第210話 スライムの奇跡
ダンジョン六日目。
七十八階。後二十二階か。ブロンズゴーレムなのでまだいいが、この後のゴーレムによっては苦戦必至だな。
「さて今日も頑張っていこう。無理に進むつもりもないから、少しでも体に異変や疲れを感じたら報告するように」
宣言と共に七十九階へ向かって進んでいく。武装ブロンズゴーレムと武装ドールが増えてきて一戦一戦の時間が伸びてきている。ただそこまで苦戦している印象は受けない。普通のパーティーならここまでハイペースで進んでこれていないだろう。
実際Sランク冒険者相当の実力があるリンドが率いた五十人規模のパーティーが往復一ヶ月、片道二週間で七十三階までしか到達出来なかったのだ。それを考えれば相当なハイペースだろう。
ってかSランク冒険者を含んだパーティーが七十三階までしかいけなかったのに、いちいち俺が踏破する必要あったのだろうか? 収納の腕輪があったとしても、生半可な戦力じゃどうにもならないはずなのにな。ゴーレムが相手なのだ、武器の消耗も激しく手入れもダンジョンでは難しいのに。
チビ神曰く何かあるみたいだから踏破する気になったけどな。本当に何があるんだろうな? ダンジョンが手にはいるとかいうあほな落ちじゃないよな?
一回一回の戦闘は時間が伸びてきているが、大きいケガもなく進んでいる。何より挟撃によるダメージの効率化が起こっているため、特にドールの撃破が楽になり、統率されてると思わしきゴーレムたちの能力が元に戻るので、さらに楽に倒せるようになっている。だけどタフすぎるので時間がかかっているのだ。
八十階のBOSS部屋に到着する。鈍い金色のゴーレムが五体と同じ色のドールが五体。おそらくゴールドゴーレムではなく、オリハルコンゴーレムだろう。
オリハルコンは製錬する前もした後も金キラに光るのではなく、鈍い光だけど綺麗な色合いの金属なのだ。オリハルコンはミスリルの上位金属として位置づけられているが、実はそうではない。
ミスリルは製錬すると魔法伝導率の高い素材にはなるが、そこまで高い耐久性があるわけではない。それに対してオリハルコンは、魔法伝導率はほぼ無くなり高い耐久性があるのだ。オリハルコンは魔払いの効果があるのだ、だから対魔防具に向いた金属となる。
素材に合わせた耐久度ではないだろうが、ミスリルゴーレムよりは明らかにタフだという事は火を見るより明らかだ。七十階のBOSSより下の階のBOSSなのだ、間違いなく強いのはわかっている。そのうえドールまで出てきている、弱いはずがない。
「さあ、おそらくオリハルコンゴーレムとドールだ。ミスリルより強くなってるのは間違いない、でも数はたった十匹だ。こちらの方が圧倒的に多いぞ!」
「レイリーさん以外のタンクがオリハルコンゴーレムのターゲットを、残りのメンバーで先にドールを倒します。従魔たちはゴーレムに挑みたければ自由にどうぞ!」
ピーチがそういうと、今まで暇をしていたスライムたちが、クロとギンからポンポンと飛び跳ねて降りてくる。体の左右からちょっと突起が出てきてその突起を交互に前に突き出しているように見える。
かわすような仕草をしてまた交互に突き出す。何やらシャドーボクシングに見えなくもないな。見てて微笑ましいな。
スライムたちってこのダンジョンに来てまともに戦闘に参加してないよな、無機物vs粘液生物ってどうなんだろうな。どっちが勝っても悲惨な結末な気がする。スライムがペシャンコに潰されるか、ゴーレムがスライムにまとわりつかれて、何もできないのどっちかじゃねえか?
「今回もドールは一匹もらうぞ! 手出しはしないでくれよ、今回は大薙刀じゃなくて棒術を使った戦闘だから久しぶりなんだ。槍と並行して特訓してた時期あったけど、最近使ってなかったからさび落とししたい」
以前製作していた二m半程の八角の金属の棒があるのだ。重さとバランスの兼ね合いで中がハチの巣状になっている。中抜きにしてあるのでそれなりに頑丈であるが、その上にアダマンコーティングを少し厚めにしてある逸品だ。
刃を気にせずに叩きつけたり薙いだり突いたりできるのだ。どの程度変わるかわからないが、頑丈な武器で武術スキルとステータスを使っての全力攻撃だ。ストレス発散に向いている。何がそんなにストレスだって? 決まってるじゃん! 女の子が多くていろいろたまるんだよ! わかってるだろが!
自分で選んで付いてきてもらう事をお願いしたのに、それが色々とためる結果になってしまっている。うっぷんを晴らすべくオリハルコンドールに突っ込んでいき、攻撃の重さをあげる土魔法の付与を行いピンポン玉のように弾き飛ばして角に追い込む。
昨日は薙刀だったので払いや切り上げ切り下げが中心の連撃だったが、今回はそれに加えて突きもしやすくなった。力任せの連撃はすがすがしい程に俺のストレスの発散していく。自業自得とわかっていても、発散しないと過ちを犯してしまう危険があるのだ! ドールよ生贄になってくれ!
薙ぎ払い、突き、切り上げ、切り下げ、棒の中心付近をもって両端を高速で回し気の向くままに連撃を加えていく。映画のマト〇ックスで見たような鉄パイプの振り回しだ。俺の周りの音は空気を切り裂く異常な音に支配されている。
ブオンとかビュンとかではなく、空気を力尽くで引き裂くような音だ。そこにドールを叩く音が加わるので、ただただうるさいだけだ。でも体の中から少しずつモヤモヤが抜けていく気がする。
自分の部屋があるから隠れていたせばいいのだが、それをやると鼻のいい娘にばれて何か言われるのではないかという恐怖感? といえばいいのだろうか? いけない事をしている気分になってしまう。10代後半の俺には不健康な状態だな。
勢いでドールをたたき壊した。ふースッキリスッキ……リィィ!? 後ろを振り向くとゴーレムが、スライムまみれになってもがいていた。
攻撃しようにも自分の体に張り付いてるため力をこめにくいし、仲間のゴーレムを叩くわけにはいかないのでマゴマゴしている感じだ。こういうの見るとゴーレムって出来の悪いAIみたいな動きだな。何かに利用できそうな気もするけど今気にすることじゃないか。
それにしてもオリハルコンか、ドロップうめえな。DPで生み出せるといっても、加工できる人がそれなりにいて、需要が高いためアダマンタイトとは値段が違うんだよな。ここで少し狩ってくのも悪くないかもな。
ディストピアの老ドワーフ共へのプレゼントにもなるだろう。俺の作った鉱山ダンジョンにはまだミスリルすら手に入るところがないからな、貴重なんだよ。掘った鉱石からの製錬だとどうしても加工する人で品質にばらつきがある上に、元の世界の金ほどではないけど含有率が低いんだよな。
値段を考えれば、それなりの実力者を揃えればもぐれない事もないって思うけど、補強を考えると難しいか。四十階あたりで掘ってもミスリルやオリハルコンの鉱石がそれなりに出るから、リスクを冒してまでここまでくる必要ないか。
何かスライムたちがゴーレムを倒したな。どうやって攻撃したんだか気になるところだけどな。気にしたら負けな気がするから放置!
二十五分程でこの階のBOSSが倒せた。このまま進んでいこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます