第223話 中立都市ミューズ

 ジャルジャン側の砦をキャスリングで移動させ、入口をつぶしてから一週間が経った。砦があったところには何もなくなっていて、すでに木が生え始めていた。なんちゅー生命力なんだか。


 まだジャルジャンからは連絡が無かったので、聖国側の中立都市ミューズへの地下通路と砦を整備している。といってもキャスリングでジャルジャン側にあった砦を移動させただけだけどな。それにダンマスのスキルで作ったダンジョン地下通路を繋げて完成!


 とりあえず、地下通路を作るのに時間がかかったという事にして、特使が来てからおよそ一ヶ月でミューズ側の地下通路と砦が完成した。実質一日もかかっていないけどな。


 ミューズからヴローツマイン経由で特使が来ていたので、ミューズに地下通路と砦が完成したことを伝えに行く事になった。聖国側なので獣人に対する扱いが気になるところだが、今のところミューズにはバリス教の信者はいても神官や司祭などはいないはず。


 ミューズとしても都市として推奨もしていないので、俺たちが不利になる事はないだろう。もちろんマップ先生でも隠れて布教している奴がいないかも確認しているが、一人もいないので信者による布教位だろうか?


 何かあってもいいように全員で行くことにしている。人間だけで行けば問題ない気はするがそれだとなんだか負けた気がするのでそれだけはできない!


 なんというか俺のイジみたいなものだろうか、引きたくないというわがままだろうか。でも俺はこの気持ちを貫き通す! という事で、娘たちには準備をしてもらった。


 中立都市ミューズは、他の中立都市に比べて、なんか大きくないか? 金があるのか? 単純に人は多いけどなんか理由があるのかね?


 ミューズの門番にディストピアからの使者であることを伝えたら、ディストピアにきた特使から連絡が来ていたようですんなりと通してもらえた。樹海側という事もあり列になる事もなかったので待ち時間もゼロだった。


 なんかきれいな街な気がするのに臭い。他の街もそれなりに臭かったけど、この街は異常だな。鼻がひん曲がりそうだよ、これが普通の世界だと気にならなくなるもんなのかね? 一応メインストリートには糞尿の類はないが臭い。


 領主館へ向かって馬車を進めていると、豪華な馬車が道をふさいでいた。しかも周りには騎士? 兵士? 風の者たちも十人程いた。


 邪魔なので退くように言うと、変なおっさんとダンディーな執事が出てきた。


「おぉ、そこのお前! いい獣人の奴隷を持っているじゃないか。この俺がもらってやるからありがたく思え!」


 ピキピキッ


 まさかここでこんな奴に出会うとは! 今まであった中で一番ムカつくファーストコンタクトな気がする。怒鳴るのは簡単だが! ここはこらえろ俺!


「領主館に用があるので早く退いていただけませんかね?」


「ん? 父親に何か用だったのか?」


 お前がここの領主の息子なのか! 色々終わった気がする。


「ディストピアから来た使者だ。砦が完成したから報告に来た」


「ほうほう、これから俺の街と取引が始まるから挨拶に来たという事か! かわいい獣人の貢物と一緒か、殊勝な事だな」


「はぁ? 何で俺がお前に貢物をやらねばならん? そっちの要望で手間をかけて、地下通路と砦を作ってやったのに何でだ? 普通ならそっちが俺にお礼を言いに来る立場だろ?」


「貴様! この街の領主の嫡男であるシンディ様に無礼な口をきくんだ! たたき切るぞ!」


「剣を抜いたら後戻りできないぞ! 一応俺の紹介をしておくが、ディストピア兼グレッグの領主のシュウだ。お前も言葉遣いに気をつけろよ」


「お前みたいな若造が領主であるはずがないだろ! こいつら、ディストピアの使者と偽ってシンディ様に取り入ろうとしたのか! たたき切ってやるぞ!」


「そうだな。ディストピアの使者を騙ったこの男は殺せ! 女は傷つけるなよ。獣人は俺がもらう。お前たちは人間の娘たちをくれてやる、犯罪奴隷になるから好きにしていいぞ!」


「「「「「「「おぉぉぉ!!!」」」」」」」


 俺の言う話を全く聞こうとせずに、俺たちが嘘つきだと決めつけて殺そうと襲い掛かってきた。貴族ってこんな頭の悪い奴が多いのか?


