第852話 いつの間にか

 ベッドにしていたスライムたちがブルブル震えて目が覚めた。


「んぁ?」


 俺は変な声を出して目が覚めた。そうすると、スライムベッドの横で俺を起こそうとする、毛むくじゃらの手があった。手だとわかったのは、近くにダマの顔があったからだ。


『主殿、もう夕方になりますにゃ。起きてくださいにゃ。夜眠れなくなりますにゃ』


「お前は俺の母親か!」


 なんとなくつっこんでしまった。


 夕方という事は、そろそろ夕食になるのかな? 時間にして2~3時間も寝てしまったことになるな。夜眠れなくなったりしないよな? というか、寝れなかったとしても問題ないか? ゲームだってブッ君だってあるしな。


 夜の事を考えてたら、ダマが腹の上に乗ってきた。


『ボーっとされてますけど、起きないんですかにゃ? ご飯がいらないようでしたら、主の分まで食べさせていただきますにゃ』


「おっと、それは許されない反逆行為だぞ。あまりオイタがすぎると、スカーレットに言いつけるからな!」


『やっときちんとした反応がかえってきましたにゃ。お疲れですかにゃ?』


「なんだ、起こすために言ったジョークだったか。さすがに起きるよ」


 体を起こして、背伸びをする。おっさん臭い声が出てしまうが、しょうがない事だろう。


『主殿、おっさん臭いですにゃ』


「自分でも思ってたから、言わんでくれ」


 小さいダマの脇の下に手を入れ抱え上げる。ジタバタする様子を見せたが、しばらくすると大人しくなった。


「ん? 急に大人しくなってどうしたんだ?」


『普段なら、主殿のそのポジションはハク先輩の場所なので、見つかったら怒られると思いましたが、主殿から抱きかかえあげられた事を考えると、滅多にないチャンスだと思い堪能する事にしましたにゃ。


 主殿の近くにいる事は多いですが、抱かれる事は多くないですからね。主殿の奥方様にはよく抱き枕とかにされていますが』


 おぉ、妻たち……というか、おそらく年少組を中心に抱き枕にされているんだろうな。ちょうど腕におさまるくらいのモフモフだし、抱き心地もいいしな。クロやギンは大きすぎるから抱き枕にはならないし、コウやソウは自由過ぎて抱き枕にはされないだろうな。


 ダマのモフモフを堪能しながら、妻たちの居場所を探す。マップ先生をながめていると、急に頭の上に何かが落ちてきた。頭が包まれる感覚からすると、スライムたちの誰かだろう。ニコも近くにいたから、おそらくはニコだろうけどな。


 頭の上の重しは放置して、妻たちのいる場所を探す。


「みんなは真紅の騎士団の所にいるんだな。今回は街を支配するために来たわけじゃないから、グリエルたちを連れてきてないんだった。後始末を任せっきりになってしまってるな」


『そこらへんは問題ないですにゃ。奥方様たちが、普段は主殿が色々やってくださるから仕事が少なかったみたいで、張り切って後始末していますにゃ。特にミリー様、リンド様、ピーチ様、ライム様の御四方は、自分たちの分野だという事で、やりすぎていないか心配になりますにゃ』


 おっと、4人が暴走している可能性があるのか? と言っても、大体の話はまとまっているんだから、そこまで大それたことにはならないよな?


 それにしてもダマって、猫と違ってほっそりしておらず、人形みたいな手足が短く胴体が太めなので、抱くというよりは、抱きかかえると言った感じだろうか? どっちも同じ気はするが気分的にそんな感じだ。


「ピーチ、ライム、ミリー、リンド、事後処理まかせちゃってごめんね。どこら辺まで終わったかな?」


「あ、ご主人様。ゆっくりできましたか? 事後処理の件ですが、領主の一族や騎士や兵士たちの処置は終わりました。犯罪の称号持ちの奴隷たちは、ゴーストタウンに運んでもらう予定です。絶対に死なせてはいけないので、真紅の騎士団の方々が直々に運んでくださるそうです」


 真紅の騎士団が直々にね。冒険者じゃ信用ならないから、とか言って強引に運ばせることになったんじゃないだろうか?


「不思議ですか? もしあなたたちが準備した人員の所為で逃げられたりしたら、領主の一族と手を組んでると思っていいのですか? とお聞きしましたら「騎士団の方から自分たちが護送します」と言ってくださいました」


 ブラックなピーチが、ここで本領を発揮したという感じか? もしこいつらに『何かあったら分かってるんだろうな?』っていう脅しが含まれてたに違いない。


「シュウ君、他には城壁が傷んでいて、修復されずに放置されていたのを発見して、土木組が修復しています。報告した所、修復依頼をされましたので、もちろん有料で普段あの子たちが仕事をする際に、商会から払っている金額と同等の請求をしています」


 おっと、あの子たちに払っている金額って……下手な冒険者の指名依頼より高額じゃなかったか? 何か月もかかる所を、1日で済ませてしまうのだから、それに見合った金額なのだろうが……よく頼む気になったな。


「ちなみに、お金はここの元領主が貯め込んだ税金を使って行っていますので、住人に還元した形ですよ。それに、一番脆かった所は多少重量のある魔物がぶつかれば壊せそうな程でした。街の運営にも多少関わっていた子どもたちが、気付かずに放置していた事を考えれば一族揃って救いようがなかったわね」


 勉強や教養があっても、それを活用する下地が無いためか、頭でっかちっぽいな。


「まぁ、親の無能と自分たちがもっとしなければいけなかった、と悔いてもらいましょう。後、しなきゃいけない事って何かあるかな?」


「いえ、特にないわ。この街の状況も、新しい領主を通じてカレリアの商会に1週間に1度届く事になっているから大丈夫よ。領主になる予定の人からは、ゼクセンの街にも商会を出してほしいと言われているけど、さすがに信用がないですからね」


 近くにいた真紅の騎士団ではない人たちが苦い顔をする。体良く商会を使おうとでも考えて、リンドに打ち負かされたのかな? リンドはドワーフだからこう見えても、そいつらの数倍は生きているし、ヴローツマインをまとめていた人物でもあるからな。


「そっか、じゃぁ俺たちの戦後処理に関してはもう終わりって事かな?」


「そうです。明日にはカレリアに戻れます。報告も終わりましたので、そろそろお食事の時間かと。キッチン馬車でシルキーさんたちが食事を作ってくれていますので、行きましょうか。ダンジョンで使っていたコンテナ野営地を組み立ててありますので、快適に過ごせると思います」


 領主館の一部を借りるのかと思っていたら、庭を占拠して俺たちのいる場所を確保したようだな。


 ピーチに連れられて行くと、なんだこれ?


 確かにコンテナ野営地なのだが、俺から見て野営地の後ろにテントの布みたいなのが、三角形の形をして見えているのだ。野営地をどの角度から見ても大体同じに見える。あ、後ろ側に行くと中が覗けた。


 どうなっているかと言えば、コンテナ野営地はコの字に建てられており、コの字の中心に主柱が立てられていて天幕の中にいるような形になっている。そこでは料理が並べられていて、すぐにでも食事ができる状態になっていた。


 ここだけ別世界だな。明かりも準備されており、自分たちが居心地のいいようにしてあったのだ。もちろん風呂なども準備されていた。

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