第850話 事後処理

 戦争に参加したゼクセン陣営の9割以上が負けを認めている。そんな状況を見て、真紅の騎士団の人間が、


「この戦争は、シュウ殿の勝ちとする。そしてすまないが、戦争が終わったので彼方の人たちを助けてはくれないだろうか?」


 どうやら戦争が終わった。おかしいな、もっと何かあると思っていたのに、特に何も起きなかった。


 こちらに上ってこれるように、緩やかな坂道を土木組のメンバーが作っていた。リンドが何やら指示をして、上ってこれる場所を狭くしていた。全員が上ってくるまでに、時間がかかるような事を何でするんだ?


 その理由はすぐに分かった。逃走防止という事だ。逃げないように、上からは真紅の騎士団の面々が監視をしており、出てきた奴らには手錠や縄をかけられていた。


 何やら身なりの良かった騎士が騒いでいる。高い金を払って買った装備やアクセサリーの弁償をしろ! とか言って騒いでいる。もちろん敗者がそんな事を言っても意味がなく、取り押さえられ、うるさいため口に布を詰められて縛られている。


 シェリルや一部の妻が見当たらなかったので探していると、離れた所でカエデに何やら言われて、リバイアサンに何かをお願いしているように見えた。


 すると、リバイアサンの能力か、穴の中に溜まっていた水……じゃなくて、お湯が不自然に動き出した。太い透明なホースがそこにはあるかのように、直径3m程の水の道ができていた。


 何やら水の中は高速で動いているようだ。時間が経つにつれて、その勢いは増しているように見える。すると、水の筒の中を高速で移動する物体が目に入る。


「なるほど、リバイアサンに水流操作をしてもらって、ゼクセンの人たちが脱いだ装備を回収してるのか? でも、何で今?」


 近付いて話を聞いてみると、


「シュウが言っていた、騎士たちの装備が気になって、リバイアサンに頼んでとってもらったのよ。数が多いから、探すのが面倒だけどね」


 手の空いているメンバーで、武器防具を仕分けていく。そういえば、アクセサリーがどうとかさっき叫んでいたな。でも、小物なら外す必要なくないか? それなりに大きなものだったのかな?


 仕分けている中に、ガントレットとは違う前腕を覆える程の腕輪が見つかった。


「カエデ、これなんだと思う?」


「ん~、防具にしては作りが変ね。ちょっと貸して!」


 カエデに腕輪を手渡すと、いじくり始めた。集中しているので邪魔をしないように、また仕分けの輪の中に入っていく。身なりのいい騎士たちが着ていたであろう鎧を発見した。さっき見つけた腕輪と同じような造形をしている気がする。


「シュウ、分かったわ。この腕輪、精神を落ち着かせるような効果があるみたい。しかもそっちの鎧とセットになると効果が高くなるっぽいわ」


 どうやら、身なりのいい騎士たちは、レベルやスキル等関係なく、装備の力によってダマの咆哮にレジストしたという事か。でも、そんな効果のある装備があるのか?


「で、多分だけど、ダンジョンから出る装備を真似て作られた物じゃないかな」


「何でそんな事までわかるの?」


「ここにある8セットがすべて同じ作りだから、オリジナルになった物から真似たんじゃないかな? っていう私の勘ね!」


 出会った頃より、大分大きくなっている胸を張って言い切った。スレンダーだった頃も良かったけど、形のいいまま大きくなった胸も悪くないかな?


 っと、思考がそれてしまった!


