第168話 ディストピア発展の兆し

 新たに購入した奴隷二三七人、俺が購入したのが一二四人だったのでリンドが購入したのは一一三人か。一一三人のうち七十九人が農奴で残り二十四人が戦奴のようだ。俺が購入した奴隷たちは十八歳以下とその親に対して、リンドが購入したのは三十代位の農奴と戦奴が中心でその子供を一緒に購入した形だ。


 購入した奴隷と、老ドワーフ十人ブラウニー十五人、俺の御守りで幼女三人組を連れてヴローツマイン側の検問所にきている。地下通路に準備していた馬車十台とキッチン馬車に乗り込んでもらった。ブラウニーは体が小さく飛べるため、キッチン馬車で全員で作業しても問題ないという不思議空間になっていた。


 俺と三人幼女は別に準備していた馬車に乗り込む。普通の馬車より大きいとはいえ一台に二十四人ずつのるとさすがに窮屈だが、特に文句を言われることはなかった。馬車十台は連結させているため色々な会話が聞こえてくる。


「どこへ連れていかれるのか」「何をさせられるのか」「殺されたりしないのか」などなど不安を口にしているようだった。


 でもシェリル、イリア、ネルを可愛がっている姿を見ている親や子供からは、あんな服きれるのかな?等といっていた。戦闘メイド服だがそれでも仕立てのいいきれいな服だ。あこがれるのだろうか?


 移動中は特に何もなかったのだが、六時間にも及ぶ移動なので飲み物を出してあげたのだ。冷たい水にジャルジャンで手に入れた樹海果実の一つで甘いオレンジっぽいものを絞って果実水を出してあげたら、二三七人いる奴隷のうち、九割以上が涙を流して飲んでいた。


 たかが果実水なのに涙流すって、どんだけ虐げられてきたんだ。特に獣人たちは、味わうようにちびちび飲んでる。聖国のくそどもが、虐げて来たんだろうな……って国王ぼこるとか、国堕ししようとして問題ないのだろうか?


『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーーーン!』


 チビ神は呼んでねえし!


『失礼ね、せっかくあんたの質問に答えてあげようと思って出てきたのに、聞きたくないなら帰るわよ?』


 マジで? 聞くことないから帰っていいよ!


『え? ちょっと? 国王ぼこったり、聖国を堕とすつもりなんでしょ? それをしていいのか気になってたんじゃないの?』


 ん? 気になってたけど、チビ神にダメだって言われても止めるつもりないし、聞いても聞かなくても一緒じゃん? って思ったからお前に聞くことはない! それに何するのも自由って、きたときにお前が言ってたから止める事はしないだろ?


『グヌヌヌヌ……まぁいいわ、一つだけあなたに伝えとく。私たちは娯楽に飢えてるの、あなたたちが提供してくれる話題が私たちの娯楽になる。ここまで言ったらわかるわよね?


 あなたの作ってる街もライチェルの国王とのやり取り、聖国を堕とすといった発言、この世界を作ってから初めて出てきた話題だから、呼んだ私としては鼻が高いのよ! 本当にそれを成してくれたらあなたは英雄になれるわね!』


 ダンジョンマスターで英雄って、魔王勇者みたいな感じじゃね? 争わせるためにダンジョンマスターも勇者も呼び出す糞神共だもんな、こういったセンスがあんのか?


『なんとでも言いなさい、私たちは娯楽に飢えてるのよ! だから楽しませなさい! 言いたいのはそれだけよ、じゃあね』


 う~~ん、言いたいことだけ言ってどこかいきやがったな。ある程度予想はしていたけど、国堕としや国王ぼこっても問題なさそうだな。むしろここまで言ってやらないとかないわよね? って若干圧力かけてきたしな。そのうちやるつもりだったからいいだろう。


 さて、ディストピアに到着した。全員驚いてるな、特にドワーフは顎が外れそうだ。奴隷たちはここがどこで何をさせられるのか心配な様子だ。


「皆さん注目! ここは今建設途中の死海都市ディストピアだ。ドワーフの皆さんには、リンドとこの街の設計を任せている人と協力して建物の建設を中心に、農具や防具等の製作もお願いします。


