第742話 え? 帰らないの?

 俺が覚醒しているためか、シュリの攻撃以外にも倒すことができるようになったため、残った3体の堕天使は、苦労なく倒すことができた。


 怪我をしていた、リリーとシャルもピーチとキリエのおかげで、傷もなく元通りになっていた。だが、回復魔法やポーションで傷は治せても、回復するための栄養は体の中から消費されるため、リリーとシャルはハイエナジーポーション(シルキー特製)を飲んで安静にして寝ている。


 進む事が出来なかったので、149階に戻ってコンテナ野営地で休んでいる。


 それにしても、みんなには失態を見せてしまったな。この世界では多くの人に知られていた情報だったのだが、部位欠損を直す際に高ランクのポーションを飲んで、栄養失調で死ぬことが多々あったらしく、部位欠損を治る際は、しっかりと栄養を体に入れてから治す事と知られていたのだ。


 ピーチとキリエが対応してくれたのに、間違いがあるわけもないのに取り乱してしまったからな。


 普通に考えて、ポーション自体に栄養があるわけでもなく、傷を治す効果があるだけなのだから、無い物を1から作るなら、それ相応の栄養が必要になる。というか、ライムに突然あの高ランクのポーション飲ませたのって、本当は危ない行為だった?


 色々反省する事もあり、終いにはシュリに羽交い絞めにされて、強制的に風呂に突っ込まれて落ち着くように言われたな。


 戦闘終了から6時間ほどして、リリーとシャルロットが目を覚ました。2人を怒ろうと思ったが、カエデ・ミリー・リンドが俺のとこに来て、絶対に怒ったらだめだからね! と、強く強く言われた。


 あなたの事が大切だから身を挺して守った2人は、みんなからすれば自分の仕事をしっかりこなしてるんだよ。そんな娘を怒るのはおかしいよね? 守りたい相手かもしれないけど、私たちもあなたのことを守りたいのよ! との事だった。


 だから俺は、2人にありがとうと声をかけて、その後に、お願いだから無理はしないでほしいと頭を下げた。


 この後問題になってくるのは、このダンジョンの攻略を継続するのかどうかという事だ。俺的には今すぐにでも帰りたかったが、みんなの意見を聞いて考えが変わった。


 後1階、151階にいるであろうボスを倒せば、おそらくダンジョンコアにたどり着けるのだ。来た分を戻るより、多少無理をしてでもこのダンジョンをクリアする方が、負担が少ないと言われ俺も思いとどまり、このままダンジョンを攻略する方向になった。


 ただこのダンジョンが、151階で終わりではなかった場合は、また話し合おうという事で話が終わった。


 目が覚めたリリーとシャルロットは、体の動きを確認するために、模擬戦を始めているとの事だ。もうちょっと大人しくしててほしかったけど、明日進むのに支障がないか確認をしていると。治ったとはいえ、本当に無理をしないでくれよな……


 夕食は、ケガを負った2人の大好物の食事が用意されていた。リリーはカレーが好きなので、10種類以上ものカレーが準備され、自分で自由に食べれるビュッフェタイプの夕食になっている。


 シャルロットの好きな物は、唐揚げや油淋鶏、鶏南蛮といった鶏の揚げ物系が好きなので、こっちも自由にとれるようになっている。俺は、トリカツをカレーライスにトッピングをして食べている。相変わらずうまい飯だ!


 夕食後は特にする事も無くなったので、従魔のブラッシングをしていた。一番初めにダマが近くにいたので始めようとしたら、ハクがバサバサ飛んできてダマをどかして、俺の膝の上におさまったので、仕方がないと言ってブラッシングをしてやると、気持ちよさそうに眠ってしまった。


 ハクをどかして、近くで待機していたダマのブラッシングをしようとしたら、今度はクロとギンが鼻でどかして俺の前を陣取った。時間をかけて2匹のブラッシングをしてやった。


 今度こそといきこんでやってきたダマを、コウとソウがタックルをして邪魔して、俺の前を陣取りブラッシングを催促してきたので、苦笑しながらやってやった。


 やっと終わったのでダマの様子を見ると……ニコたちスライムにもみくちゃにされて、疲れた顔をしていた。ニコたちをどかしてダマを救出する。


「お前も大変だな。一番強いのに後輩だからといって。色々面倒な事になってるよな」


『しょうがないですよ、力で従えようとしても、主殿に最終的に怒られることが分かっているなら、これくらい……主殿に怒られる方が、100倍はきついっすからね』


「ん? 俺ってそんなに怖いのか?」


『ちょっと語弊のある言い方でしたね。主殿を怒らせるようなことをすると、先輩たちもそうですが、奥方やシルキーの皆様にも怒られるんです。その、美味しいご飯が食べられなくなるのは、死んでも嫌ですので、大人しくするしかないんですよ』


 食欲に負けた神獣だったか。前にシルキーたちを怒らせて、キャットフードみたいなの食わされてたもんな。うちの従魔たちは、シルキーの食事のおかげで舌が肥えてるからな。野生の食事に戻ったら食欲がなくなって、本当に死にかねない。


「ブラッシングしてやるから、ささくれた心を癒してくれ。ここがいいんだろ?」


 喉をゴロゴロ鳴らしながら気持ちよさそうにしていた。そのまま疲れたように眠ってしまい、俺はベッドの上に運んでやり、俺も眠りにつく事にした。


 苦しい……この感覚は、スライムの誰かが俺の顔に乗っているな。顔に張り付いていたものを、鷲掴みにして投げ飛ばす。着地した先を見るとやっぱりニコだった。俺の顔に乗るなって何度言えばわかってくれるんだろうな。


 日常と何一つ変わらない朝を迎え、準備を整え進んでいく。150階には堕天使は復活しておらず、素通りで151階に進む事が出来た。偵察はしっかりと行わないとな。壊れた人造ゴーレムの補充はできていないが、1体しか壊れていないので問題ない。人造ゴーレムにカメラをつけて先に進ませる。


 カメラに映った影は1つ、でも俺の予想を大きく外れる相手だった。

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