第786話 問題発生

 する事が無くて、鍛錬を始めて2週間ほどが経過した。


 前にも話したが、俺が気分で執務室や庁舎に足を運ぶと、邪魔だと言われて追い出されるのだ。仕事のできない上司が、現場から放り投げ出される感じだろうか?


 仕事ができないと邪魔という事もあるが、グリエルとガリアがトップで頑張っているのだ。俺への対応で不備があれば、物理的に首が飛ぶかもしれないとまで、脅しているとか聞いた事があるから、俺が行くと手が止まって邪魔なんだろう。


 学校行っても、子どもたちが俺に群がってきて、なかなか勉強にならないから、あまり来ないでほしいとか言われたしな。他にも、畑エリアに行けば、手が止まるか領主の俺にはさせられない、といった形になる。


 極めつけに、塩や海産物の加工場では衛生管理のため、清潔にしなきゃいけないエリアに、製塩では汗をかく上におばちゃんたちが多いので、恥ずかしいから近付かないでと怒られてしまった。


 一応、俺って領主なんだけどね! 堅苦しく接せられるよりは、親しみがあっていいよね! それに、偉い人に会う事のないディストピアでは、いちいちそこら辺を気にして話さなくてもいいから楽だよね。あっ! でも、一応俺は偉いんだぞ?


 っと、午前中の訓練が終わって食堂に戻ってくると、グリエルたちの遣いが慌てて俺の家に馬で来ていた。どうやら、妻やシルキーたちに説明が終わっているようで、俺の護衛の準備もできていた。


 俺……おなか減ってるんだけどな~と思っていたら、ピーチが「スカーレット様から、昼食を預かっています。向こうでお食べください、との事ですよ」


 さすがスカーレット! 説明を聞いて、俺がここで飯を食えないと分かって準備してくれていたんだな。


「シュウ様、グリエル様とガリア様より至急報告したい事があるので、執務室まで来ていただきたいとの事です」


「了解。すぐ準備して向かうわ」


「私は、先に帰って報告しておきます」


 使いは、報告するために慌てて帰って行った。


「ん~結構、大変な事態になっているのかな? かなりの慌てようだったけど……まぁいいや、準備はできてる?」


「全部準備できております。一応、簡単な概要を聞いて、私たち全員も出向く事になると判断して、そこら辺の準備もできています」


 ん? ディストピアの外に出ないといけない感じか? 今聞いても、妻たちも詳しく知らないから、さっさとグリエルの所に行くか。


「何が起きてるか分からないから、さっさと行って事情を聞こうか」


 護衛と言う名の監視は、妻たちのリーダーでもあるピーチとシュリ、後は姉御組の3人だ。移動はいつも通り歩きのつもりだったのだが、急ぎなんだからと怒られて、準備されていたウォーホースに乗って街の中央へ向かう。


 冒険者ギルド、学校を通り過ぎて、庁舎のグリエルの執務室へ向かう。


「おぉ、シュウ様、わざわざお越しくださりありがとうございます。トラブルがありまして、どういった対応を取ろうかと悩んでおりました」


「内容を聞かないと分からないから、説明してもらっていいか? 後、飯を食べずに出てきたから、食いながら聞いていいか?」


「食事をしてからでも問題ありませんので、先に食事をされてはどうですか?」


「いや、呼び出すくらいは緊急なんだろ? 飯食いながらがあれなら、先に聞くよ」


「では、食べながらでも問題ありませんが、ちょっと食事がまずく感じる内容なので、注意してください。では、先ほど入った情報なのですが……」


 そう言って話し始めたグリエル。その横でホワイトボードに必要な情報を書き込んでいくガリア。


 グリエルが報告してくれた内容は、ディストピアに所属している冒険者が、ゴーストタウンでクエストを受けて、小国群への商隊護衛で行った帰りに、寄った都市で拘束されたらしい。


 ゴーストタウンで、その商隊にやとわれた4人パーティーが3つで、その内1つがディストピアの冒険者パーティーだったらしい。道中に意気投合して帰りは他の商隊の護衛任務について、その都市に着いたのだが、着いて早々にディストピアの冒険者だけが拘束されたらしい。


「これが簡単な概要ですね。そして、マップ先生からの追加情報で、どうやら毒を盛られて拘束されてからすぐに、右手以外の手足の指を切り落とされたらしい。部位欠損と毒状態になっているとの情報があります。


 そして、呼び出した最大の理由は、シュウ様が覚えているか分からないですが、ゴーストタウンで暴れた王族を憶えていますか? 釈放して追放した屑ですね。その王族の国の王都で捕まって、今王城の地下にいるようです。体力の減り具合を見ると、拷問をされているのではないかと思います」


 それを聞いた瞬間に、俺は過去の記憶がよみがえってきた。そして、俺が見逃したせいで今回、冒険者たちが捕まった可能性がある……


「グリエル。ゴーストタウンの冒険者ギルドには、問い合わせをしたか?」


「もちろんです。そして分かった情報は、シュウ様の考えている通りだと思います」


 グリエルの発言で俺の考えが間違っていない事が証明されてしまった。つまり、ディストピアの冒険者と接触するためにゴーストタウンで冒険者をやっていて、今回のクエストで接触されたのか。そして、まんまとあの国に誘導された……と。


「シュウ様、落ち着いてください! シュウ様の所為ではないです! すべてはあの屑がいけないんです!」


「気を遣わなくてもいいよ。俺が釈放したから被害にあった可能性は否めないんだ。助けに行こう。そしてその国を潰すか? でも国民は悪くないからな、立地条件ってどうだったっけ?」


「少々お待ちください。えっと、盆地で周りが山で囲まれていて、道は3ヵ所しかありませんね。それ以外は魔物の跋扈する山と森を越えないといけないと思います。


 そして、王都に10万、3ヵ所の道にある検問所を兼ねた街に4万ずつ、比較的安全な土地に複数の村があってその合計が8万、全部で30万位の国ですね」


「大国に比べれば小さいですが、小国にしては豊かに見えますね。前に調べた時には感じませんでしたが、魔物のレベルに比べて、兵士のレベルが高い気がします。小国の平均から比べても高い気がしますね」


「そんな事はどうでもいい! 皇帝に連絡をとって、権限の強い騎士団を派遣してもらってくれ。移動に関しては、竜騎士を動員させる。俺は、従魔のバッハとワイバーンを連れて王都を強襲する。さすがに俺だけだと王城の掌握はできないから、連れていける人員はいないか?」


「少し時間をいただけるなら、鬼人がいますがどういたしますか?」


「少しとはどの位かかる?」


「1時間もあれば、100人程は集まると思います」


「今から1時間後に集まれるだけでいい、集めてくれ。誰か綾乃の所に行って、今稼働できる人造ゴーレムを全部持ってくるようにお願いしてくれ。スケルトンには街の警戒をさせろ!


 バザールに連絡して、スケルトンの指揮はとってもらえ。後、スプリガンのみんなに、緊急警戒態勢を発令してくれ。移動用に野営コンテナを組み立ててくっつけるぞ。俺は、バッハを呼んでくる。広場で待機していてくれ!」


 指示を飛ばして、準備を開始する。

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