第252話 鬼人たちの狩り
戦闘音らしきものが聞こえてきた部屋をのぞくと、十二人の兵士風の装備をした者達を発見する。
言葉を一切話していない。初めの頃に冗談で教えたハンドサインを使って、よどみなく動いている。どうやら気付かれるまで一人ずつ捕えていくようだ。静かに近付いて三人で口と腕と足を抑えて一気に見えない位置まで連行して、真実の瞳を無理やりに使わせる。
やっぱり犯罪の称号がついているので、そのまま奴隷の首輪を着用させる。四人目を捕らえたところでやっと異変に気付いた兵士たちは声を出し周りを警戒しだす。奴隷の首輪をつけた兵士たちはすでに一つ上の階に連れていかれている。首輪に逆らって声を出すこともできない。
警戒しながら戻ってきた兵士たちは二列に並んでいた。ちょうどよく十字路があったので、そこで二人捕らえて、六人になったところで三中隊十二人で襲い掛かっていた。ほぼ奇襲のような状態で圧倒的強者から攻撃を防げるわけもなく簡単に片付いた。
「予想以上にスマートに終わったな。俺なんかが口挟むようなことはないね。むしろ教わることの方が多そうだな」
「そうですね、集団が一つの塊として流動的に動くこの技術はすごいですね。私たちも訓練に取り入れましょうか?」
「シュウ殿、こんな雑兵相手に苦労するわけありませんよ。それにしても全員に犯罪の称号がついてました。とりあえず全員三階の拠点に送っています」
それにしても見事に犯罪者しかいねえな。このダンジョンで捕まえるうちの何人が犯罪の称号なしなんだろうな。今まで来た奴らの一パーセント以下だったからな。
「追加で報告があります。捕まえた屑共から聞き出した情報ですが、どうやらここのダンジョンはシュウ殿の読み通り神官と騎士たち専用のようです。大体一中隊前後でダンジョンに潜っているそうです。
あの屑共は教団のなかでも下っ端のようで他に有用な情報はありませんでした。今もぐっているのは恐らく一〇〇人前後らしいです」
リュウの中で潜ってる人数は有用な情報じゃないのかな?
「シュウ殿、ダンジョンにいる人数なんて知った所で有用な情報ではないですよ。疑問に思っている顔ですが、あいつらが知らないだけで他にもっといるかもしれませんよ? それに何人いようと私たちには関係ありませんです。すべて殲滅してとらえるだけです」
あ~考えてることバレたか。何人いても一緒か、油断しないように目安にしてるってことかな?
「俺も抜けてるな、ちょっと考えが甘くなってたな。リュウからいろいろ学ばせてもらうよ。よろしくたのむよ」
処理が終わったら隊列を組みなおして再度行動を開始するようだ。しっかりと訓練しているんだろうな。先ほどと変わらず集団が一つの意思のもと流動的に行動を開始する。
相変わらず凄いな。見習いたいところだけど、みんなにこれを強いるのは何か違う気がするな。参考にできる事もあるだろうからしっかりと見させてもらおう。
特殊部隊の流れるようなダンジョン攻略を見ながら、鬼人たちに銃持たせたら様になるんじゃね? とか変な事を考えていた。俺の開発した魔導兵器とでも呼べばいいのだろうか? あれを持たせて軍隊っぽい装備を着せたらカッコよさそうだな。
俺の作ったピースなら魔法で打ち出すからガンパウダーみたいな派手な音はないし、付与魔法で風を付与しているので音速を突破した時の音も、ほとんどないので隠密に優れてるんだよな。
ただ弾頭が鉛とかにしてあっても通常の形にしておくと貫通するから、わざわざ弾頭がつぶれやすい形にしているくらいだ。貫通弾として鋼鉄やアダマンタイトで弾丸を作ったけど、あんまり違いが無かったことが後でわかったんだよね。
なんてことを考えてたら十一階まで到着していた。そうするとダンジョンの様子が変わっていた。通路が二回りほど大きくなっていたのだ。通路に合わせた魔物が出てくるのだろうか? 大型の魔物?
