第315話 霧の中の進行

 俺のセリフを奪ったピーチに近付いて、


「ピーチ、俺のセリフとらないでくれよ、せっかくかっこよくきめるつもりだったのに」


「ご主人様はそんなことしなくても十分カッコいいです。いえ言葉が違いますね、ご主人様がカッコよくなければ、この世界にかっこいい人間なんていないです。皆さんもそう思いますよね?」


 周りにいて話を聞いていた妻の全員が首を縦にふっている。妻たちの過度な評価が若干辛い、ダサいとか言われるよりは数倍ましだけど、それに釣り合ってないと思う自分がいるだけに、少々むずがゆくなってしまう。


「ご主人様は基本方針を決めてくだされば、後は私たちで何とかしますのでのんびりとみていてください」


「それってダメ男的なポジションに近いんだけど」


「何言ってるんですか? ご主人様は私たちだけでなく、ディストピアの住人にも仕事を与えてくださっているのに、ダメ男なわけがありません! 自分を卑下するのをおやめください。ご主人様はこんなにいい男なのに、自分に自信がないところがたまにありますよね。こんなにいい男なのに」


 なぜニ回言ったし! 人の価値観を否定はできないけど、日本には俺よりいい男なんてかなりの数いたと思うけどな~みんなが俺の事を好いてくれているのは嬉しい事だよな。


「ご主人様! 斥候に出ていたライラとソフィーから敵性反応を発見したそうです」


「敵正反応? 魔物じゃないの?」


「直接視認したわけでは無いので要領を得ないのですが、どうやら生物ではない様子です」


「ってことはスピリチュアル系の魔物か、単なる霊体で悪霊みたいな感じか? この世界で悪霊って魔物の範疇な気がするから、やっぱり実体を持たない魔物の線が強いか。敵は実体がない事を想定、魔法は精霊魔法および光属性の入っている魔法を使用。近接と弓はミスリル製の武器を使用すること。対応しやすいように集まって円陣を組もう」


 ミスリル製の武器はディストピアの鉱山ダンジョンをもぐった時に大量にドロップさせたミスリルを使って作ったものだ。


 対アンデッド用の武器として作っていたのだが、聖銀とも呼ばれるミスリル銀は武器に一定割合以上配合されていると、その武器だけで付与の必要もなくアンデッドに対してダメージが増えるのだ。


 作成した後に老ドワーフたちから、このミスリル銀の配合率で作られた武器なら、スピリチュアル系の魔物にも効果が高いと聞いていたのだ。しばらく出番のない武器たちだと思っていたが、思わぬところで出番が来た。


 俺の指示に従って陣形が変わっていく。敵正反応のあった場所へその陣形のまま進んでいく。確かに索敵に反応はあるけど生物ではないな、実体のある魔物も生物ではあるので生体反応のないこいつは、少し違う存在なのだろう。


 ちなみにアンデッドも何故かこの世界では生物として認識されている。不思議な感じはするが死の属性の体を持った魔物というだけなのだ。


 死体を魔石で動かしているから死んでいると思うのだが、骨っ子のスケルトンもどうやって吸収しているのか分からないが食事をしているらしい。まぁ一番の理由は、神たちがそう定義したから生物として扱われるんだけどね。


 さてそろそろ視認範囲に入ってくるんだが、いた!


「敵愾心は感じるけど、何故か攻撃してくる雰囲気じゃないのはなんでだろうな?」


「シュウ、とりあえず一匹攻撃してみたら? 攻撃が通じるか試すのにはちょうどいいし、今なら弓で狙い撃ちでしょ?」


「攻撃が通じるかは早めに分かりたいところだもんな、何せ実験する相手がいなかったからな。他にも少し離れた所に複数いるけど襲ってきたらどうする?」


「引き気味に戦えば、問題ないんじゃないかしら?」


「それもそうだな、最悪DPでダンジョンを作って逃げ込むのもありだな。とりあえずメアリーとマリアどっちかあいつを射抜いちゃって」


「ご主人様!、ミスリルの矢は高価な上に、使い捨てになる可能性が高いのによろしいのですか?」


「得体のしれないやつに妻を切りかからせることはさせられないから、矢を使い捨てでもいいから検証に使うだけだよ。それにその矢につかわれてるミスリルなんてたかが知れてるさ。もし足りなくなったらDPで出してもいいし、ヴローツマインに取りに行けばいいんだしね。という事で遠慮なく撃っちゃって」


 メアリーはまだためらっているが、マリアは俺の一度目の指示が出た時に矢をつがえていて、ニ度目の指示の瞬間に矢を撃ち放っていた。


「どうやら効いてはいるようだね、でも今の一撃で倒せないってことはそれだけ高位の存在か、単にミスリルの効き目が悪いのか? じゃぁ次は光属性の魔法を付与した普通の矢でいってみよう、という事でメアリー撃って」


 ミスリルの矢を使わないためか気持ちが楽なのだろう、動きに遅滞はなく敵に吸い込まれるように矢が飛んでいく。


「んーさっきと同じくらいはダメージが出てるかな? それにしても何で動かないんだろうな? じゃぁ次は、ミスリルの矢に光魔法を付与したやつを撃ってみよう! メアリーもう一度だ!」


 少しひきつった顔を見せたが、俺からの指示であるため普通の矢の時と変わらないスムーズな動きで矢を撃っていた。


「やっぱりミスリルの矢と属性で別々にダメージ判定があるっぽいね、さっきより大分効いている感じがあるからな、でも本当に死なねえな。どうしてだ? じゃぁ光魔法でやってみるか!【ホーリーランス】」


 自分の頭上にシングル本ほどの光の槍を生み出し敵性存在に撃ち込む。


「あれ? 思ったより効いてないな」


「ご主人様、なんだかまわりの木の元気が無くなってるって、精霊たちが騒いでる」


 イリアの言葉を聞いてまわりを観察してみると、木の幹は変化なかったが木の頂点あたりの葉っぱが不自然に枯れている。しかも見ている間にもその範囲が広がっているようだ。


「まじか!? こいつまわりから生気? でも吸い取ってるかもしれないな。木みたいに抵抗のできないモノから奪うとかエグイな。周りから吸い取ってるという事は、あいつを構成する何かは上限があるってことだ。飽和攻撃で仕留めるのがベストだろう。弓と魔法かまえて光属性で行くから間違えないようにね」


 メアリーとマリアはミスリルの矢に光付与、レミー・ジュリエット・ライム・イリアは俺の使ったホーリーランスをニ十本ずつ生み出して敵性存在に解き放つ。俺はその間に魔力を練り込んでオリジナルスペルの【ホーリーレイン】を使用する。上空に無数の光の玉を作りその玉を対象に向けて次々にふらせる魔法だ。


 予想通り敵性反応が消えたが、爆風を伴わない非実体性の爆発とでも呼べばいいのだろうか? それが体の中を突き抜けると体の中から何かが奪われる感覚がした。


「全員退避! いったん距離をとるぞ!」


 近くにいたはずの敵性反応は、追ってくるわけでもなくその場で動かずにたたずんでいた。

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