第177話 出発する前の一騒動

「さて困った……張り切って船を作ったはいいけど、どうやって海まで運ぼう?」


 俺のセリフを聞いて、集まった娘たち、精霊たちがポカーンとした顔をしている。


「ご主人様……運ぶ方法があるからここで作ったのではないのですか?」


「えっと、ごめん。運ぶ方法は全く考えてなかった。海に行くから船が必要、だから作ってみたとしか言えない」


「いえ、別にご主人様のダンジョンマスターとしてのスキルで作られたものですので、謝られる必要はないのですが……ここまで大きな物を運ぶ手段なんて思いつきません。教えていただいた中に運河? という方法がありましたがそれを作るわけにもいきませんしね」


 重苦しい雰囲気の中、十分間ほど時間が過ぎた。


「ご主人様、一つ聞いていいですか?」


「ん? 何がききたいんだいネル」


「えっと……フレデリクの街からここまで家を運んできた方法は使えないのですか?」


「キャスリングだったか……ダンジョンを入れ替える? いや違うな、掌握したエリアを入れ替えるが正しかったか? 十万DPのアイテムを使って、作成したダンジョンの十分の一のDPを消費して移動させるだったかな。


 十万+一二〇〇万の十分の一で一二〇万、合わせて一三〇万DPか。今の俺には大した消費ではないから問題ないか? 新しく作って一二〇〇万DPもかかるくらいならキャスリングで移動させればいいか? 移動させれるのか?」


 確かキャスリングを使用する際にどのくらいのDPがかかるか、表記されたから試してみればいいか。キャスリングのアイテムを召喚して、エリアを指定してみる。消費DPは、五十六DP……ん? 安くね? もしかしてクルーザーは移動できないのか?


 検証のために使用してみるしかないよな! ポチっとな。問題なくクルーザーも一緒にキャスリングされた。よっしゃ!


「ネル! よく思いついた! 今実験してみたけど、ダンジョンを移動させるのであってダンジョンの中にあるものは消費DPに含まれないみたいだ。ネルが気付いてくれなかったら、魔導エンジンだけ運んで、向こうでまたコーティングしなきゃいけなくなってたな! でかしたぞ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でまわすと、こすりつけるように頭を押し付けてきた。喜んでくれているようで何よりだ。後で何かプレゼントしよう、何がいいかな? 食べ物? お菓子やスイーツなら喜んでくれるかな?


「じゃぁ、海の近くまではいつも通り地下通路でつなげよう。そこであの船を出して魚人のいる島へ向かおう。そういえば、なんで人魚じゃなくて魚人なんだろうか? 会ってみれば何かわかるだろうから、今考えるのはやめやめ! 出発準備して新たな住人候補に会いにいくぞ」


 俺の掛け声に合わせて、みんなが準備を始める。今回の護衛は娘たち全員で行うことになっている。なので二〇〇フィートもあるメガヨットをベースにした船を出したのだ。チビ神の話なら


『チビじゃないって言ってるでしょ!』


 チビ神の話なら


『だからチビじゃないってば!』


 チビ神の話なら魚人の住む島までさほど距離はないだろうが、島に上陸できるとは限らないのである程度の生活空間を確保してあるのだ。それに住んでいるかもしれないという情報だけで本当に今も住んでいるかもわからないのだ。しばらく生活できるだけの環境は整えておくべきだろう。


 一時間もしないうちに準備が完了した。が、お昼の時間なので食べてから出発しよう。樹海から出るまでに五〇〇キロメートル、樹海から海までが二〇〇〇キロメートル程あるのだ。


 ちなみに樹海から海までの距離を知るためにエリア掌握を行ったがその際に東側へ伸ばし、その地点を起点に湖とつなげることにしたのだ。湖が完成してから気まぐれにこの大陸がどんな形をしているか調べるために海岸線をぐるっと掌握してみた。


 その結果分かったことが、掌握した地形を見た感じだとオーストラリアによく似た形だったがサイズは倍ほどの大陸という事がわかった。樹海は大陸の中心にあったので、東西にエリア掌握を伸ばすのではなく南北に伸ばしていれば、移動距離は七〇〇キロメートル程を短縮できただろう。


 ウォーホースに移動を任せるとはいえ二五〇〇キロメートルの移動距離だ。丸一日は移動に費やすことになるだろう。急がせる意味もないので、負担にならないレベルで走り続けてもらおう。


 出口付近に馬車置き場を作りウォーホースがくつろげる場所を作っている。そこで俺たちが戻るまでのんびりしていてもらおう。お世話役にブラウニーもつけて、おいしい物をたくさん食べさせてもらうといい。


 そういえば今まで気にも留めていなかったが、時速一〇〇キロメートル以上出ている馬車に乗っていて風を感じたことが無かったのはどうしてなのかを移動中にふと思ったのだ。


 風切り音も聞こえないし、馬車と通路の隙間が二メートル程あるがこれだけの質量が移動すれば風の流れが地下通路にできてもおかしくないのだが、今までに感じたことはなかった。娘たちに聞いてもわかるわけもなく、同行していたコバルトとブラウニーに尋ねた所回答が戻ってきた。


 ウォーホースは違うな、高速で移動可能な魔物たちは、例外なく風の属性を持っているとの事だった。魔法として発動するわけではないので、加護みたいなものだと考えてもらえば、わかりやすいというのがコバルトの談だった。


 早く動くためにはどうしても風の抵抗を受けざるを得ないが、風の加護があればそれを無効にできるらしい。原理はわからないが、その加護が働くと風の流れが一切生まれないとのことだ。ここに来ていきなりファンタジー要素がぶっこまれた。


 他にも火山地帯の魔物には火の加護があり、マグマ周辺の熱でも特に問題なく行動が可能になるようだ。上位の魔物になると、マグマの中を移動可能らしい。魔物が生物といっていいかわからないが、マグマの中を生身で移動できる生物がいるとは思わなかった。


 一日中一緒にいるわけで、しなければならない事もないので、空いた時間ができたという事はゲーム大会が始まるのは自然の流れだった。今回は一狩り行こうぜ! ではなく、探索と建築、戦闘を楽しむサンドボックス型の2Dアクションゲームだ。


 大画面で四人一組になって、どのチームがボスを多く倒せるかの競争が始まった。俺は三幼女組に混ざってゲームをすることにした。今回の功労賞のネルを俺の胡坐の上に座らせだっこしたような状態で両側にイリアとシェリルがくっついている状態でゲームをしている。


 三人に合わせてゲームをしていると和むな~木を切ってドングリが出ただけで喜んだり、力を合わせて家を作ると俺の隣の部屋を誰がとるか議論になったが最終的には、全員で同じ部屋でいいのでは? というところに落ち着いた。


 今回のゲーム大会はキャットピープルとフォックスロープの混合組、ライラ、ソフィー、ジュリエット、レミーたちが勝利していた。圧倒的な大差をつけていた。


 優勝者へのプレゼントは、俺が手作りしたアクセサリーの中から好きなものを選んでもらった。全員がお揃いのピアスを選んでみんなにうらやましがられていた。勝者へのプレゼントだからみんなに配るわけにはいかないけど、そのうち全員でお揃いの何かをプレゼントしよっか。


 翌日の昼頃、海へ到着した。様式美的にこれはやっとかないといけないよな!


「うっみだ~~~~~!!」

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