「シュウ殿、戦闘音が聞こえてきます。後ろへ下がっておいてください」
無言になってから、ハンドサインでどんどん指示を出しているようだ。指示の意味を理解した鬼人たちはどんどん移動を開始していく。散って行ったメンバーも戻ってきてハンドサインで報告している。この報告もハンドサインである意味はあるのだろうか? まぁ意味が通じているようで問題はなさそうだ。
リュウが上がってきた報告をまとめて俺に教えてくれた。ここの魔物はどうやらオークという事だ。ブルッ……嫌な事を思い出してしまった。
久しく思い出すこともなかった恐怖の存在、ホモーク。そういえばあいつがいたからみんなと出会えたんだよな。そういう意味ではいい仕事してくれたんだが……あの恐怖は思い出すと寒気しかしないな。
あいつの事は置いといて、敵の情報も集まってきたようだ。今回は十六人の一個中隊のようだ。攻撃職三に対して回復職一で、冒険者からみたらうらやましい比率である。
聖国には回復魔法を使えるようにするためのマニュアルみたいなものがあるのだろうか? 魔法使いの数も多いみたいなのだ。魔法は努力で誰でも覚えられるが、それでも数が多すぎる気がする。なにかしらの育成方法があるのかもな。
こんな事を考えているが、周りから見ればシュウがかかわってきた人間が、どれだけ異常なのかと言われてしまうだろう。ダンジョンで必死に鍛えれば強くなれるのは知られているが、それを実践できる環境が基本的にはないのだ。
王国・聖国・帝国の三大国がなぜ強い兵力をそろえられるのかといえば、専用のレベリングできるダンジョンがあるからだ。基本的な考えは三大国も俺も変わらないのだが、そこに費やせる力の桁が俺の方が大きいため、俺たちは強者をどんどん量産できてしまうのだ。
目の前にいる鬼人たちは元々強かったが、シュウの手を借りて数倍は強くなっている。
おそらくここでシュウが口を開いていたら、シュウの考えを正してくれる人がいたかもしれないが、静かにしている必要があったため誰も答えてくれなかった。
思考の海に沈んでいる間も状況は刻一刻と変わっていく。今回の兵士たちは、魔物が減った事により違和感を覚えているようで、警戒度が一気に上がってしまったようだ。
といっても俺たちは追い込む側で相手の位置を把握しているのに対して、向こうはよくわからない違和感により神経をすり減らしているのだ。人数的に見ても圧倒的有利なのに相手が動くのを待っている。容赦のない追い込みだな。
二十分経った頃に現状に耐えられなくなった敵が行動を開始しはじめた。四人一組の小隊で一・二・一のトランプのダイヤ型に隊列を組んで周辺を捜索し始めた。
どう戦うのか観察していてもなかなか手を出さないので不思議に思ったが、小隊同士が離れるのを待っていたのだ。本当に容赦のない狩りがそこにあった。
ダンジョンでストレスの溜まっている中の違和感、観察していても何がおかしいかわからない恐怖、捜索してもなかなか見つからない違和感の正体。とにかく追い込んで追い込んでから一小隊ずつさくっと摘み取っていた。
多分鬼人たちは樹海で生きるための手段として、息をひそめて相手をうかがって生きてきたのであろう。
待つ事は辛いかもしれないが、生きていくために必要な技術として培ってきたのではないか? そして相手を倒せると判断した時には一気に倒す、そういったスタイルだったんじゃないかな?
街中での戦闘になったら、俺らでも苦戦は必至だな。まぁ周りの被害を考えなければ負けはないんだけどな。って何で普通に自分たちと比べてるんだか。
十六人は一切言葉を発することもできずに全員が捕らえられていた。もちろん犯罪の称号の無い者はいなかった。この国は本当にどうなってるんだ。
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