第206話 ダンジョンの中

 ダンジョン二日目。


 今日の朝食は、サンドイッチ系が中心だった。スープはコンソメベースのこってりしたものだった。昼のお弁当と夜の仕込みまで、夜番の時間にすませたようだ。ちなみにお昼は行楽弁当と言っていたので、俺の好きな唐揚げが入っているだろう。


 二日目の開始地点は十七階。


 昨日も倒している敵の密度が、多少高くなっているだけで、特に苦戦することなくサクサクと進んでいく。二十階までの三階分は一時間三十分で踏破することができた。経路も敵もわかっていていたため一階に三十分しかかからなかった。


 やっぱり二十階は敵がほとんどいなかった。自分もダンジョンを作っているが、どういう状況で増えるかよくわかっていない。一応単品で召喚できるタイプと階層に付与するタイプがあるが、どうやって沸くのか繁殖をするのかわ知らない。そういう疑問を持ったのが今回が初めてだったからなんだけどな。


 十階と一緒で複数のパーティーが二十階を占領して狩場にしているようだ。十階よりメンバーが強そうに感じる。やはり深い階のメンバーの方が精鋭になるのだろうか? といっても敵は強くないから、そこまで強い人はいないだろう。


「二十階に常駐しているパーティーのリーダーさんはどこでしょうか? 二十階を掃除してくれている人たちに、私がオーナーをしている店の燻製肉とソーセージをお持ちしたのですが、いかがでしょうか?」


「燻製肉だと……しかもこの匂い! 神の雫の物じゃねえか! どんなに頼んでも持ち帰りさせてくれない、幻の肉を持っておられるとは! 本当にオーナーなのだな。もちろん喜んで受け取らせていただこう!」


 それにしても、燻製肉ってこの距離五メートルは離れていて、出したばかりなのに匂いで判断できるもんなのか?


 ヴローツマインにきてからドワーフって、時々犬なんじゃないかと思う事がある。酒や肉に関してはあり得ないほどの嗅覚を発揮するのだ。街中で酒盛りして臭いのきつい食事もたくさん出ているのに、一〇〇メートル離れた所で、好物の肉や酒が出てくると嗅ぎ取って近付いてくるんだからビビるよ。


 さて、昼まではまだ時間があるからもっと進もうか。今までの階層と同じく、自分たちのメインの武器のきき具合を確認して素手での戦闘に入っていく。多少攻撃がききにくくなってきたみたいだが、もともとがオーバーキルだったので気にするだけ無駄だろう。


 普通なら倒すのにもそれなりに時間がかかるんだけどな。色々確認しながら降りてるから無駄に時間がかかってるよな。安全はしっかり確保して降りたい、冒険者だけど無謀な冒険は今回はしないよ!


 休憩は二十四階に入って少し過ぎたところでとることにした。ちょうどいい広場があったのでそこでとることにしたのだ。おにぎりの具は! シーチキン、梅干し、昆布、明太子その他いっぱい。変わり種はおにぎりINチャーハン、これ注文したの誰だ? シュリ、お前か!


 そのおにぎりだけ一回り大きいと思ったら、シュリのために大きく作ってたんだな。それにしても唐揚げうめえ。ちょっとずつ違う味付けをしていたり、タルタルソースも味付けが地味に違うのだ。甘酢あんかけまで準備してあった。お昼はダンジョン出るまでこれでいいかもな。


 お昼が終わり素手というか格闘術? になるのだろうか? それのきき具合を確認しながら戦闘を進めていく。やはり打撃系の攻撃なのできいてはいるが、ダメージが落ちているのは明白だった。


 今はまだいいが今の感じだと、四十階を超えたあたりでは格闘は効率が一気に下がりそうだ。無機物相手に格闘はやはり効率がよくない感じだな。格闘専用の手甲と脚甲でもなければ、この先つらいだろう。


 魔法の効き難いゴーレムやドールも増えてきたな。属性の相性って本当に重要になってくるな。


 RPGとかで斬撃がききやすい打撃がききやすいとか、いろいろ分けられててなんでそんなのがあるんだろうと思ってたが、実際に対峙してやっとわかるな。武器の性能が飛びぬけてるから、今は問題ないが普通の武器使ってたら鈍器以外の武器が既に壊れてただろうな。


 二十八階に入ってしばらく進むと、今までにない魔物が歩いていた。人間サイズの亀がのそのそと歩いている。これはなんだ?


「あれ? メタルタートルじゃない? 最近倒したって報告きかなかったけどいるのね」


 メタルタートル? 亀か? 確かに甲羅が金色の金属でできているように見えるが。


「見た感じオリハルコンのタートルっぽいね。金色に光ってるんだから、それ以外にないと思うけどね。オリハルコンだからミスリル合金より硬いよ。魔法も基本的にきかないから厄介な魔物だよ」


「金属の甲羅でできているとはいえ生物であるなら、シェリルの浸透頸がきくんじゃないか? さすがに生体部分には、斬撃はきくだろうから試してみよっか」


 右手を挙げて伸びるようにして返事を返してきた。のそのそ歩いている亀に向かって攻撃を仕掛けるが全く効いていなかった。しょんぼりしたシェリルをだっこして慰めてあげる。


 武器を構えたアリスが前に出てきて、付与魔法で切れ味をあげて亀の首を切り落と……せなかった。切りつけた時の音が、明らかに金属同士がぶつかり合う音だった。


 しばらく、みんなでボカスカ攻撃してみたが、一切気にした様子もなく亀がトコトコ歩いている。


「なぁ、こいつって倒す意味あんのか? どうせ倒してもオリハルコンが出るくらいだろ?」


「ご主人様! レアな魔物は倒さないとゲーマーじゃないのです!」


 ネルにそう力説されたのでそういうものだと思ってしまった。


「といったものの、どうやって倒したもんだか? シェリルの浸透頸がきかないことを考えると、生物か怪しいんだよな。そうすると倒せる方法が思いつかないんだよな。そういえばオリハルコンの特徴って何?」


「そうさね、ミスリルが魔法と相性がいいのに対して、オリハルコンはどちらかというと物理攻撃と相性がいいって感じかな?」


「魔法の方が効果が出そうってことかな? 加工はどうやってやるんだ?」


「ミスリルより高温で魔力を込めながら加工する感じっていえばいいのかな? ちなみに、シュウが何となく加工してるアダマンタイトだけど、どんなに熱しても今の所形すら変えられないよ」


「ってことは、熱膨張させて一気に冷やしてみるか? えっと、火の魔法使える人集合! それと熱が漏れないようにシールドを張れる人も集合!」


 これからやることを話して配置についてもらう。シールドはれるのが俺とライムだけだったので、俺がシールドを張る役になる。


 魔力を圧縮してフレイムの魔法を唱えてもらう。一瞬の発動ではなく持続的に発動するようにお願いしている。魔法が途切れたところで、水魔法でできる限り冷たい水をイメージして水を生み出してもらった。


 ピシッ


 甲羅にひびが入ったが倒すことはできなかった。そこにメイスを持ったシュリが追撃をかける。もろくなった甲羅は簡単に砕けてドロップ品を落とした。面白いな、劣化で倒せるなんてな。


 そこから三十階までは何もなくスンスンと進んでいく。


 三十階のパーティーにも二十階のパーティーと同じように話して受け取ってもらう。ここのドワーフも匂いだけでどこの商品かわかっていた。恐るべし。


 本日の休憩場所は三十一階にある広場で行うことにした。

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