「勘っていうのもバカにできないからな。とりあえず、出自はともかく原因が判明したからスッキリだな。装備は、収納の鞄にでも入れておいてくれ。向こうに戻るぞ」


 真紅の騎士団がいる所に戻ると、手足を縛られたゼクセンの人たちが、俺たちの従魔に囲まれていた。


 首をかしげていると、ダマが状況を説明してくれた。


 この数を真紅の騎士団の面々で見るのは、かなり大変な事なので手伝ってほしいという申し出を受けて、クロたちが監視しているのだとか。


 それにしても、まだ全員上がってきてないんだな。


 30分程様子をながめていると、登り口付近が騒がしくなっていた。


「私を誰だと思ってる!」

「こんな事をしていいと思ってるのか!」

「この戦争は無効だ!」

「何かインチキをしたに違いない! ルール違反であいつらの負けだ!」


 等々、思いつくままに周りにいる真紅の騎士団の人間を怒鳴っている。俺を見つけて、


「魔物を使うなんて、ルール違反だろ! この戦争は無効だ! 被害を受けた私たちに損害賠償として、ギルドに預けた金を寄越すなら許してやる!」


 と、何とも自分の立場を分かっていない発言が多い事。


「真紅の騎士団の人、魔物を使っちゃいけないって言う決まりはあるか?」


「制御できていないのであれば問題ですが、シュウ殿の従魔たちは実に優秀なので何の問題もありません」


「だってさ。それより、戦争に負けたんだからお前ら一族全員奴隷落ちだからな」


「なぜ、高貴な私が奴隷落ちせねばならん! 反則行為をしたお前が奴隷になるべきだろうが!」


 本当に状況を理解していないな。


「えっと……団長さん。どうするんだ?」


 近くにいた真紅の騎士団の団長に問いかける。


「今回の戦争は、シュウ殿に一切の不正はない。それに対して、ゼクセン! お前にはいくつもの不正と、王国で反逆罪に問われていた冒険者を匿っていた事実がある。反逆罪で一族全員死刑になるか、奴隷になって生きながらえるか、どちらがいい?」


「何だと! なぜ私が! ぐぬっ! 離せ! 私は貴族だぞ! こんな事は許されない!」


「貴族だからって、何をしてもいいわけでは無い。今まで犯してきた罪が裁かれる時が来たのだ。お前の話は聞くに堪えん、お前らこいつの口にも布を突っ込んで縛っておけ」


 他の人間と違い、ミノムシか! と思う程に縄をグルグル巻きにされていた。あれって、血流が滞って壊死したりしないか? まぁ、あんな奴の事はどうでもいいか。


「シュウ殿、見苦しい物を見せてしまいました。申し訳ない。それで、昨日話した通り犯罪の称号が付いていない兵士たちは、こちらで引き取ってもよろしいですか?」


「あぁ、問題ないよ。性犯罪がついている人間は、全員ゴーストタウンに送ってくれ。領主の一家はどうするかな……あいつだけはゴーストタウンに連れてってもらって、他はそっちで処理してくれ」


「了解であります。王国の法律にそって裁かせていただきます。裁くほどのものでなければ、借金奴隷という形にして、自分の食い扶持は稼いでもらわないといけませんね。ゴーストタウンに連れていくという事は、噂に聞いたホモークとかいうオークの変異種の所に連れて行くのですか?」


「あぁ、そうだよ。ゴーストタウンの名物にもなってるしな。特に、被害にあった女性たちには、大人気というか、多少は気が晴れるみたいだぞ。団長さんも、今度見に来るか? 俺は近付きたくないけどな」


「いえ、遠慮しておきます。噂を聞く限りでは、夢に出てうなされた人もいるとか……では、私たちは作業に戻ります」


 ホモークに掘られる男性性犯罪者、一度見て悲鳴を聞くと確かにうなされかねないな……


 日が落ちる前には選別作業がおわり、犯罪の称号を持っている奴らは隔離された。見張りやすいように新しく穴を掘って、そこに入れておいた。思ったより犯罪の称号持ちが少なかったな。


 ゼクセン陣営にいたのが約700人、それに対して犯罪の称号が付いていたのは、25人。位の高い騎士や身なりの良かった騎士、一部の素行の悪い兵士たち以外の称号は無かった。50人程いた冒険者の中からは3人いた。


 それ以外の冒険者は、犯罪奴隷として暫くはゼクセンのためにこき使われることになっている。本来なら俺の奴隷なのだが、前日の話し合いで王国が買い取る話になっていたので問題ない。奴隷も管理するとなると面倒だからな! 俺は全部他人任せだけどね。


 明日はゼクセンに行って、住人に戦争に負けて領主が変わる事を告知するらしい。そのまま領主邸に行き、一族の人間を捕まえて借金奴隷にしてから、王都に送るようだ。もちろん、性犯罪者がいればゴーストタウンに連れてくけどね。


 色々作戦を考えたのに、結局俺を差し置いて戦争が進んでしまった感じがするな。

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