第155話 鉱山都市ヴローツマインへ出発
ジャルジャンの居残りは、新人組のパーティーを交互に待機させることにして、俺たちは一旦ディストピアに戻ってきている。ヴローツマインにも同じように地下通路を作るなら、新しく戦闘要員も補充しないといけないかな。
戻ってきたその日に街の名前を決めた事を居残りしていた奴隷一家の人達にこの街の名前が『死海都市ディストピア』に決まったことを伝えると、不満もなく……むしろ誇らしそうな顔をみんなでしていた。何が誇らしいのかよくわからないが、嫌がっていないようでよかった。
帰ってきて次にすることは決まっていた。ネルちゃんとの約束を果たすことだ。両親とネルちゃんを応接間に呼んでもらい、今後の話をすることにした。
「ネルちゃん、いらっしゃい。とっても頑張ってるみたいだね、ピーチたちに話は聞いたよ」
「ご主人様、ネルはね、シェリルちゃんやイリアちゃんとずっと一緒にいたいから頑張って修行してるんだよ! 早く二人や他の人とも冒険したいから……でも、先輩のだれにも勝てないの。もっともっと強くなりたいの」
おぉ、素手の格闘ならピーチとも互角以上に戦えるのに、まだまだ先を見ているのか。この世界の戦闘能力ってシュリみたいな特別を除けば、才能とか関係なしにやる気が一番有効なのか? 才能だって宝珠でスキルという形で発現させられるし、やはりやる気というのは大切なファクターなのだろう。
「ネルちゃん、お姉ちゃんたちはネルちゃんより、長い期間修行しているんだよ。そんなに簡単に追いつけるわけないよ。でもね、ネルちゃんの歳でそこまで強くなれたのは、まぎれもなくネルちゃんのヤル気のおかげだよ。
俺はその結果にすごく満足してる。だからネルちゃんを正式に、年少組のメンバーに加入してもいいと考えている。後はご両親とネルちゃん次第かな? 俺たちと行動を共にすると、お父さんやお母さんと会える時間が減るけど、本当にそれでも大丈夫かな?」
「私たちは、前にお伝えした通り、ネルの意見を尊重しようと思っています。奴隷になった身で自分の娘が自分で道を選べる機会なんてまずありません。だから私たちはご主人様に感謝しています。
この娘に冒険者の様な危険な職業とはいえ自分で選べる道を示してくれたことを、娘の成長をここで見ていける事を、ありがとうございます。ネル、君は自分で自分の道をつかみ取るんだよ、思ったように行動しなさい」
ネルちゃんは、両親の顔と俺の顔に視線を何度も往復させている。
「パパとママと離れ離れになるのはさみしいけど、一緒にいられる時間が減るだけであえなくなるわけじゃないから。私は、シェリルちゃんやイリアちゃんと一緒にいたい、傷を負っても治してあげたいの! 私の大切なお友達だから、だからご主人様、一緒に行かせて下さい!」
ん~ほんとにこの娘は八歳なのだろうか? 俺が八歳の頃って何してた? 親に隠れてこそこそゲームしてた気がする。長い時間やってると怒られるから隠れながら、それを考えるとこの世界の八歳ってすげえな、こういう環境のせいか思考が大人びている所があるしな。
それに比べ貴族の子供はただのわがままの塊だよな。中国の一人っ子政策でわがままな子供が増えた、みたいなこと昔新聞で見た記憶があるけど、あれって本当なのかな?甘やかされて育てばそういう事もありえるか。
「わかったよ、今から年少組の一員だ。最後に伝えておく。ネルちゃん、君には両親が近くにいるんだから適度に甘えてあげるんだよ。ディストピアにいる時はきちんと顔を出してあげるんだよ。シェリルたちとお話ししてた魔導具をご両親に渡してあげれば、離れている時でも声は届けられるから元気な声を聴かせてあげるんだよ」
はい! と大きな声で返事をして、荷物の準備を始めた。初めは両親と一緒でもいいかと思っていたが、ピーチや両親の話からそれは止める事にした。
これからは集団生活になるし、メイドの修行も本格化するため自立した方がいいと言われたのだ。八歳で自立か、もしネルが奴隷でなく俺が雇っていれば、戦闘能力を考えると各街の騎士団長と同じくらいの給金を出すべきなんだよな。
どのくらい払っているかしらないけどな。その戦闘能力を与えたのが俺という事を考えれば、そんなに払う必要はないかもしれないが、結局奴隷でなければ給料のいい方へ行くのは当たり前か。
「準備してる所悪いけど、明日から早速外出予定なんだ。鉱山都市ヴローツマインに行くから一緒に外出しよう。もちろんシェリルとイリアも一緒だよ。年少組に入ったお祝いということでよろしく」
ネルに明日からの事を報告し、俺は自分の屋敷に戻った。
屋敷の食堂では、次に誰が行くかの娘達会議が始まっていた。おぃおぃ、いくら会議しても連れて行くのは俺が決めるんだけど、これ従わないと色々問題が起こりそうだな。しょうがない、シェリルとイリアが入ってなかったら追加でねじ込めばいいか。
お? シルキーが用意してくれたクッキーがいつもと違うな。バタークッキーの様な感じがする。そんなに詳しいわけじゃないけど、今日は珈琲牛乳を頼んだのでいい感じに美味しく感じれた。
ほのぼのとしている中、娘たちの会議はヒートアップしていた。途中から全員が呼び出されたとはいえ、初めから行っていた娘達はやはりうらやましがられていた。
そんな様子を眺めていると足元に何かがふれた……ニコか、俺の足を上って膝の上に収まった。ハクがいないのでこのポジションにきたのだろう。嬉しい時の七光りを放っている。ぷにぷにとつついて遊んでいたら、娘たちの話し合いが終わったようだ。ピーチが報告に来た。
「ご主人様、今回の同伴は、私、シャルロット、サーシャ、ライラ、エレノア、マリア、ライムを考えていますが、どうでしょうか?」
あ、一応俺の意見聞いてくれるんだね。
「シェリルとイリアは連れていきたい。ネルが本格的に年少組に入るので、お祝いをかねて連れ出す予定だ。シュリがメンバーに入っていなかったから、アリスを連れてきたい。後、カエデも付いて行くからよろしく」
「カエデ様ですね、ドワーフの多い都市で鍛冶も盛んみたいですので行きたいのでしょう。了解いたしました。そのメンバーで行かせてもらいます。残ったメンバーはどうしますか?」
「特に何かをしろって事は無いかな。あえて言うなら今まで通りでいいかな。ガルドに素材を出してもらって生産系のスキルもあげておいてほしいかな。これはあまり強制したくないけど装備がよくなって損することは無いからね」
準備も終わり、次の日が来た。今回同行するシルキーは、スカーレットだ。娘たちが若干ピリピリしている気がする。スカーレットって怖いのか? 鬼教官でもしてたのだろうか?
まずは、ヴローツマインの位置を把握するために、あるといわれている周辺を掌握する。おろ? 掌握できないエリアが二ヵ所あるな。デカい建物……の下と東側の城門付近にあるな。まぁいいや、怪しまれない位置辺りまで地下道を掘っておこう。
「じゃあ出発しようか」
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