第751話 本当の姿……?

 ベルゼブブことハエの王……だったモノがそこで腕を組んで、俺たちを見ている。そこからは感情のような物は感じられず、不気味に微笑んでいるだけだった。


 それにしても、鳩尾付近からはえている、2対の腕……あの4本の腕はどうやって使うんだろ? ただただ邪魔じゃないだろうか? 手足が2本ずつの俺たち人間には、分からない使い方があるのだろうか?


 そんな事を考えていた刹那の時間で、ベルゼブブだったモノの雰囲気が豹変した。


「フシャァァァァァァァ!!!!」


 なんだかよく分からない奇声をあげて、人間位のサイズだったモノが、250センチメートル程のサイズに膨れ上がり、何とも言い難いビジュアルになっていた。元からある程度マッチョだったが、大きなサイズになってさらにマッシブな筋肉が追加されたようだ。


 それにしても、鳩尾付近の4本の腕までマッシブになるのは、何故だ……その腕どうやって鍛えるんだ!


 全員警戒態勢は解いていなかったのだが、次の瞬間にタンクのサーシャとメルフィが、壁に向かって吹き飛ばされていた。2人がいた場所には、ニタァと笑っているベルゼブブがいたのだ。


「いつの間に!」


 驚きは一瞬だったが、いち早くネルが2人の元に駆け付け回復を始めようとし、弓使いのメアリーとマリアがつがえていた矢を解き放っていた。


 ベルゼブブの近くに仲間がいなくなったことが幸いして、放たれた弓はベルゼブブのお腹付近に吸い込まれるように飛んで行ったが、いとも簡単に鳩尾付近の腕にはたき落されてしまった。


 それにしても、自分に向かって飛んでくる矢をいとも簡単にはたき落すって、どういった動体視力をしてれば出来るんだ? それに、的確にはたき落すためにつかわれた、最適化された腕の動き……これってかなりやべえ奴じゃねえか?


「あのクソ爺! 最後に爆弾落としていきやがって! だましやがったな!」


『だますとは心外じゃな。このダンジョン攻略を楽しめるように、最後の出し物じゃよ、思う存分楽しんでいってくれ。ここで1つアドバイスじゃ、お前さんの考えているように、あの魔物はベルゼブブじゃ。


 だが、今の状態が本来の姿だ。そしてハエの王というだけあって、ハエの特性も有しているから注意するんじゃぞ。それじゃぁワシは、このダンジョン最後の楽しみを見させてもらう事とするよ』


 あれが本来の姿? それにハエの特性も有している? 動体視力か! 見た目では判断できないけど、複眼を持っていると考えた方がいいってことか? それにそれを高速処理して、動く事も可能ってことか? ここに来て一番厄介な敵が出てきやがったぜ。


 正直、このダンジョンの1匹1匹の魔物の強さは、今考えると王国の神のダンジョンの方が強かった。特にボス格の大きな堕天使も、王国の神のダンジョンのボスに、及ばなかった気がする。1体1体も確実にSランクに匹敵していたが、数で補っている部分もあった気がする。


 おそらくだが、大きい方の堕天使1体とファイアナイトが戦ったら、ファイアナイトが勝つだろう。それが2体になっても変わらないだろう。3体になればわからないが……


「みんな! よく聞いてくれ。創造神とやらから情報が来た。あの魔物は、俺の予想通りベルゼブブで間違いない様だが、ハエの姿は仮の姿だったらしい。今の姿が本来の姿のようだ。


 そしてハエの王というだけあって、ハエの特性もあるみたいで、その特性は恐らく異常な動体視力、複眼というものを持っていると思われる。どんなに早く動いても、あいつには通じないと思った方がいい。


 対応しきれないくらいの、飽和攻撃や範囲攻撃が有効だと思う。絶対に無理をするんじゃないぞ! 1人で突出する事だけはしないように注意してくれ」


 今まで逃げに徹していたベルゼブブとは違い、積極的に攻撃をしてくるようになっていた。ハエ形態の時と同じように早い動きで、俺たちを攻撃してくる。だが慣れてきたせいか、ハエ形態の時とは違い、何とか目で追えるようになっていた。


 スピードを犠牲に、攻撃力が高くなっているのだろうか? タフな所は変わっていないかよくわからん。


 もともとハエ形態の時は攻撃が効いているのか、よくわからなかった事もあるが、鳩尾付近から出ている腕4本が、どこから出したか分からないが盾を持っており、攻撃を受け流すため、ダメージを与えられずタフなのか判断できていない。だがわかるのは、盾を含め全体的に守りが硬いという事だ。


 なにより驚愕する事実は、学習能力の高さだ。2度だけまともにダメージを入れられた瞬間があったのだ。浸透勁による防御力無視の攻撃が、盾の上からベルゼブブにダメージを与えたように見えた。


 だが、その浸透勁が危険だと判断したのか、3度目からはシェリルの攻撃を受けずに、そらすかかわしていたのだ。


 戦闘開始から10分でこれだけのことが分かった、反対に嬉しい事実も判明している。ベルゼブブの攻撃は、痛い事は痛いが耐えられないわけでは無く、致命傷になる事も今の所ないという点だろう。


 防御態勢をとれていない時に攻撃をくらえば、普通に骨折したりするので普通なら致命的なのだが、地球の現代医療を学んでいるヒーラー陣の回復能力は凄まじく、骨折程度であれば何の後遺症も無しに治すことができるのだ。


 治療院を作るまで知らなかったが、この世界で骨折を治すためには、外科的な処置をした後に回復魔法をかけるそうなのだ。


 この世界有数の回復魔法師でも、日常生活に支障がない程度までしか、治すことができないのに対し、ピーチ・キリエ・ネルの3人は、外科的処置をすっ飛ばして治せ、その上戦闘復帰も可能なほど見事に回復させるのだ。やはり、肉体構造をイメージできるだけの勉強をした人間の、回復魔法はすごい様だ。


 ちなみに今、治療院では、医学の勉強も教えているらしい。そこの教師役は、治療院や治療院を併設している商店の裏の管理者である、ブラウニーがしているようだ。


 俺の記憶の一部を受け継いでおり、さらに家事仕事の合間に役に立つ知識を覚えているみたいで、本人たちの中では家庭の医学程度の認識だが、その知識は侮れないものだ。


 その知識からすれば、体の構造は分かりやすいものと言えるだろう。病気やなんかだとすれば、医者にはかなわないが、構造が決まっている体のつくり等であれば、筋肉の付き方など覚えればいい、という事らしい。俺からしたら覚えるだけが難しいんだけどな!


 そんな知識もあって、3人の回復能力は非常に高い。それ以外にも原理は分からないが、体を回復さしてくれるポーションやエリクサーもあるのだから、即死でなければ死ぬ事はない。俺からすれば、傷付く姿を見たくないが、今はそれを言ってもどうにもならないので、全力で倒すことが解決への最善の手段だ。


 ベルゼブブを倒す! 爺神! 見てやがれ!

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