 奴隷の方たちは、しばらく体調を整えた後、全員まず自衛のできるだけの技術を覚えてもらって、ダンジョンに入っても大丈夫なだけの知識と技術を身に付けてもらいます。ここでの食糧や資源の確保の要になる予定なので、頑張ってください。


 一応十人一組くらいでパーティーを組んでもらう予定です。訓練が終わったら、初めのうちは俺や先輩の冒険者たちについてダンジョンに入って色々学んで巣立ってもらう。で、戦闘に自信のない人は、農業や塩精製をしてもらう事になると思うのでよろしく頼む。


 色々な作業で知識が必要になってくることもあるので、勉強もしてもらうことになると思うので頑張ってほしい。最後にあなたたちは奴隷である以前にこの街の住人です。命を大事にしてください」


 ざわざわしていたが、最後の一言でその場がシーンとなった。その様子を見ていたシェリルたちに後で聞いたら


「私達も忘れかけてたけど奴隷の扱いってよくないの。特に戦闘を任される奴隷は死ねといわれているようなものなの。それなのに命を大事にしてほしいっていえばみんなびっくりすると思うの!」


 といっていた。


 十人パーティーは特に考えたわけじゃない。タンク三、ヒーラー二、シーフ一、アタッカー四位で組んでもらって安定して、食料と資源の回収をしてもらえると助かるんだよな。


 俺の命令でダンジョンに入ってもらうから死んでほしくはない、少し過保護になるだろうが保護対象だからな、ダンジョンの監視役も作って見守ってもらおう。ゴーレムで代用できればいいんだけどな、ちょっとプログラム考えてみるか。


 色々な説明をした後、昼食をビュッフェ方式で出そうとしたが、自分でとりに行くことを理解できない可能性があったので、大きめのランチプレートを準備して盛り付けているところに取りに行くように並ばせた。


 食事中は恒例ともなっている泣きながらの食事だ。料理を作るお母さま方や子供たちにも料理を覚えてもらおうか。ここでは植物ダンジョンから、調味料や香辛料もとれるから覚えてもらって損はないだろう。


 四日後にジャルジャンにいた保護していた名も到着した。この四日で俺の家の周りにドワーフ達が設計したこの街に似合う建物を召喚して、保護した九十二人と奴隷二二七人、老ドワーフ十人の住む家が完成した。


 さすがにドワーフに建ててもらうと時間がかかるので、今回は設計だけしてもらい俺が召喚した。設計が終わったら家具を作ってもらって各家にどんどん設置していく。いずれ住宅エリアの方へ引っ越しをしてもらうが、今は近い方が便利だからな。


 二週間後にはすべての家族が一緒に暮らせる家を作った。一階にキッチンやリビング、トイレを設置し、二階に部屋を二つ設置した2LDKの一軒家を同一規格で作成した。親のいない子たちは、四から六人のグループになって学生寮みたいな感じで生活してもらうところを作った。


 到着一ヶ月ほどはシルキーたちに食事を作ってもらい、学校の一階で食べてもらっていた。その間に料理の勉強、戦闘訓練、農業の知識、メイド・執事の修行を行っている。


 一定の期間が過ぎたら、フレデリクからキャスリングした商店や宿でシルキーたちの指導の下、各家で食べるパン等を主婦の人たちに焼いてもらい、大鍋でシチューなどを作って各家に持って帰って食べる形になった。


 そのうち各家で料理を作るようになれば、いい方向に進んでいくだろう。ダンジョンに入り始めれば、肉類が豊富になり食生活も豊かになるだろう。ダンジョン農園の野菜たちは、ヴローツマインにでも持って行って売りさばくか?


 ここまでやって一つ間違いに気付いた。ジャルジャンやヴローツマインに派遣するメンバーを全く考えていなかったのだ。修行も最終段階に入り、みんなもダンジョンで活躍する気が満々なのに、支部に派遣するのもな。


 ジャルジャンやリブロフに行って派遣専用の奴隷を購入してこないと。でも、聖国が飢饉ってことはヴローツマインや近くの中立都市にまた獣人の子たちが集まってくるか? 後でマップ先生で検索してみるか。

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