人様をよんでもらったの!」


「そっか~念話を使うって事は、やっぱり霊獣なのかな?」


 3人に突かれてひっくり返っていた亀に近付いていく。


「お~い、生きてるか?」


『ここに住んでいる人間は、強すぎるのじゃ。わらわの防御をたやすく貫通する攻撃をしてくるとか、ダメなのじゃ……』


 あ~シェリルにとって、防御力はあってないようなもんだからな。浸透勁をくらってこの状態になったってことか?


「ダマ、何か話してやってくれ」


『了解です主殿! 玄武よ、大丈夫か?』


『むっ? その声は、白虎じゃな? 旧友の声が聞こえるとは、わらわの命はもう長くないのかもしれん。また会ってみたかったのぅ……あいたっ! 誰じゃ! わらわを叩くやつは!」


『そろそろ、こっちの世界に戻ってこい』


『おぉ! 本当に声が聞こえていたのじゃな! 助かったのじゃ! 助けてくれ! ここの人間は強すぎるのじゃ! 特にあの殴ってくる幼女の攻撃は異常なのじゃ!』


『とりあえず、落ち着いてくれ。あの子たちがもし泣いたら、お主の命がなくなるから大人しくしてくれ』


 ダマに縋り付いて助けを求めたいた玄武を、ダマが何とかなだめてくれている。

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