第447話 会談終了

 全員が俺に向かって頭を下げている、何故だ? 意味が分からないが、後ろに付き添ってきていたピーチに進むように促されたので、会談の席に移動しようとするが、ここでもまた意味不明な場所に座らされた。


 普通二ヵ国の会談では、二つの国が向かい合わせに座ると思っていたのに、誕生日席とでも呼べばいい場所に俺は座らさせられている。実際、帝国の特使たちとガリア、アンソニたちディストピアの人間は、向かい合って座っているのに何で俺だけ、わけわからん。


 俺が座ったのに他の人間は座ろうとしていない、俺の方を見ているだけ……ピーチから耳打ちがあった。その内容に沿って発言をする。


「特使の皆様遠路はるばるご苦労。向かい合っているからお分かりだと思うが、この者たちがメギドを新しく治める者だ。隣国としてよろしく頼む。自分だけ座っていて、立たせているのは失礼だな。みんな座ってくれ。では、今から話し合いを始めたいと思う。こちらの代表のガリアに進行を任せる」


「了承いたしました。これからは、シュウ様に代わり私、ガリアが進行をさせていただきます」


 なんていうんだろう、俺ってめっちゃ偉そうなんだが。ピーチに耳打ちされた言葉を聞いて、ちょっと耳を疑ってしまったほどだ。


 俺の顔が現状を把握できていないのだろうと、ピーチから再度耳打ちがある。


「ご主人様は偉そうなのではなく、実際に偉いのです。すでに四つの街を手中に収めている、大貴族になりますからね。帝国も落とせる戦力を持っているので、国と名乗っても問題は無いでしょう」


 へーそうなんだ。こっちに呼び出される前は、小市民も小市民の日本の高校生だったのだ! もう現実逃避をして、他人事のような感覚で聞くしかなかった。


 俺が現実逃避をしている間にも、会談は始まろうとしていた。


「ガリア殿、この会談を始める前に、お話しをよろしいでしょうか?」


「了解しました。どういった内容でしょうか? えっと……」


「すいません。まだ名乗っていませんでした。私は帝国皇帝の全権代理で派遣された、ガルガンドと言います。内容は、皇帝からの謝罪でございます。


『この度は私の国の領主が、シュウ様に無礼を働き、誠に申し訳ございません。つきましては、条約通り街はシュウ様の物。シュウ様はこの国の人間ではございませんので、ここの周辺をディストピアの飛び地として、認めさせていただきます。周辺の領土は、今回の話し合いで決めて頂ければと幸いです。お手柔らかにお願い致します』これが謝罪の内容になります」


 と言われ、すごい豪華な筒に入った手紙が渡された。それと一緒に何かの目録のようなものも一緒に渡された。良くわからないが、人名の様なものまで書かれている。なんなんだこの不穏な紙は?


「謝罪のために帝都の綺麗どころを集めてきました。他にもモノ作りが好きと聞いていますので、特殊な素材を持参させてもらいます。後ほどお渡しいたします」


 ん~人間を渡すって、奴隷じゃないんだからさ……というか奴隷だったとしても、それは違うんじゃねえか? 何度も奴隷を買っている人間のセリフじゃないけどな。


 綺麗どころには、男として興味はそそられるが、妻がこれだけたくさんいるのに、さらに女を囲わせようとするとか馬鹿なのか? それとも妻がいると知らないとか?


「話を進めさせていただきます。皇帝から領土の話が出ましたので、そこから話し合いましょうか」


 お互いが頷き合い領土についての話が始まって、


「この街から肉のドロップする東の森まで、直線距離でだいたい十五キロメートルといったところでしょうか? なのでこの街から十五キロメートルは、街の領土として認めてもらいたい。森は中立地帯として、冒険者に自由に使ってもらいたいと考えています。


 その近くに街を作りますが、森へ行けるのは、冒険者だけにする予定です。領土の範囲が問題なければ、こちらで境界に壁を建てて、主要の道路の場所に門を設ける予定です。門の管理は内側を私たち、外側を帝国へお願いいたします」


「十五キロメートルですか……ちょっとお待ちいただいていいですか?」


 帝国側の特使たちが話し合っている。俺には何故か話し声が聞こえているんだよな。後ろにいるピーチを見ると、横にいるライムを指さした。お前の仕業か。


 内容は「本当にその程度でいいのか?」「これは罠ではないのか?」など、少ないとか騙されてるのでは? みたいな感じで俺達の事を疑っているようだ。それって無礼じゃないのか? とか思わなくもないが、


「それでよろしくお願い致します」


 と、すんなりこちらの意見が通った。


「続きまして、賠償金の話ですがこちらとしては、何も損害なく街をもらっていますので追加はいりませんが、これまで帝国の街として運営されていた街の不祥事ですので、不利益を被った街や商人とその家族、冒険者とその家族などへの補償は、そちらでお願いしたい。


 私たちが関わっていないのに、現行で街を支配しているのが私たちに、責任や賠償が求められても困ります。私たちには、前の人間の不祥事の責任を取るつもりはないです」


「そちらの言う通りです。補償はこちらで行います」


「国からポンと支払われても、この街からは貰っていないと言われると困るので、こちらから支払った形にしてもらいたい。この街を中継してお金を渡したいと考えています。こちらで着服しないように、監視する意味で帝国から人を派遣してほしいですね。もしそれで納得しない街や家族がでたら、そちらで対処お願いします」


 大分吹っ掛けた内容だけど、大丈夫なのか?


「そうですね、こちらとしてはそうしてもらえれば、対処しやすくなるので助かります。どれだけ支払うかを他の街や商人、冒険者やその家族と連絡を取らせていただきます。時間がかかると思いますがしっかりと調査します」


 おっと全部丸呑みした!?


「それとこの街から、奴隷として売られた人たちの足取りも探していただきたい。犯罪奴隷はどうでもいいが、不法行為によって奴隷になった人たちの開放を忘れずに。それとその人たちを商っていた奴隷商は、前領主と繋がっている可能性があるから連れてきてください」


「わかりました」


「続いて……」


 話は進んでいくが、恐ろしい事に帝国は一切反論することなく、こちらからの要望をすべて受け入れていた。最後に今まで決めた内容を文章にまとめ、相違がない事を確認しサインを行っていく。魔法具らしくサインをすると輝いていた。


 終わったのはいいがアホ面を晒していると、対応の終わったガリアが戻ってきて、


「シュウ様、会談中難しい顔をされていましたが、帝国からしたら今回の内容はあり得ないくらい好条件なんですよ? 本来なら戦争をする口実にもなるし、帝国は戦争になったら勝てないのは理解しているはずです。戦争に負ければすべてを奪われますからね。


 それを考えれば、最悪属国として生きながらえる選択肢すら、向こうにはあったはずですよ」


 ディストピアってすごいんだな……


 俺の中では、もう完全な他人事になってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る