第312話 ゲテモノ実食

 五日目、六日目は、敵が強くなっていくくらいで、特に変わった大きなことは起こっていない。


 七日目に入って大きな変化が起きた。魔物の強さがとうとうAランクになったのだ。


 いろんな種類の魔物が出てくるため、敵を発見してから相手に合わせた動きになってしまうため、気持ち対応が遅れてしまう印象だ。


 それでもただのAランクの魔物では相手にならないので誤差の範囲なのだが。


 一匹一匹にかかる時間が長くなっているので、微妙に時間がとられてしまううざい状況だ。森に入った当初は大した数の魔物ではなかったが、奥に行くにつれて魔物の密度が濃くなっているので、一回に出てくる魔物の数も増えていているからさらにうざく感じるのだ。


 更に対処しにくい別種族の混成パーティーまで出てくるのだから質が悪い。亜人型、獣型、昆虫型、植物型等が入り乱れて出てくるのだ、いくらこちらが強くても疲弊は免れない。


 樹海も結構な密度の魔物がいるけど、樹海の森の中で戦闘した事って多くないんだよな。こんなにいるとなると、ディストピアの今の平和な状況はかなり恵まれてるよな。樹海とここの魔物が同じ密度だと考えると、鬼人たちってすごい所で暮らして移動してたんだな。


 隠密行動が得意になるのはわかる気がするな。というか、必然的にそうならざるを得なかったんだよな。暗部みたいな汚い仕事を中心にやってくれているのも、安全に暮らせる場所を俺が提供したからなのかな? 帰ったら昔の話でも聞きに行こうかな。


 さっき昆虫型の魔物の蜘蛛が食材を落としたんだよな。イビルスパイダーの脚肉だってさ。イビルって邪悪とかそんな意味だったけど、食べて平気なのかな? 世の中に昆虫を食べる文化はあるけど、俺はあの形のまま食べるのは苦手なんだよね。


 でも脚だけで調理した後の物なら食べれるか? 小説なんかでは美味しいっていうけどな。あれ? 食材としてドロップしてるんだから、食べ物なんだよな? この世界で食材としてドロップするものに、今の所不味いものなかったし、少し期待できるかもな。


 ランクが高い物ほどうまい傾向にあるし、Aランクならかなりのものだよな! 今日の夜にでも食べてみるか。


 おやつの休憩の後に進行を開始してすぐに、森の入り口でお世話になったセンチピートの上位種が出てきた。毒々しい青紫だったり緑色だったりと、気色の悪い色だった。見た目はキモいし、甲殻を持っているのでそれなりの防御力もあり、蟲型特有の素早い動きが健在であるため戦い難かった。


 そして倒したらポイズンセンチピートの甲殻と一緒に、胸肉というのを落とした。待て待て、毒ムカデの胸肉ってことだろ? 毒なのに食べれるのか? 毒腺以外は問題ないとか? それより、ムカデの胸肉って、胸ってどこだよ! 鑑定のスキルには毒はないと出ているので、食べても問題ないのだろうが……


 今日はどうもゲテモノの肉に縁があるようだな。野営の設営中にマザースネークという大蛇も出てきて、少し慌てたが問題なく倒している。


 慌てた理由は誰の索敵にも引っかからず、感知結界も張っていなかったため発見できずに驚きによる慌てがあっただけで、実力的には対したことがなかったのが幸いした。


 普通のAランク冒険者なら一人や二人の犠牲が出ただろう魔物も、その程度であしらわれてしまっている。もしSランク以上の蛇型の魔物がいたら奇襲攻撃が強そうだなと思いながら、ドロップしたマザースネークのザブトンを見ていた。


 ザブトンって牛の肩ロースのおいしいところじゃなかったっけ? それを他の魔物に当てはめたのはいいけど、蛇に肩なんてねーだろが! この世界のドロップアイテムの神秘を垣間見た一日だった。


 さて、野営準備も終わったので調理に移っていこう。まずはイビルスパイダーの脚肉から行ってみようか。まずは味を確認するために素焼きで……


「うわ~遠目で見ると産毛っぽく見えるのに、めっちゃ剛毛だな」


 見た目にひきながら老ドワーフたちが売ってくれた、包丁セットを使って調理していく。研ぎをしなくてもいいようにアダマンコーティングをしている名包丁である。


 つま先の十センチメートル位を切り落として毛を剃っていく。切り落としたつま先を立てて縦に真っ二つに切って、そのまま炭火の用意してある網の上へ投下。


 次にポイズンセンチピートの胸肉だが、これには甲殻はついておらず肉単品でドロップしているものだったので処理は簡単だ。薄く3枚ほどそいでから、それらを網の上に投下していく。


