第314話 九日目

 昨日から魔物の強さに変動がなくなった。そろそろこの森の最深部なのだろうか? 魔物の強さからすると樹海の最深部、山に住んでいるワイバーンと同じ位の強さだろうか? それを考えるとこの辺で魔物の強さが上がるのは、打ち止めになってもおかしくないな。


 そういえばSランクの魔物ってどこにいるんだろうな? フェンリルの時はギルドからの依頼で探索して発見したんだったっけな? あいつってあの森で生まれたのか?


 ダンジョンでもSランクって呼ばれる魔物ってあってないよな? ビックオリハルコンゴーレムとビックミスリルゴーレムがSランクなら話は別だけど、ヴローツマインにもあの魔物の情報はなかったしな。確かにタフネスと攻撃力は高かったけどな。


 話がそれたな、目的地まで半分過ぎたってところでいいんだろうか? かつて召喚された勇者が渡り住んだ場所ってどんなところだろうな? インフラが整ってるって話だしな、旨い飯とかもあるといいな。


 散発的に襲ってくる魔物は、新しい魔物は追加されず既知の魔物だけだった。時々美味い肉を落とすイビルスパイダーやポイズンセンチピート、マザースネークが出てきたので、ボコってしばき倒して隷属魔法で強制的に配下に加えていた。


 他にも昆虫系や爬虫類系の魔物が出てきているのだが、こいつら以外に食材をドロップした奴らがいないんだよな。昆虫はともかく爬虫類は蛇以外にも美味いのがいるはずなんだけどな、特に亀とかワニとか地球で美味いって言ってたはずなんだけどな、ものによるけど。


「みんな、ひとまずお昼にしよっか。おいらはお腹がすいたよ」


「ねぇシュウ、あなた何がしたいの? 一人称がおかしいよ? どこ目指してるのよ」


「単なる気まぐれだ、特に深い意味はないから気にすんな。とにかく腹がすいたから飯が食べたいんだよ。わしは空腹なのじゃ!」


「シュウ君、せめてキャラ設定をころころ変えるのはやめてほしいわね。私的には夜私たちに甘えてくる、あのシュウ君で固定してもらえたら嬉しいんだけどな。あのシュウ君は胸にキュンキュン来ちゃうのよね」


 リンドに突っ込まれて答えた内容にさらにミリーに突っ込まれてしまった。しかも恥ずかしい夜の事情まで暴露された。半分以上バレてるけど改めて言われると恥ずかしいんだよ! だってカエデもミリーもリンドも年上で、大人の女性に甘えたくなるじゃん! わかるよね?


「ミリー飯抜きにするぞ!」


「自分で作るから大丈夫だけど?」


「うぐっ、そういえばみんなの腕輪の中にも食料入ってるんだった! もういい、めしにすっぞ!」


 現状は不利だと判断して流すことに決めた。ご飯の最中に三幼女は無邪気に『甘えるってどういうこと?』とミリーに聞いていたため吹き出しそうになったが、ミリーが『三人もシュウ君にくっついて、頭なでられるのとか好きでしょ? そういったことを私たちにしてくるんだよ』なんて答えちゃってるし!『ご主人様も私達と一緒なんだね』とひとくくりにされてしまった。事実だけに何とも言えないこの感じ。


 年少組にも何だか優しい表情で見られて恥ずかしい。できる限り気にしないように食事をすればするほど、気になってしまう無限ループ、頑張るだけ無駄だな。羞恥に耐えながら食事を食べていると、見た目と味にギャップがある食べ物が口の中に! 見た目はカレーパン、味は肉まん!


 簡単な話、カレーパンのパン生地に肉まんの具が入ってたのだ。美味しいんだけど見た目と味が違うと頭で理解して食べているつもりでも、違和感がありすぎて不思議な感じだな。


 意外な方向からパンチが飛んできていい感じに羞恥心の無限ループから離れられてよかった。今日の弁当作った組、グッジョブだ。


 昼食も終わって、しばらくくつろいでいる時に上を見ると、なんだあれ? 木に覆われていて少ししか空が見えないのだが、遠く離れた場所の雲? に違和感がある。


「ねえみんな、あっちの方向に見える雲に違和感があるんだけど、みんなの目からはどう見える?」


 ほとんどの妻は首をかしげて何のこと? という感じだったが、一人だけボソッとつぶやいたのはレミーだ。


「ラ〇ュタ? 龍の城? 巣?」


「あー言われてみれば似てなくもないけど、俺の感じていた違和感ってそれなのかな?」


 確かに言われてみると背の高い雲の積乱雲が渦巻いているように見えなくもないので、レミーの感想が出ても不思議ではないか? それにしてもあれだけの雲の下だったら雨や雷がすごい事になっているんじゃないか?


 距離が遠いのでどのくらいの規模の積乱雲かはよくわからないが、単純に横幅ニ十キロメートル以上はあるのではないだろうか? 日本であの規模の積乱雲ができたら、電子機器が相当数壊れたりするんだろうか?


「まぁこっちに来ないなら今の俺たちには関係ないな。雲の下に街がないといいな。じゃぁ食休みも終わりにして出発しようか」


 俺の指示に従って椅子や机をしまっていく。全部片づけ終わって今までの移動中の隊列と同じものを組んで出発する。


 しばらく進んでいくと、この森に入って初めて霧がかかった。今は十五メートル先くらいが見えない状態だ。どのくらい濃くなるのかわからないのでいったん進行を止めて様子をうかがう。今のところ索敵には魔物の反応はない、マザースネークのような敵を除いて存在していないということだろう。


 足を止めたので探知結界も張ってみたがやはり反応はない。隠れているものもいないな。それにしても結界魔法って便利だな~座標を指定して発動するので移動中に常時展開するのは困難だが、足を止めているときには本当に役に立つユニークスキルである。


 ただ一つの結界に一つの属性しかのせられないのが不便な点だろうか? 魔法結界と物理結界を張れば大抵のことは防げるのだ、でも強度を超える攻撃や耐久力がなくなると壊れてしまうのは防御系結界の弱点だろう。


 全員で回りの様子を警戒しているが、霧が濃くなっていくこと以外に変化が見られない。今はおよそ十メートルほど先までしか見えなくなっている。魔法組が色々試しているが効果がないようだ。


 水魔法で霧の水を集めてみても濃度は変わらないし、火魔法で火を起こして霧の発生しにくいように気温を上げてみても効果がなかった。


 俺もいくつか魔法を使ってみる。氷魔法を使って空中から熱を奪って氷点下の世界を作ってみても全く効果がなかった。後は風魔法で上空の風を吹き降ろすように風を移動させても効果は見られなかった。


「ん~おそらく俺らが干渉しても消える類の霧じゃなさそうだね」


 俺のつぶやきに、年長組やカエデ、ミリー、リンドがうなづく。


「とれる方針はニつ、一つは霧を無視して進行する。もう一つはここで野営をする。ってところだね。みんなで多数決を取ろうか」


 しばらく考えたのちに投票してもらうと、霧を無視するがニ十一票、ここで野営が〇票、多い方を支持するが五票だった。


「では、霧を無視して進んでいきましょう。スピードは遅くなるなりますがお互いが見える範囲、カバーできる範囲で行動するように」


 俺が言おうとしたセリフをピーチが奪ってしまった。

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