第839話 汚い貴族

「査定金額は、およそ金貨で5万枚位かと思われます。公表されている情報をもとに、算出された金額なので、妥当なのか言われますと、高すぎると思われます。高すぎる理由は、っと、その前に内訳を話した方がいいかもしれませんね。そちらからの方が分かりやすいと思われますので」


 そう言って、副ギルドマスターのオーズが何やら紙に書かれた、表のような物を俺たちの前に置いた。


「あれ? これって、ディストピアで作ってる和紙じゃないですか?」


 ケモミミ3人娘の1人に言われて気付いた。


「あ~、確かにあいつらの作ってる和紙っぽいな。保存状態が悪いのか、思ったより劣化してるな。和紙も保存方法を間違えると劣化が激しいんだな。今度みんなに言っておかないとな」


「えっと、この紙を作られたのは、知り合いなのですか?」


「簡単に言えば、そうだな。別に作ってる事を隠したりしてないからいいんだけど、ディストピアの住人に俺が教えて作らせている。いくつか種類がある中の、量産品の和紙だからかもしれないが劣化が激しいぞ、しっかりと管理した方がいいと思う」


「私、とんでもない事を聞いてしまった気がするんですが、マスター」


「私もだ、オーズ……」


 2人揃って苦笑している姿が目に入る。


「できれば作り方を「オーズ! 話を進めろ!」はいっ! すいません! では、こちらの紙をご覧ください」


 向こうから話を脱線させたのに、急に戻してきたな。とはいえ、まずは宣戦布告してしまいたいから、しっかりと説明を聞かないとな。


 オーズが和紙に書かれた表を使って説明し始めた。参考までにと、この街カレリアに同じ条件で宣戦布告しかけた場合、金貨1万5千枚ちょっとなのでは? と先に話してから説明が始まる。比較対象として、カレリアに同じ条件で宣戦布告をした場合の表も作成してくれていた。


 パッと見て分かるのは、奴隷にした際のボリュームゾーンの1人当たりの金額が、カレリアの倍近い。何でこんなに違うのか理由を聞くと、公表されているレベルとスキル、実績が異様に高いため、この位の差が出てしまうそうだ。


 他にもおかしいと言えば、条件付きの戦争の条件(一族の奴隷化)に当てはまる人物が、異様に多いのだ。嘘か真か、カレリアの領主一族の倍は、数がいるそうなのだ。


 俺が、妻たちとレイリーを買った時が2500万フランで、金貨250枚を支払っている。一般的な奴隷のラインは金貨10枚で、高い物になると金貨500枚を超す者もいるらしいが、貴族の一族とはいえ明らかに査定金額が高すぎる。


 だって、普通に金貨100枚を超える人間が、300人もいること自体がおかしいと思う。一族となると600人を超えるとかどう考えても非常識すぎる・・・


 それに対して、カレリアの領主一族は200人程度。それでも多いだろ! って思うが、この位が一般的らしい。


 カレリアの方だと、上と下の金額に差がありボリュームゾーンが大体金貨20~60枚の所だ。ただ最高金額に450枚する人物がいた。とりわけ値段が高いのは、どこかの街で大規模な反乱が起きた時に、反乱を驚くほど少ない被害で収めた知将的な人間らしい。


 色々な説明をしてもらったが、ギルドマスターの一言を聞いて、ある程度の理解をする事が出来た。


「ゼクセンの貴族は、結構後ろ暗い所が多いから他方に恨まれているらしい。冒険者から聞いた情報だと、この街に比べ税金も高いし兵士が、やりたい放題の所もあるそうだ。揃ってそういう兵士たちの実力は高くない。言っては何だが、ただのチンピラ上がりの兵士っぽいとの事だ」


 ギルドマスターの話を聞きながら、俺にしか見えないマップ先生をそれとなくいじって、ゼクセンの情報を見てみると……兵士の平均レベルが、一般的な15位なのだが、団長のレベルが100を超えていなかった。


 フレデリクでもリーファスでも、街の騎士団長となれば100を超えているのが普通なのだが、レベル82って! しかもこいつ、ゼクセンの名を持ってるって事は、一族の人間なのか……


 ってあれ? 公表されている情報のゼクセンの騎士団長って、レベル180なんだが……もう嘘の塊じゃん! まわりから攻められないように欺瞞ぎまんに満ちた情報なんだな。


 それに、この一族って犯罪の称号多すぎねえか? 普通の人間に比べて、貴族に連なる人間は犯罪の称号が付きにくいって、聞いた事があるんだけど……


「そんなに理不尽な事をされるなら、引っ越せばいいのにな……」


「そう簡単にできないのがあの街なのさ。家の荷物をもって街の外へ行こうとすれば、スパイ容疑で拘束され拷問されて、奴隷にされる人もいるって話だからな。胸糞悪い街だよ! あんたが何とかしてくれるって言うなら、こっちとしては大助かりなんだけどな」


「1つ聞いていいか? こういう貴族が排除されないのって、何か理由があるのか?」


「そんなもん決まってる。中央の連中にとっては、国民なんてどうでもいいのさ。金を積んでくれる貴族を優先するのは、当たり前なんだろ? この街は住んでる人間からすればいい街だが、中央の連中にすればゼクセンより劣る街って考えられているさ」


「なるほどな、理解した。まぁ公表されている情報を元に算出された金額を払わないと、宣戦布告できないんだよな? 金貨5万枚って事だから、白金貨で500枚か、5袋分で足りるって事だよな? 確認してくれ」


 お金を払い、宣戦布告をする準備をしてもらう。オーズがお金を数え始めた。


「宣戦布告の準備に関しては、オーズに任せておけばいいだろう。私たちはちょっと先の話をするか。あんたは傭兵を雇う気はないかい? このギルドにも、あの街で苦渋を飲まされている人間が多いんだが、どうだい?」


「ある程度の戦力は自前で持ってるし、雇う必要はないと思うが……それよりも、戦争に参加しても大丈夫なのか?」


「仕事だからね。傭兵の場合、もし負けた時は、多少の罰金だけで済む。それに、私たちが知っている情報を元に考えれば、負けはないだろ? もし、あの街の膿が一掃されるなら、兵士やそこらへんに穴がたくさんできるわけだろ?


 安定収入のあるそこに入り込みたい連中は結構多いさ。実力があってもコネが無くて兵士になれなくて、冒険者を続けている人間だって多いんだよ。だから、傭兵として雇ってそのまま就職させられるなら、こちらとしては助かるのさ」


「負けはないだろうな。やるからには出し惜しみはしないつもりだ。でも、冒険者が減ると困るんじゃないか?」


「確かに一時的には困るが、この街は魔物の領域に比較的近いからな、冒険者が減ったとなれば、冒険者が集まってくるのさ」


「そういう事か。陣借りをして実績をつけてから、そのまま兵士として雇ってもらうみたいな感じか? 今の条件だと俺が領主になるわけじゃないけど、口利き位はしてやれるだろう。


 とりあえず、条件としては命令に従ってくれる者が絶対条件だ。その代わり、冒険者ギルドでダメそうな奴は、はじいてくれよ? 人数が決まったら仲介料を含めた金額を教えてくれ」


「了解した。感謝するよ! 今日中には準備できるから、1週間後には返事が来るはずだ。何処に滞在しているかだけ教えてくれ」


 滞在している場所を伝えその場を後にする。

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