 最後にマザースネークのザブトンだ。胸肉と同じで肉単品でドロップしている。部位的に考えれば筋が多そうなのだが、触ってみても固くはない。胸肉と同じく薄く三枚ほどそいでから、網の上に投下していく。


 今俺の料理の補佐をしているのは、三幼女とメアリーだ。ポイズンセンチピートの胸肉は薄切りだったのですぐに焼けた。みんなで実食してみる。念のためAランクの万能薬をDPで召喚して……この森では極力DPを使わないと言っていたのはどうした、俺!


「うん、普通にうまいな。癖もなくてなんにでも合わせやすそうだな。少し歯ごたえがあるから、今みたいな薄切りで冷しゃぶにして、野菜と一緒にってのも悪くなさそうだな」


「そうですね。牛より豚に近くて歯ごたえがあるので、豚より薄めに切って生姜焼きみたいなのもよさそうですね」


 三幼女は『うまいうまい』だけしか言っていないので、参考にならないけどな!


 次は、薄切りのマザースネークのザブトンだ。


「ん~蛇は、種類にもよるけど筋張ったり固かったり臭かったりするのに、全然そういう感じがないな。上品な鶏肉を食っているみたいな感じがするな。鳥に合わせた調理なら何でもあいそうだな」


「こちらは火を通しても柔らかいので、鳥のささみみたいにサラダに添えるのも悪くなさそうですね」


 例の如く三幼女は『うまいうまい』としか言っていなかった。


 最後は一番最初に焼き始めた、イビルスパイダーの脚肉のつま先だ。


「うん、これはカニだな!」


「カニですね」


「「「カニ、うまうま」」」


 君たち、それしか言えないのかな?


「でも、味の濃いかにって感じだね。これもカニの用途に合わせて使っても問題ないだろうけど、素焼きが一番うまい気がするな。


 無理に手間をかける必要もなさそうだし、加工に関してはシルキーたちに任せた方がいいだろう。明日こいつら見つけたらちょっと捕獲しておこうか。エント亜種みたいにダンジョン農園に送って誰かに見ておいてもらおう」


 三幼女とメアリーと一緒に、どういった料理にするか検討会を開いた。


「じゃぁ結論として、イビルスパイダーの脚肉はそのまま素焼きで、ポイズンセンチピートの胸肉はシンプルにしゃぶしゃぶで、マザースネークのザブトンは唐揚げにしよっか。じゃあ料理方法も決まったし調理開始!」


 調理といっても胸肉は薄切りにして盛り付けるだけだし、ザブトンは一口大に切ってシルキーたちが用意してくれていたから、あげ専用の漬けダレを使って味付けするだけだ。脚肉に関しては毛をそり落として、半分に切るだけでいいのでさらに簡単だ。


 漬けダレに漬けていたザブトンの漬けダレの水分をしっかり拭いて、片栗粉をしっかりつけてから余分な片栗粉をたたき落し、油の中へ投入していく。ジュウジュウと良い音と良い香りをたちのぼらせている。ちなみに余分な片栗粉をたたき落したのは、カラッと揚げるために行ったひと手間だ。


 他の料理も完成してみんなが食堂に集まってくる。今日とれた蜘蛛、ムカデ、蛇の肉を使った料理を紹介する。


 この世界の人は蟲も食材だと、普通に思っているので抵抗はない様だ。ディストピアで蟲を使った料理が出てこなかったのは、俺が苦手だと知っていたから避けていただけだったらしい。


「じゃぁ揃ったので、いただきまーす」


 みんなも俺に続いて『いただきまーす』の掛け声で食事を食べ始める。一番最初に無くなったのはイビルスパイダーの脚肉だ。次にというか同着でポイズンセンチピートの胸肉と、マザースネークのザブトンがなくなった。


 明日こいつらを発見したらディストピアに送る事を話すと、全員が美味しい食材が増えるとかなりの喜びようだった。

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