「めんどくせえ、みんな制圧しちゃって」


 俺が言う前に迎撃準備が終わっていた。人数も質も上の俺たちにかなうはずもなく、ものの数秒で決着がついた。ダンディーな執事まで武器を構えて俺たちに襲い掛かってきていたのだ。執事って優れてていろんな知識に富んでる人じゃないのか?


「なっ! 領主の、この私の兵にこんなことしてもいいと思っているのか! 強い獣人のメスを私によこすのであれば考えてやらんこともないがな」


「お前……いい加減にしろよ? 俺はディストピア兼グレッグの領主だぞ、お前らの方こそいいと思ってるのか?」


「そんな嘘が通じると思ってるのかバカが! 今なら許してやるから早く解放して娘たちをよこせ!」


 マジこの領主の息子ポンコツだな! 領主がまともであってほしい。


「うるさいからそいつの口塞いでくれ」


 もごもご何かを言っているが無視だ。おそらくこの街の兵士たちは俺の事を敵とみるだろうな。だぁ!! めんどくせえ! この街にヴローツマインの大使館みたいなものはねえのかな? 教えてマップ先生。うん、ないみたいだね。とりあえずこのまま領主館に向かうか。


 俺が色々考えている間に娘たちが兵士の装備を剥ぎ取り、後ろ手に手を縛って全員の首に縄を数珠繋ぎ式にしてから馬車に括り付けて領主館へ向かう。


 領主館に行くまでに変な目で見られたが、兵士がいなかったので声をかけられずにすんだ。だけど領主館の門でやっぱりトラブルが発生した。


「おい、お前! 何で領主の息子であるシンディ様になんてことをしているんだ! 早く解放しろ!」


「俺はディストピア兼グレッグの領主シュウだ! 領主館に来る前に急にここの領主の息子であるシンディに襲われ、仕方がなく捕らえた次第だ。


 しかも襲う際に『ディストピアの使者を騙ったこの男は殺せ! 女は傷つけるなよ。獣人は俺がもらう。お前たちは人間の娘たちをくれてやる、犯罪奴隷になるから好きにしていいぞ!』と言い放ち俺を殺して、娘たちを犯罪奴隷にしようとしたんだが、この街の領主はどんな教育をしているんだ?」


「お前が領主だと……? こんな若造なわけあるか!」


 お前もか! なんなんだこの街! 領主の息子も兵士も執事もポンコツばっかか!


「あんたらが信じるか信じないかは自由だけど、もし刃を向けるなら覚悟しろよ! 使者としての用事があってここまで来ているんだ、早く領主に取り次いでくれ」


 脅しを含めて門番に言い放つと、可能性を考えて苦虫を潰したような顔をして考え込んでいる。何で今悩むんだ? とりあえず使者として扱って嘘だったらその場で取り押さえればいいのにな。バカばっかだな。


 こんなやり取りをしていると、騒ぎに気付いた領主らしき人物が出てきた。


「わしの家の前で何をしているん……だ! なぜ息子が縄で縛られている! 何をしているんだお前は! 早く縄をほどけ!」


「俺はディストピア兼グレッグの領主のシュウだ! あんたの息子が俺が領主と偽っているから殺せ、娘は犯罪奴隷だから自由にしてもいいと急に襲ってきたから、仕方がなく無力化して暴れないように縄で縛った」


「お前が領主? こんな若造が領主だと! 領主を偽るのは重罪だぞ! わしの息子が正しいじゃないか、犯罪者の分際で! 兵士共こいつらをとらえよ! 男は殺してもいい! 娘共は綺麗どころばかりだ多少の傷をつけても治せるから暴れたら痛めつけてやれ、そうすればおとなしくなる」


 マジか……お前もか! 三度目はいらないっての! せめて俺たちの身分を確認しろよ!

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